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悪口をよく知っている人ほど、実は「言語能力が高い」傾向

  • 2026.5.11
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

「悪口ばかり言う人は、語彙が少ないから乱暴な言葉に頼っている」

そんなイメージを持ったことがある人は多いかもしれません。

たしかに、会話の中で罵り言葉や下品な言葉が多いと、「もっと他の表現はないの?」と感じることもあります。

しかし、この直感は必ずしも正しくないようです。

米マリスト大学(Marist College)の先行研究では、悪口や汚い言葉を多く思い出せる人ほど、一般的な単語を思い出す能力も高い傾向が示されているのです。

目次

  • 「悪口が多い人は語彙が少ない」は本当なのか?
  • 悪口をよく知っている人の「性格特性」とは?

「悪口が多い人は語彙が少ない」は本当なのか?

日常会話では、罵り言葉を使う人に対して「教養がない」「言葉を知らない」「自制心がない」といった印象が向けられがちです。

この背景には、悪口や罵り言葉は、適切な表現が思いつかないときの“逃げ道”だという考えがあります。

例えば怒ったとき、細かく状況を説明できないから、とりあえず強い言葉で感情をぶつけているように見えるわけです。

しかし、人間の発話の仕組みを考えると、単語が出てこないときに人はすぐ罵り言葉を出すわけではありません。

多くの場合、「ええと」「あの」などのつなぎ表現を使ったり、少し黙ったりします。

そこで研究チームは「罵り言葉を使う人は語彙が少ない」という、いわば“語彙不足仮説”を実験で調べることにしました。

彼らが使ったのは、心理学でよく用いられる「言語流暢性」の課題です。

これは、制限時間内に指定された条件に合う単語をできるだけ多く挙げてもらうテストです。

例えば「Fで始まる単語をできるだけ多く言ってください」と指示すると、語彙が豊富で、言葉を素早く取り出せる人ほど多くの単語を出せます。

研究では、この標準的な単語課題に加えて、「動物の名前をできるだけ多く挙げる課題」と、「罵り言葉やタブー語をできるだけ多く挙げる課題」が行われました。

最初の実験では、43人の大学生が一人で部屋に入り、録音機に向かって回答。

参加者は、F・A・Sの各文字で始まる単語を1分ずつ挙げ、その後に動物名とタブー語についても同じように回答しました。

すると、結果は一般的なイメージとは逆でした。

普通の単語を多く挙げられる人ほど、動物名も多く挙げられ、さらにタブー語も多く挙げられる傾向があったのです。

つまり、罵り言葉を多く知っていることは、語彙が貧しい証拠ではありませんでした。

むしろ、心の中の言葉の引き出しが広く、そこから素早く取り出せる能力と結びついていたのです。

悪口をよく知っている人の「性格特性」とは?

さらに別の実験では、126人の学生を対象に、性格特性との関係も調べられました。

その結果、タブー語を多く挙げられる人は、ビッグファイブ性格特性のうち「神経症傾向(ネガティブな思考や感情が起きやすい性格)」や「開放性(好奇心が強く、新しいものに積極的である傾向)」と正の相関を示し、「協調性」や「誠実性」とは負の相関を示しました。

これは、感情反応が強い人や、新しい表現に開かれた人ほどタブー語を思い出しやすく、協調性や慎重さが高い人ほど少なめになる傾向があるということです。

また、男女差は大きくありませんでした。

男性と女性が挙げたタブー語の上位語は非常によく似ており、少なくともこの課題では、女性が特に罵り言葉を知らない、あるいは男性だけが多く知っているという結果にはなりませんでした。

重要なのは、ここでいう「悪口」には、特定の集団を傷つける差別的な中傷語よりも、感情の爆発として使われる一般的な罵り言葉が多く含まれている点です。

実際、参加者の回答は少数の一般的なタブー語に集中しており、特定集団を標的にした差別・中傷語は比較的少なかったとされています。

つまり、この研究は「差別語をたくさん知っている人ほど言語能力が高い」と言っているわけではありません。

示されたのは、タブー語もまた人間の語彙体系の一部であり、それを多く思い出せる人は、一般的な語彙を取り出す能力も高い傾向があるということです。

悪口や罵り言葉は、上品な言葉ではありません。

しかし、それらを知っていること自体は、言葉を知らない証拠ではなく、むしろ語彙の広さを映す一面だったのかもしれません。

もちろん、心の中に言葉があることと、それを実際に誰かへぶつけることは別です。

豊かな語彙は、相手を傷つけるためではなく、感情をより正確に扱うためにこそ使いたいものです。

言葉の引き出しが多い人ほど、その中からどの言葉を選ぶかが、より大切になるのです。

参考文献

A robust vocabulary of curse words signals strong verbal fluency
https://www.psypost.org/a-robust-vocabulary-of-curse-words-indicates-strong-verbal-fluency/

元論文

Taboo word fluency and knowledge of slurs and general pejoratives: deconstructing the poverty-of-vocabulary myth
https://doi.org/10.1016/j.langsci.2014.12.003

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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