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「年金が月5万円もカットされる」定年後に“再雇用→業務委託”を選択。数ヶ月後、60代男性を待ち受けていた“予想外の事態”

  • 2026.6.8
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。FPとして家計相談やお金に関する情報発信を行っている柴田です。先日、Aさん(65歳・男性)からこんな相談を受けました。

「現場で足首を骨折して3か月も働けなかったのに、労災も傷病手当金も一切もらえなかったんです。会社員のときなら全部出たはずなのに、なぜこんなことに……」

話を聞いて、私は思わず「うーん」と唸ってしまいました。実はAさん、ご自分で選んだ働き方が、この事態を招いていたんです。

「年金が月5万円カットされる」と聞いて

Aさんは65歳の定年を機に、会社から再雇用の提案を受けていました。

ところが、これを断って「業務委託契約」を選んだのです。理由は、知人から「フルタイムで働き続けると、年金が月5万円もカットされるらしいよ」と聞いたから。いわゆる在職老齢年金による年金カットですね。

在職老齢年金の適用を受けるのは、厚生年金に加入する場合です。厚生年金に加入しなければ、いくら働いて稼ごうが年金カットの対象外です。

Aさんは「働いて年金を減らされるなんて損だ」と感じ、会社と交渉して「雇用契約」の会社員ではなく「業務委託契約」の個人事業主として同じ仕事を請け負う道を選んだわけです。ところが、契約を切り替えて数か月後。現場で転倒し、右足首を骨折。3か月の休業を余儀なくされました。

そして会社に労災を申請すると「業務委託なので対象外です」。労務部門に傷病手当金の申請について相談しても「これは会社員向けの制度なので給付できません」。二重に断られてしまったのです。※

※名目が「業務委託(個人事業主)」であっても、実態として特定の会社の指揮命令下で従事していた(労働者性がある)とみなされる場合、労働基準法上の「労働者」として労災保険が適用される事例があります。

業務委託は「会社員の安全網」から外れる

業務委託に切り替えると何が変わるのか。ここが一番大事な部分です。会社員(雇用契約)であれば、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金という4つの安全網に守られています。ところが業務委託契約は「個人事業主」扱い。

労働者ではないため、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金から外れてしまうんです(国民健康保険に切り替わる。なお65歳以降は国民年金の強制加入対象外のため、国民年金保険料の負担は生じません)。具体的にどうなるか。業務中にケガをしても労災給付はゼロ。個人事業主が加入する国民健康保険には傷病手当金の制度がないため、働けない間の所得補償もゼロ。仕事を失ったときの失業給付もなし。さらに、万一亡くなったときに遺族が受け取る遺族厚生年金にも影響が出る場合があります。

Aさんが二重に断られたのは、まさにこの「安全網の外」に自ら出てしまっていたからなんです。月5万円のカットを惜しんで、いざというときの何百万円もの補償をまるごと手放していた。これでは本末転倒ですよね。

業務委託という選択そのものは悪くない

ここまで読むと「業務委託なんて選ぶべきじゃない」と感じるかもしれません。でも、筆者はそうは思いません。

実は、Aさんの当初の判断は合理的だったともいえます。契約を切り替えた時点では、まさか自分が骨折するなんて予測できていなかったわけですから。「年金が減らない働き方を選ぶ」という判断は、その時点では十分に筋が通っているんです。筆者自身も、Aさんと同じ立場だったら、業務委託契約を希望するでしょう。

大切なのは、業務委託にするなと言うことではありません。この制度の仕組みをきちんと理解したうえで、外れてしまう安全網に対して十分に備えられているかを、事前に確認しておくこと。預貯金で手当てさえしておけば、業務委託は十分に選ぶ価値のある働き方なんです。Aさんに足りなかったのは、判断ではなく「備え」だったんですね。

おわりに

Aさんのケースから学べるのは、「業務委託が悪い」ということではありません。問題だったのは、年金カットという目先の数万円にだけ目を向け、その裏で外れてしまう安全網に気づかないまま契約を切り替えてしまったこと。判断そのものではなく、「備え」が抜けていたことなんです。

60歳以降の働き方を選ぶときは、ぜひ確認してほしい点があります。まず、自分の場合に本当に年金カットが起きるのか。在職老齢年金は厚生年金に加入して働く人が対象で、給与と年金の合計が一定額を超えなければカットはありません。

働き方の選択は、年金額という一点だけでなく、社会保障全体を見渡して決めることが大切です。そして一度決めると後戻りしにくいので、判断に迷うときは社会保険労務士やFPに相談するとよいでしょう。


出典:在職老齢年金の計算方法(日本年金機構

執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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