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闇は光より速い――光速を超え無限大へ向かう「特異点」を発見

  • 2026.5.5
闇は光より速い――光速を超え無限大へ向かう「特異点」を発見
闇は光より速い――光速を超え無限大へ向かう「特異点」を発見 / Credit: Technion – Israel Institute of Technology

真空中での光の速さは、秒速およそ30万キロメートル。

物理学が100年以上にわたって「これより速いものは存在しない」と断言してきた、宇宙の絶対的な制限速度です。

ところが世界最高峰の科学誌『Nature』に、その絶対をひっくり返すような論文が掲載されました。

イスラエル工科大学(Technion)のイド・カミナー教授らのチームが、光波の中に存在する多数の「暗闇の点」を直接観測したところその平均速度は、秒速約3億1200万メートル、つまり真空中の光速の1.04倍だったのです。

また全体をみると観測された闇のうち29%が光速を突破していました。

しかも、ある瞬間を切り取ると、速度は理論上は闇の速度が無限大に向かって発散しているということです。

この現象は、1970年代以来、マイケル・ベリーらの一連の理論研究で予測されてきたものでした。

彼は今回の研究で観測された闇のような存在について、光そのものよりも速く動く瞬間があり、しかも消滅の直前には速度が無限大に向かって発散する――そう理論的に予言していました。

それから半世紀。実験技術がようやく追いついて、理論の予告状にしるされた現象が、ついに人類の目の前に姿を現したわけです。

しかも研究チームは、平然と「アインシュタインの理論は、何ひとつ破れていません」と言いました。

なぜ闇の点は光の速度を超えてもアインシュタインの相対性理論を破らなかったのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年3月25日に『Nature』に掲載されました。

目次

  • 「光が遅くなってるだけでしょ?」というオチではない
  • 超光速の闇は光から生まれていた
  • ペアで生まれて、ペアで死ぬ――特異点の掟
  • 闇のが光の速度を超え無限大になる瞬間
  • 遅い波だからこそ、速い闇が生まれる

「光が遅くなってるだけでしょ?」というオチではない

この手のニュースを読み慣れた方なら、こう疑うかもしれません。

「変な素材の中で光が遅くなってるだけで、そんなノロノロ状態の光を追い越してもたいした話ではないのでは?」

確かにそのようなケースは存在します。

たとえば水の中の光速は、真空中のおよそ75%(光速の0.75倍)。

だから理論上は、水中を光速の80%で進む粒子は「水中の光より速い」と言えるのです。

じっさい高エネルギー物理の実験では、このような光速の追い越しが起きたときに青白い光(チェレンコフ光)が出ることが知られています。

しかし今回は違います。

研究者たちが計測機器で実際に測定を行い、暗闇の点の速度が、真空中の光速cそのものを上回ったという結果が得られたのです。

研究ではまず六方晶窒化ホウ素(hBN)という薄い結晶が用意されました(以下「窒化ホウ素」と呼びます)。

窒化ホウ素はグラフェンの親戚みたいなシート状の素材で、この中では光が素直に光のままでは進めません。

光の波が結晶に飛び込むと、結晶の原子たちが揺さぶられて、光と原子の振動が混ざり合った「光と音のハーフ」のような波が生まれます。

これを「フォノンポラリトン」と呼び「光と原子振動の合いの子」のような存在です。

このポラリトンはとても面白い性質を持っています。

光がポラリトンになると、真空中の光速の100分の1ぐらいまで減速するのです。

「やっぱり減速した光の話しじゃないか?」

と思うかもしれませんが、本論文の数値を見ると、そうじゃないことがわかります。

このとき、ブレーキのかかったポラリトンの波の中に「闇」が生じます。

研究チームはこの暗闇の点の速度を測定したところ、その平均速度は、真空中の光速 c の1.04倍であることが実験的に確かめられたのです。

つまり、素材の中で減速した光を抜いただけではなく、暗点の速度としては、真空中の光速cすら上回っていたのです。

さらに複数の闇たちをまとめてみると、全体の29%が、堂々と c を突破した超光速状態にありました。

研究チームが理論計算で確かめたところ、もし真空中で同じ実験をしていたら、暗闇の点のうち光速を超えるのはわずか0.4%しかなかったはずだそうです。

「真空でも、ごくまれにそういう瞬間は起きうる」という意味です。

これも驚きですが窒化ホウ素という素材の中だと、それが29%まで跳ね上がり実に70倍以上に増えていたのです。

素材の中で光がのろのろ進んでいるはずなのに、その内部に発生する暗闇の点はかえって激しく光速を超えてしまう――つまり薄い窒化ホウ素の結晶は、暗闇の点の超光速イベントを「増幅して見えやすくする装置」として働いていたわけです。

