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美食の町「岩瀬ガストロノミー」を旅する|富山の海の恵みに酔いしれる、 至福の3軒へ

  • 2026.5.13
撮影=阿部 浩

北前船で栄えた港町で、日本酒と美味逍遥

江戸後期から明治にかけて北前船の寄港地として栄えた富山・岩瀬。豪商の町並みと日本酒の酒蔵が残るこの歴史地区は現在、日本料理に寿司、蕎麦やフランス料理など、多彩な食体験が楽しめる町として進化を遂げています。世界のシェフやグルマンも足を運ぶ“美食の町”のいまを巡ります。

旅する人
猪本典子さん[デコレーター]

案内する人
桝田隆一郎さん[「桝田酒造店」五代目]

“まずは、日本酒から飲まれませ!”―桝田隆一郎さん

大町新川町通り、軒先に下がる杉玉が目印。立ち飲みで楽しむ日本酒バー「桝田酒造店 沙石」へと猪本さんを案内する桝田さん。 撮影=阿部 浩

富山駅から船に揺られて岩瀬へ。豊かな幸と日本酒に開眼

船に乗りたい、そんな悠長な気分になるのも旅行中ならでは。富山駅近くから富岩運河を下るソーラー船に乗り、岩瀬地区へと向かう。まあ船旅といってもほんの短い時間だが、河岸の柳の枝が揺れ、水面の水鳥が飛び立つ姿などに旅情はそそられますよ。

運河にかかる岩瀬橋からの眺め。取材日は雲に覆われていたが、天気がいい日は、立山連峰が見える。 撮影=阿部 浩

北前船の寄港地として栄えた岩瀬。越中の北前船は米や酒、薬などを北海道へ運び、帰路には昆布を積んで日本海沿岸や関西各地で販売しながら戻ってきたとか。まだ北前船という呼称がない江戸時代にはバイセン(片道で元が取れ、往復すれば倍の利益を生むなどの説)と呼ばれ、昆布の食文化が富山に根付いた所以だ。

船を降り、町を歩き出すと灰色と茶褐色の縞模様の道が続く。ユニークな塗装ではなく、きっと雪国ならではの消雪パイプの地下水による影響だ。海が近く、塩分や鉄分が多く含まれているのだろう。

「沙石」のある通りにさしかかると縞模様は消え、様相は一変する。電柱がないからか、元廻船問屋の家並みが整然としたパースを描いて、なんだか時代を錯誤してしまいそうなほどに。この町並みの美観を保ち、そして面白くしようとしているのが、「沙石」を運営する桝田酒造店の五代・桝田隆一郎さん。その桝田さんに、「沙石」での唎酒のご案内をお願いした。

「沙石」のカウンタ-にて日本酒を飲み比べ。酒粕漬けの干しホタルイカと「満寿泉」の純米酒がよく合う。 撮影=阿部 浩

まず飲んでみたかったのはシャンパーニュ・ハウスのアンリ・ジローと満寿泉のコラボレーション大吟醸。「それならこういう順番ちゃ」と並べてくださった順にくいくい、富山弁ってチャーミングな響きですね。

ようやくアンリ・ジローを飲む頃には、すでに顔は真っ赤っか。しかし口にしたそのお酒は、オーク樽の淡い渋さに酸味も混じり、また盃はすすむのであった。

イラスト=猪本典子

「ひいおばあさんの家だっちゃ」という「沙石」やお隣の「御料理 ふじ居」、反対側に面する「ピアット スズキ チンクエ」は裏庭で繫がっている。そこには猫に見える虎?が彫られた小さな石柱があり、三軒をにこやかに見守っているのかもしれませんね。

虎のような姿が彫られた蹲(つくばい)。前田藩の御落胤が家に入られた際、下賜されたと伝えられる。 イラスト=猪本典子

昼下がりの酔っ払いが通りに出ると、大きく広がる空をトビが旋回し、黒瓦の上ではヒヨドリがイーヨーイーヨと鳴いている、私も鳥も街ものどかである。

「御料理 ふじ居」で使われる昆布も、北海道は礼文島の香深浜(かふかはま)産だ。あの深く息を吸い込むように味わった白海老真薯の出汁も、この香深昆布と削りたての木枯節でひいた一番出汁。透明度が高く、クリアな出汁が取れる香深昆布は、白海老など色付けしたくない繊細な食材には適している。白海老の季節のうちに、またうかがいたいな。

初夏の夕暮れ、出格子からの灯りに誘われ、「魚津群(うおづぐん)ねんじり亭」の戸をくぐる。ご主人の三浦さんが黙々と、しかしにこやかに刺身を造る姿は本当に楽しそうだ。富山湾には500種類もの魚が生息するそうで、図鑑片手に解説をしてくれる娘の幸恵さんといい相棒ですね。

撮影=阿部 浩
産卵のため富山湾にやってくるほたるいかは、メスはふっくら、オスは華奢で痩せている。 イラスト=猪本典子

早朝、岩瀬港で獲ってきた生きているほたるいかを見せていただき、初めて目にしたその泳ぐ姿のかわいらしいこと。 富山の魚と日本酒を堪能した頃、桝田さんが店へ現れ、カレーを注文される。スパイシーなカレーまであるとは。

