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野性爆弾くっきー!が震えた『名無し』は“邪悪な見本の映画=邪見画”!? 「おもしろかったはずの佐藤二朗さんの顔のパーツがすべて怖く見える」

  • 2026.5.21

白昼のファミレスを襲った無差別大量殺人事件。防犯カメラには容疑者と思われる謎の男“名無し”=山田太郎に刺され、血を流して倒れる被害者の姿が次々に映し出されるが、男の手には肝心の凶器は見当たらない…。佐藤二朗が原作、脚本、主演を務めた『名無し』(5月22日公開)はそのあり得ない設定とショッキングな殺戮シーンが公開前から大きな話題となっている異色のサイコバイオレンスだ。

【写真を見る】同じ“表現者”として、佐藤二朗が原作・脚本・主演を手掛けた『名無し』をくっきー!はどう観たのか!?

佐藤はタッグを組んだ城定秀夫監督と、この凶行でなにを描こうとしたのか?理解できない人もいるかもしれないし、怒りを覚える人もいるかもしれない。そこで、俳優だけでなく映画監督や脚本家としての顔を持つ佐藤と同じく、芸人でありながらアートや音楽など多彩なフィールドでマルチに活躍する野生爆弾のくっきー!に“表現者”としての目線で本作をひも解いてもらうことに。自身の想いと狂おしい過去と重ね合わせながら、興味深い見解を示してくれた。

「死体の生々しい“乾血(かんけつ)はかなりリアルでした」

見えない凶器を持って人々を襲う山田太郎 [c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会
見えない凶器を持って人々を襲う山田太郎 [c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会

男の右手が触れた命あるものはすべて消え、死が訪れる。そして謎に包まれた動機――そんな過激な表現と特殊な世界観の本作だが、映画を観終わった時の率直な感想を聞くと、くっきー!は「オモロかったですね」と即答しつつ、「でも、(登場人物の)誰も救われないし、せつなさしか残らん。幼少期のシーンはずっと可哀想で、可哀想な奴が大人になっても、可哀想なままな映画ですね」と複雑な表情に。「(アクション映画などでは)相手を次々に殺していくシーンがスカッとする時もあるんですけど、それもなく、(重苦しい空気が)ドブンドブンと溜まったまま終わっていきますから、(その後味を)脳ミソには置いときたくはない。僕のなかでは“その瞬間を楽しむ映画”って感じでした」と述懐する。

冒頭の殺戮シーンでは特に戦慄したようで、「めちゃめちゃ怖かったです。女性が“名無し”にいきなり刺されるところは最初理解できんかったけど、彼女は“名無し”が右手に持っている凶器が見えないから(刺されることを意識することなく)平然と喋り続けているんですよね。その発想がスゴいし、めちゃめちゃ怖かった」と顔を強張らせる。

“名無し”が人を襲う動機については、佐藤二朗は明言を避けている。インタビューでは「神様から貧困なカードしか与えられなかった人も残念ながらたくさんいますからね。そんな神様を挑発しているつもり」とコメントしていたが、くっきー!は「神様に向かって『オマエ、そこにおるんやったら降りて来い!』と言っているようなことですよね」と噛みしめる。

「そこは非現実な表現なのに、殺戮シーンは超リアルな世界観で描いているから怖い。血の量や飛び散り方がスゴかったですもん。あと、浴槽に浸かった状態で死んでいる死体の血の乾いた感じが生々しくて。鮮血じゃなくて“乾血(かんけつ)”。いま作ったワードですけど(笑)、あれはかなりリアルでした」。

もちろん、くっきー!はその特殊な世界観も楽しんだようで「あそこ、好きでしたわ」と目を輝かせる。「放り投げてもらったキャラメルが、太郎が右手でつかんだために消えちゃうところ。あれはたまらんすね。“しもうた! 取る手を間違えた”って思ったでしょうね(笑)」。

日常の中に潜む恐怖を体現したくっきー! 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.
日常の中に潜む恐怖を体現したくっきー! 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.

そう振り返りながら「佐藤二朗さんのあの声も怖かったですわ」と口にし、「あれ、ずっと喋らんかったからああいう声になったってことですか? えげつなく喋らんし、声の出し方がわからんみたいなことなんかな? 実際はどうなるのか知らんけど、あんなカサカサの声になるんやっていうインパクトがあったし、そこらへんの感覚がスゴいなと思いました」と訴える。

「いままでコメディの佐藤さんばっか見てたんで」と続けるくっきー!は、「これまでのコメディの顔がすべて怖く見えますわ。ポチャっとした可愛い方やなと思っていたのに、コメディではおもしろかったはずの顔のパーツがこの映画ではすべて怖く見えるからやっぱスゴいっすよ」と、俳優としての佐藤を絶賛する。

「人との繋がりを切っていく太郎に照夫が言う『空は繫がっている』というセリフはすごく刺さりますね」

細かいシーンにも目を配り、独特な語り口で『名無し』を語るくっきー! 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.
細かいシーンにも目を配り、独特な語り口で『名無し』を語るくっきー! 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.