ちなみに過去にも、超流体(絶対零度近くで摩擦ゼロになる液体)や超伝導体、台風みたいな流体の渦の中で、似たような「加速」は観測されていました。

でもそれらは全部、光速の手前で止まっていたのです。

位相特異点が光速を超える瞬間を時空間で直接観測したのは、今回が史上初。

ではこの「暗闇の点」、いったい何者なのでしょうか。

超光速の闇は光から生まれていた

超光速の闇は光から生まれていた
超光速の闇は光から生まれていた / 実際の測定画像。色が波の位相の値(角度)を表しており、青と橙の渦巻き模様の中心に、プラスやマイナス入りの〇で囲まれた箇所が「暗闇の点」=位相特異点。3フェムト秒刻みで撮影された12フェムト秒分の連続スナップで、暗闇の点が現れたり消えたりする様子が捉えられている。/Credit: Bucher et al., Nature (2026)

今回の研究で超光速が実験的に実証された闇の正体はある種の特異点でした。

正式には位相特異点と呼ばれる存在です。

特異点というと、ブラックホールの中心にあるものというイメージがあります。

ブラックホールの特異点というのは、その名のとおり、宇宙でいちばん「物理が通用しない場所」です。

ブラックホールの中心では時空の曲率が無限大になり、密度も無限大になり、すべての法則が破綻します。

既存の物理法則が通じない特異な存在、それがブラックホールの特異点です。

しかし位相特異点はそれとは異なります。

位相特異点そのものは、質量を持つ粒子ではなく、エネルギーや情報を運ぶ信号でもありません。だから、光速を超えて見えても因果律を破らないのです。

また出現の仕方も異なります。

ブラックホールは重力崩壊によって起こります。

一方で、位相特異点は、複数の光の波が干渉し合って、ある場所で振幅がゼロになり、その周りで波のリズムがぐるりと巻くときに生じます。

このとき、山と谷の打ち消し合いが起こると、光の「波」としての振れ幅(振幅)がゼロになり、光の強度もゼロになります。

もし周りが光の波で満ちあふれている空間の中でこれが起きると、そこだけぽつんと「暗闇」になるのです。

振幅が0の光の波とその周りに振幅が0でない光の波があって両方が目にあたったとき、振幅が0の光は本当に暗く見えます。
振幅が0の光の波とその周りに振幅が0でない光の波があって両方が目にあたったとき、振幅が0の光は本当に暗く見えます。 / Credit:Canva

わかりやすい例だと、ノイズキャンセリング・イヤホン。

あれは外の騒音に対して「ぴったり逆向きの音波」をぶつけて、わざと波を打ち消し合わせる仕組みで動いています。

山と谷をぴたりと重ねれば、波は消える。だから周りはうるさいのに、耳元だけ静かになのです。

光でも、まったく同じことが起きます。複雑に重なり合った光の波たちが、ある一点で偶然きれいに打ち消し合うと、その一点だけ、本当に真っ暗になる。光のプールの中に、ぽっかり黒い穴が開いたみたいになるのです。

ただそれだけでは「特異」と名前が付くほどではありません。

特異点と呼ぶには「その点では、何かがうまく定義できない」という性質を持つ必要があるからです。

位相特異点が特異点と呼ばれるのは、波として必須なサイクル「位相」がわからなくなるからです。

たとえば月の満ち欠け。新月から満月へ、満月から新月へと、月は約30日でぐるっとサイクルを一周します。誰かに「今夜の月はどの段階?」と聞かれたら、「満月」とか「三日月」と答えられます。

これがまさに月の位相です。実は英語でも、月の満ち欠けのことをムーン・フェイズ(月位相)と呼びます。

光の波も、これと同じです。波の山にいるなら「位相は0度」、ちょうど真ん中まで降りたら「90度」、谷の底にいるなら「180度」、また登って山に戻ったら「360度(=0度)」――というふうに、波のサイクルのどこにいるかが角度で表せます。