外に出るときれいな月が出ている。芭蕉の「川舟やよい茶よい酒よい月夜」はこんな気分なのか。私なら本歌取りで「川舟やよい肴(な)よい酒よい午睡(ひるね)」といったところだろうか。

イラスト=猪本典子

多彩な味わいを飲み比べ立ち飲みスタイルの日本酒バー

桝田(ますだ)酒造店 沙石(させき)[日本酒バー]

左から順に試飲。「満寿泉 純米」は落ち着く味わい、「プラチナ搾り」は瓶詰めの日付がラベルに書かれている。棚田米イセヒカリを使った純米大吟醸「土遊野」は無濾過の生、アルコール度数12%の「Pero」、シャンパーニュ樽に寝かせた純米大吟醸「満寿泉×アンリジロー」、貴醸酒を仕込む際にさらに貴醸酒で仕込んだ、とろりと甘く黄色い「貴醸酒×貴醸酒」。 撮影=阿部 浩

2019年開店。「満寿泉」の銘柄約100種類のなかから、木升代220円と酒代200~500円を別途会計するコース、15分1,500円(上限8杯)、30分3,000円(上限15杯)など、3つのコースから選んで日本酒を楽しむことができる。「満寿泉 大吟醸 寿」の古酒やフローズン貴醸酒、「有峰ダム貯蔵酒」の4年熟成酒など、珍しい日本酒にも出合える。

「沙石」で販売している日本酒の試飲用の升。お土産にもおすすめ。 撮影=阿部 浩

DATA
木升220円、1杯200円~、おつまみ3種盛り合わせ300円ほか
営業時間/10時~18時
定休日/火曜
tel.080-2962-6683
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町93

桝田酒造店 沙石

富山ならではの旬素材を端正なひと皿で味わう

御料理 ふじ居[日本料理]

「御料理 ふじ居」の富山産桜鱒の寿司。しっとりとした塩締めと香ばしさが口の中で広がる炙りの2種。新緑を思わせる十二代樂弘入の葉の皿に盛って。酒米でなく、食用の有機棚田米で造られた「満寿泉(ますいずみ) 純米大吟醸 土遊野(どゆうの)」とともに。 撮影=阿部 浩

富山市で鮮魚店を営む家に生まれた店主の藤井寛徳(ひろのり)さんが地元富山に戻り店をもち、その後岩瀬へ移転したのは2019年のこと。藤井さんが京都・祇園での修業時代、その店のご主人から室礼や器のこと、料理の心意気を大いに学んだ。地の食材や近隣の工芸作家の作品が、上方好みと相まって、静かに深まっていくような趣がある。

鮮やかなてっせんの蒔絵椀の蓋を開けると、湯気の中から白海老の真薯が現れる。旬を味わうひと椀。 撮影=阿部 浩
カウンター越しの日本庭園は木々の青さや石、流水が清々しい。カウンターの庇(ひさし)には日光東照宮の杉が使われている。 撮影=阿部 浩
撮影=阿部 浩

DATA
コース33,000円~
営業時間/12時~15時(一斉スタート)、18時~22時(19時最終入店)
定休日/月・第3火曜
tel.076-471-5555
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町93

御料理 ふじ居

富山の海を知り尽くした店主が見せる“魚介劇場”

魚津群(うおづぐん)ねんじり亭[割烹]

甲羅に盛ったゆで毛がに。甘みがあって、蟹味噌の味も濃い。ガラスの皿と猪口は安田泰三作、オリジナルの青い瓶入りの日本酒と。 撮影=阿部 浩

魚津の人気店が2022年に岩瀬へ。店主の三浦幸雄さんと娘の幸恵さんが二人で切り盛り。先付けの黒そい酒粕漬けに食欲が強く刺激されると、「富山は魚種が豊富なのが魅力」と十数種類の刺し身がひと切れずつ出される。

きつねめばると聞けば、娘の幸恵さんが魚津水族館の図鑑を開くホスピタリティ。豊富な富山の魚介のおいしさを実感する店。

ひと切れずつ出される刺し身は、めじな、ちかめきんとき、黒そい、しまぞい、真鯛、白がれい、ほうぼう、えびす鯛、かながしら、あじ、石鯛、たぬきめばる、きつねめばる、いずかさごなど。能登の塩とヒマラヤ岩塩などのブレンドや山葵で。 撮影=阿部 浩
右上から時計まわりに、ホタルイカ塩漬け、ズッキーニ揚げ出し、スズキの南蛮漬け、ブロッコリー塩麴漬けの前菜、ほうぼうの卵、紅クルリ柚味噌がけ。 撮影=阿部 浩
先ほどまで泳いでいたほたるいかのボイルは、ゆで汁にも爽快な旨みがある。 撮影=阿部 浩
店内に灯りがともれば、出格子からカウンターの様子もちらりとうかがえる。大町新川町通りの夜も風情がある。 撮影=阿部 浩
撮影=阿部 浩

DATA
コース夜15,000円~ ※要予約
営業時間/18時~22時(一斉スタート)
定休日/月曜
tel.070-9196-2833
Google mapで確認
富山県富山市東岩瀬町136

魚津群ねんじり亭

撮影=阿部 浩 取材・文・イラスト=猪本典子 編集=吉岡尚美 沼田凜々子(ともに本誌)

『婦人画報』2026年6月号より

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