1. トップ
  2. ビジネス・マネー
  3. 資産1.5億の父。相続税対策で“アパート1棟”購入→1,000万の節税に成功するも…死後、遺された家族を襲った“遺産トラブル”

資産1.5億の父。相続税対策で“アパート1棟”購入→1,000万の節税に成功するも…死後、遺された家族を襲った“遺産トラブル”

  • 2026.7.5
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「うまく節税できて、本当によかった」そう満足げに語っていたお父様の対策が、亡くなったあと、まさか子どもたちを泥沼の争いに引きずりこんでしまいました。

今回は、節税には成功したのに、もっと大切なものを失ってしまったAさん一家のお話です。相続を考えるすべての人に、ぜひ知っておいてほしい教訓が詰まっています。

1,000万円の節税に成功した「はず」だった

Aさんのお父様は、資産およそ1億5,000万円の持ち主でした。結構な資産家ですよね。

生前、税理士のアドバイスを受けて、アパートを1棟購入。さらに、同居していた長男にまとまった現金を生前贈与しました。これによって相続税の評価額をぐっと圧縮し、節税額は約1,000万円。1,000万円も手元の資金が増えたわけですから、数字だけ見れば見事な「成功事例」です。

ところが、お父様が亡くなったあと、事態は一変します。遺産分割をめぐって、長女と次男が猛反発したのです(お父様は遺言書を残していませんでした)。「同居していた兄さんだけ、生前贈与でこっそり優遇されていたのでは?」「アパートなんて、収益も維持費もよくわからないし、すぐに売れるものでもない。こんなの公平に分けられない」と。話し合いはまったくまとまらず、遺産分割協議は2年も膠着。

最終的に、兄妹はそれぞれ弁護士を立てて家庭裁判所の調停へ。節税できた1,000万円と引き換えに、家族の絆も数年という時間も、数百万円の弁護士費用も失ってしまったのです。

「相続税対策」と「相続対策」は別物

「相続税対策」と「相続対策」。一文字違いですが、まったく意味が違うんです。

相続税対策は、文字どおり税額を減らすための工夫。一方の相続対策は、「誰に・何を・どう分けるか」を決めて、家族が揉めないように合意をつくること。お父様は前者に全力を注ぐあまり、後者をすっかり置き去りにしてしまったわけです。

しかも節税テクニックは、往々にして「分けにくさ」と「不公平感」を生みます。税理士が提案する案は、節税の面では合理的でも「感情」に配慮できていないケースがあります。

アパートのような不動産は、現金のようにきれいに3等分できません。特定の子への生前贈与は、ほかのきょうだいから見れば「えこひいき」に映る。基礎控除を増やすための養子縁組も、実子との関係に火種を残しがちです。節税のためのひと工夫が、そのまま争いのタネになってしまうんですね。

ちなみに、そもそも相続税が課税されるのは、亡くなった人のうち1割前後にすぎません。大多数の家庭はもともと非課税なんです。それなのに「とにかく節税!」と前のめりになって、かえって家族関係を壊してしまう。これほどもったいない話はありません。

どんな節税テクより「争続」を防ぐもの

では、家族が揉めないためには何をすればいいのか。特別なテクニックよりずっと地味で、ずっと効くものが「生前の家族会議」です。

元気なうちに、「誰に何を遺したいか」「なぜそう分けるのか」を本人の口から家族に伝えておく。生前贈与をするなら、その理由もオープンにしておく。Aさん一家の場合、長男への贈与が「こっそり」だったことが大きな引き金でした。最初から全員で共有していれば、印象はまるで違ったはずです。

次に、遺言書の作成です。手軽な自筆証書遺言もありますが、形式の不備で無効になるリスクもあります。確実性を重視するなら、公証役場で作成する公正証書遺言が安心です。そしてぜひ活用したいのが「付言事項」。これは法的な効力こそありませんが、「なぜこの分け方にしたのか」という気持ちを書き残せる欄。ここに込めた想いが、遺された家族の納得感を大きく左右します。

不動産が絡む場合は、「代償分割」という方法も有効です。たとえば長男が実家を相続するかわりに、ほかのきょうだいへ現金を支払って公平にする、という分け方です。

公平性を維持できるものの、支払う側に十分な現金がないと成り立ちません。そこで効いてくるのが生命保険です。受取人を指定した保険金は、この代償金の原資としてうってつけ。「分けにくい不動産」と「分けやすい現金」のバランスを、生前に整えられます。

このように、節税だけでなく感情面にも配慮し、遺族の納税資金までケアすることが相続対策です。税金対策は「相続対策の1プロセスに過ぎない」という点を、押さえておきましょう。

まとめ

節税できた=相続が成功した、ではありません。Aさん一家が失ったものを思えば、1,000万円の節税がいかに高くついたか、よくわかります。

本当に遺すべきは、税金を減らしたお金だけでなく、その後も穏やかに続く家族の関係そのもののはず。まずは「どう分けるか」を家族と話してみる。それが、どんな節税術にも勝る、いちばんの相続対策なのかもしれません。

出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」

出典:日本公証人連合会「遺言」

出典:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」

執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

 

の記事をもっとみる