ところが、波の振幅がぴったりゼロの場所では、そもそも山も谷もありません。

「山も谷もない場所で、いまサイクルのどの段階にいる?」と聞かれても、答えようがない。

月でいえば、空に月が一切見えない場所で「今のムーン・フェイズ(月位相)は何?」と問われているようなものです。問いそのもの、位相という概念そのものが成立しません。

ブラックホールの特異点は既存の物理法則の概念が成立しなくなります。

一方で位相特異点は位相という概念が成立しなくなるのです。

これが闇の正体です。

光の波の中に出現する、位相という概念だけがそこで決められない暗点というわけです。

そしてブラックホールが無から出現しないように、闇(位相特異点)も無からは出現しません。

位相特異点という闇が生じるにはまず光が必要だからです。

今回の研究では、1970年代の予測を確認するために、この闇を追いました。

ペアで生まれて、ペアで死ぬ――特異点の掟

暗闇の点の速度分布(赤い線)と、比較対象である粒子の速度分布(黒い点線)。横軸は速度(光速cで割った値)、縦軸は確率密度。黄色く塗られた領域が「光速を超えた領域」で、暗闇の点の分布は、ここまで明確に裾を伸ばしている──全体の29%がこの領域に入る。一方、粒子の分布はこの領域にほぼ届かない。「暗闇の点は粒子のように見えるが、速度だけは粒子の真似をしない」という、論文の核心を一目で示すグラフ。/Credit: Bucher et al., Nature (2026)

先に述べたように、今回の観測の舞台となった薄い窒化ホウ素の結晶です。

研究者たちはここに光を当てます。

すると位相特異点と呼ばれる闇が複数出現します。

そこで研究者たちは、追跡のための観測装置を組み上げ、髪の毛の太さの約3分の1ほどの極小の視野の中で、約50個の暗闇の点を同時に追跡することに成功しました。

この観測装置の性能は凄まじく、3フェムト秒(1秒の300兆分の1)刻みの精度で、暗点の動きを捉えられます。

3フェムト秒というのが、どれぐらいの短さかというと、真空中の光ですら、その間にわずか0.9マイクロメートル(人間の細胞より小さい距離)しか進めないぐらいの一瞬です。

このとき、闇はどのくらい動いていたのでしょうか?

すると意外な姿が見えてきました。

闇の点たちは暗闇の点には「右巻き、左巻き」の2種類があったのです。

身近なたとえで言うと、頭頂部のつむじ。つむじには右巻きと左巻きがありますよね。あれと同じだと思ってください。

ただ現れ方に奇妙な特徴がありました。

空間の極めて近い2か所に、新しく『振幅ゼロの点』が同時にひょっこり現れると、その2つの点のうち、片方が右巻きの中心、もう片方が左巻きの中心として生まれる――という感じです。

さらに右巻きと左巻きの特異点(闇の点)たちは、基本的に同じ数だけ生まれて、同じ数だけ消えていくということを繰り返していました。

何もない状態から渦が生まれるなら、合計の「巻き」がゼロのままでなければならない――私たちの宇宙にはそういう保存則があります。

そして空間がなめらかに繋がり、波が波として連続的に存在するこの宇宙では、この法則は破られないようになっているのです。

右巻きだけ、左巻きだけが安定して増えるわけではなく、通常は全体の巻きのつじつまが保たれるように現れるのです。

ここに「なぜ?」という疑問が浮かぶかもしれません。

実はこの先は、物理学が答えを持たない領域です。

渦は逆向きペアでしか生まれない
↓ なぜ?
連続性が保たれなければならないから
↓ なぜ?
波がなめらかに存在できなくなるから
↓ なぜ?
宇宙の物理法則がそうなっているから
↓ なぜ?
こめんなさい、わかりません

「波が連続的に存在する宇宙だから、こういう法則が成り立つ」と説明することはできても、「なぜ、波が連続的に存在する宇宙なのか」を問うと、物理学はそこで沈黙してしまうのです。

ファインマンが「磁石が反発するのはなぜですかと聞かれても、それより深い説明はないんです」と言ったように、宇宙の法則は最終的にどこかで「そういうものなんだ」という地点にたどり着きます。

本論文の特異点が従う掟も、その最も深い場所に近いところに根を持っているのです。

さて物理法則の深淵を覗いたところでいよいよ本題です。

闇のが光の速度を超え無限大になる瞬間

闇が光の速度を超え無限大になる
闇が光の速度を超え無限大になる / 2つの暗闇の点が出会って消滅するまでの9フェムト秒を5コマで切り取った画像。最初のコマでは「v<c」(光速以下)の文字が示すように、2つの点はゆっくり近づいているだけだが、後半のコマでは「v>c」(光速超え)に切り替わり、最後の瞬間、2つの点は重なって消える。上段は実験、下段はシミュレーションで、実験結果とシミュレーションが一致していることもわかる。/Credit: Bucher et al., Nature (2026)