劇中では、幼い“名無し”に「山田太郎」という名前をつけた巡査の照夫(丸山隆平)が何度も言う「人はひとりじゃない」というセリフも印象に残る。これに対しくっきー!は「太郎は人との繋がりを逆に切っていく奴だから、巡査が口にする『空は繫がっている』なんてセリフもすごく刺さりますね」と語った。

「太郎のせいで、大切なメッセージもすべてご破産になる。人と人の繋がりの意味をなくしますやん」と前置きしたうえで、「それだけに、花子(MEGUMI)が太郎に『触って』っていうシーンがせつなくて。あれは“死にたい”ってことですからね」と語る。

「花子は太郎の能力を知っているし、太郎が名前を知っているものだけを消せることもわかっている。だからああいう言葉を発したと思うんだけど、あの時の佐藤さんの“泣き”のスピード感はエグかった。あの速さはコントやったら笑うてまうラインなのに、そのテンポでシリアスに見せるから驚きました」。

幼い“名無し”を発見した巡査の照夫 [c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会
幼い“名無し”を発見した巡査の照夫 [c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会

すべてのシーン、すべての芝居をクリエイターの目線で細かく見ていることが発言の端々から伝わり、「“名前を知っているものだけを消せる”というのはオモロい設定ですね。知っている者だけを殺めていける力なので、ただの無差別殺人じゃないんですよ」というくっきー!の言葉には説得力がある。「太郎があの特殊な能力を“殺人”という完全なる悪の所業に使うのは、いらない能力をもらってしまった反発なのかもしれないし、あの能力のせいで被った悲惨な過去のせいかもしれないけれど、そこは想像に委ねるしかない。でも、人と違った能力や変わった一面を持っていると、その要素がマイナスに働くような気がしますね」と言って唇を噛む。

幼いころの太郎と花子 [c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会
幼いころの太郎と花子 [c]佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ [c]2026 映画「名無し」製作委員会

なぜそう思うのか聞くと、「僕もやっぱ人と違うところが多くて、そのせいで悲しい想いをいっぱいしてきたんで」と思いがけない言葉が返ってきた。「僕、身長が180㎝あるのに、足のサイズは26.5cmですごく小っちゃいんです。でも、見た目のバランスを考えて28cmの靴を履いているから靴がもうガバガバで、すごいイジられて悲しい想いをしてきたんです(笑)」とくっきー!

「それこそ子どものころは色が白くて、目もくりくりしていたから『可愛い、可愛い』って言われていたんです。でも、家があまり裕福じゃなかったから、安い硬い肉ばっかり食べているうちに顎に栄養が行き過ぎていまの仕上がりになっちゃって…もう、笑うのやめてもらっていいですか!(笑)」と冗談を交えて笑い飛ばす。

「僕は自分自身が“表現”だから、表現ができなくなるなんてことはない」

佐藤二朗の印象が変わったと話すくっきー! 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.
佐藤二朗の印象が変わったと話すくっきー! 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.

意外だったのは、くっきー!が幼少期のころは「特に夢見ることもなく、なにかになりたいというビジョンもなくて。虫を獲ったり、秘密基地を作ったり、石を集めたりしながら、日々を楽しく過ごしていた」と、いたって普通の田舎の少年で、中学生の時にバンドブームだったから理由でバンドを始めたという。そこから音楽にのめりこみ、「音楽はいまでも楽しいですね。気づいたら、ソファでギターを爪弾いてますから。茶色い酒を飲みながらね。それがいちばんカッコいいですよ(笑)」とくっきー!は笑顔を見せる。

それでは、お笑いや音楽などの“表現”ができなくなったらどうするのだろうか? そう問うと「できなくなるなんてことはないんじゃないですか?」ときっぱり。「俳優さんはいろいろな人にならなければいけないし、その役のオファーがなければ表現できないけれど、僕の場合は自分自身が“表現”だから。やろうと思ったら土手でも河原でもできるし、商工会議所に人を集めてやってもいい。そういった意味では、俳優さんより楽に表現できる人間かもしれんね(笑)」と言い切る。

【写真を見る】同じ“表現者”として、佐藤二朗が原作・脚本・主演を手掛けた『名無し』をくっきー!はどう観たのか!? 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.
【写真を見る】同じ“表現者”として、佐藤二朗が原作・脚本・主演を手掛けた『名無し』をくっきー!はどう観たのか!? 撮影/河内彩 スタイリスト/チバヤスヒロ 衣装協力/ブルゾン・Tシャツ・総柄パンツ:VOO (ヴォー)、キャップ:THE H.W.DOG&CO.

そんなくっきー!に最後に改めて、本作を生み出した表現者としての佐藤二朗の魅力を語ってもらった。

「こことここのエピソードはこう繋がるんや~とか、この人はあの人やったんや~ということがあとから分かるミステリーのようなおもしろさもあるし、『こうなったらあかんよ』っていう見本…邪悪な見本の映画…『“邪見画(じゃみが)”』として観てもらってもいい。でも、やっぱり佐藤二朗さんがスゴいっすよ。美川憲一さんのような背筋がピンと伸びた人が“名無し”を演じて道行く人をド突いても迫力があるだろうし、神田うのさんのような可愛らしい人が殺戮を始めても怖いかもしれない。でも、佐藤二朗さんがやっぱりいちばんしっくりきますよね。少し前まではバイプレイヤーだったのに、いまは主演をバンバン張ってはるからヤベ~っすよ(笑)。次はいったいなにをやるんだろう? 不器用そうに見えてめちゃめちゃ器用だから、佐藤さんは本当にスゴいです」。

取材・文/イソガイマサト

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