そしてここで、本論文が捉えた最も劇的な瞬間がやってきます。

光の中に生まれた振幅ゼロの逆向きのつむじが、お互いを引き寄せ合うように近づいていったのです。距離が縮むにつれて、両者の相対速度はぐんぐん上がっていきます。

そして衝突して消滅する直前の最後の数フェムト秒、速度は理論的には無限大に向かって発散します。

論文の図2には、その瞬間がはっきり写っています。最後の約9フェムト秒のうち、前半は光速未満で動いていた2つの闇の渦の距離が、後半になると爆発的に加速し、最後の数フェムト秒で光速を突破します。

そしてさらに距離がゼロに近づく瞬間、速度は理論上、無限大に発散します。

「ここで「光速を突破」「無限大に発散」と聞くと相対性理論に違反するのでは?」と思うでしょう。

しかしアインシュタインの特殊相対性理論を詳しくみてみると「光速を超えるな」と命じているのは、実はすべてのものに対してではないのです。禁止されているのは「エネルギーや情報や物質を運ぶもの」だけです。

なぜか。理由はとてもシンプルで、もしエネルギーや情報を持った何かが光速を超えると、原因と結果がひっくり返ってしまうからです。

光速を超える信号があれば、それを使って「未来から過去へメッセージを送る」ことが原理的に可能になり、「タイムマシンで過去の自分にメッセージを送って事故を防ぐ」みたいなパラドックスが起きてしまう。

宇宙が因果関係を保てなくなる。だからアインシュタインは「これだけは禁止」と封印したのです。

逆に言えば、エネルギーも情報も運ばない「幾何学的な構造」なら、いくら速く動いても、宇宙は何も困りません。原因と結果のバトンを渡しているわけではないからです。

論文の中で、研究チームはこの点をはっきり明言しています。

位相特異点はエネルギーや情報を運ばないため、因果律を破ることなく超光速で「移動」することができるというわけです。

ただし、ここで一つ、重大な意味が出てきます。

物理学者たちはこれまで、暗闇の点(位相特異点)を「液体の中の粒子と同じように振る舞う」と捉えてきました。お互いに引き合ったり、距離の相関に秩序があったり、ペアで生まれたり消えたり――まるで本物の粒子みたいにです。

ところが、本論文はそれは違うと示しています。

消滅の瞬間、暗闇の点は粒子のように振る舞うのをやめます。

粒子は決して光速を超えませんが、暗闇の点(位相特異点は)は超えます。

粒子と特異点の同一視は、ここで破綻してしまします

実はこれが、本論文の本当の核心の1つです。

「光より速いものを見つけた」というニュース性の裏側で、約50年間信じられてきた「特異点は粒子の親戚」という見方が、消滅の瞬間という極限状況では崩れることが、ついに観測で確認されました。

「特異点は粒子のような秩序を見せながらも、極限状態では粒子の振る舞いから外れる」ということを、消滅の瞬間という究極の場面で、人類は初めて観測的に確認したのです。

ただ、それでも純粋に数学的な点に過ぎないわけでもありません。

論文も冒頭で、位相特異点を「整数値(±1)に量子化された保存量を持つ点」と位置づけ、超流動、超伝導、音波、光場などに広く現れる普遍的な構造だと説明しています。

つまり、いろいろな波の世界で実在する構造的な特徴であり、さまざまな場所に出現し得るというわけです。

さらに、光の特異点は光と物質の相互作用の制御、超解像イメージング、古典情報・量子情報の符号化にも関わると書かれています。

つまり、数学世界の架空の点などではなく、実在する場の構造です。位相がぐるりと巻き、中心では振幅がゼロになり、左右の回転方向(正負のトポロジカル電荷)を持つものです。

遅い波だからこそ、速い闇が生まれる

遅い波だからこそ、速い闇が生まれる
遅い波だからこそ、速い闇が生まれる / 光速以下(V<C)と超光速(V>C)が論文の図に書き込まれている部分を拡大したもの/Credit: Bucher et al., Nature (2026)

そもそもの話、なぜ研究チームは、わざわざ光が真空中の100分の1まで遅くなる素材を選んだのでしょう。直感的には「光より速いもの」を見つけたいなら、できるだけ速い光を使えばよさそうです。

ところが論文には、この実験の本質を一言で言い当てる、表現があります。

「これらの見かけ上の超光速度は、ポラリトンの遅い群速度によって、逆説的に増幅される」

遅い波を使うから、速さにブーストがかかる――

波がゆっくり進む素材の中では、波同士の干渉模様が複雑に絡み合い、振幅がゼロになる「打ち消し合いの場所」が、わずかな波の変化で大きくジャンプするようになります。

波そのものは遅いのに、波が打ち消し合う場所の位置は、波の進行とは無関係に、極端に速く動けるのです。

窒化ホウ素の中では波そのものは光速の100分の1とのろのろですが、波同士の干渉が作り出す「振幅ゼロの場所」は、波の進み方とはまったく別のルールで動けるのです。

しかも波が遅い分、ちょっとした波のゆらぎで「ゼロの場所」が大きく飛び跳ねる。これが論文の言う「逆説的な増幅」の正体です。

もう一つは、波の塊そのものが進んでいく速度。波がエネルギーを実際に運ぶときのスピードです。

普通は、この2つの速度はだいたい同じです。ところが窒化ホウ素の中では、山と谷の模様だけが、波の塊の12倍の速さで走っている。模様だけが先にスーッと走り抜けて、波の塊は置いてけぼりでのろのろ進む――そんな奇妙な状態なのです。

そして、暗闇の点は「波の塊」ではなく「山と谷の模様」のほうにくっついて動きます。模様が速く動けば、模様が打ち消し合う場所も、それに引っぱられてものすごい速さで位置を変える。

つまり窒化ホウ素は、暗闇の点の超光速ダンスをスローモーションで拡大して見せてくれる装置として働いていた、ということなのです。

そしてこの事実は応用にも繋がります。

論文は、超流体(絶対零度の近くで、永遠に流れ続ける不思議な液体)や、超伝導体(電気抵抗がゼロになる物質)、お風呂の栓を抜いたときの渦、さらには地球の上の台風までもが、同じ数学的な枠組みで記述できると指摘しているのです。

光、流体、超伝導体などの中で、渦や欠陥が消える直前に似た加速的な特徴が現れることがある――今回の発見は、そんな普遍性の存在を示しています。

カミナー教授は「私たちの発見は、音や水の流れから、超伝導体のような複雑な系まで、あらゆる波に共通する自然の普遍的な法則を明らかにしているのです」と述べています。

つまりこの発見、実は光だけの話ではないのかもしれません。波という波すべてに共通する、より深い宇宙のルールを、たまたま光と原子の振動が混ざった奇妙な素材の中で、人類が初めて鮮明に捉えた――そういう話なのです。

今回の実験は、薄い膜の中で行われました。つまりぺらぺらの平面の世界での出来事です。研究者たちは次に、私たちが住んでいる立体の空間に話を拡張しようとしています。

立体の世界では、暗闇は「点」ではなく「糸」のような形になります。位相が定義できない場所が、空間の中に細い線として走っているイメージです。

その糸がもつれ合ったり、結び目を作ったり、ほどけたりしながら踊り回る――そんな未知のダンスが待っているはずだと考えられています。

さらに、暗闇の点は将来的に情報を符号化する研究へつながる可能性があります。

情報を「右巻きか左巻きか」という渦の向きに刻んでおけば、ちょっとした雑音では消えない、頑丈な記憶素子に応用できるかもしれない――そんなアイデアが研究されているのです。

そして何より、カミナー教授はこう語ります。

「この新しい顕微鏡技術によって、物理学・化学・生物学に隠れた、まだ誰も見たことのない出来事を観察できるようになると信じています。自然が、その最も速く、最も捉えがたい瞬間にどう振る舞うのか――人類は、それを初めて目撃することになるのです」

もっと素早く撮れる顕微鏡が登場すれば、光速を何桁も上回る速度で動く暗闇の点を観察でき、それらすべてを、相対性理論を破ることなく観察できる、と論文は静かに予言しているのです。

つまり、空間でも時間でも、波は私たちが思っている以上に「無理が利く」存在だった――。

波の中には、私たちが見過ごしていた極端な振る舞いが、まだあちこちに潜んでいるのかもしれません。

参考文献

Novel measurement confirms a 50-year-old prediction: Dark points are faster than light
https://phys.org/news/2026-03-year-dark-faster.html

元論文

Superluminal correlations in ensembles of optical phase singularities
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10209-z

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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