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なぜスーパーカブやSR400は変わらないのか?|第6回 日本のバイクはなぜカッコいいのか

  • 2026.5.1

変えないのか、それとも変えられないのか。モノづくりの世界では、その違いは決定的だ。ヤマハ SR400やホンダ スーパーカブは、なぜ長く同じ姿を保ち続けてきたのか。そこにあるのは、単なる企業論理ではない。

「昔のほうが良かった」は本当なのか?|第5回 日本のバイクはなぜカッコいいのか

PHOTO/T.HASEGAWA, H.ORIHARA, S.MAYUMI, K.ASAKURA,

HONDA, YAMAHA, SUZUKI, KAWASAKI, Red Bull, STLC Classic Wheels

TEXT/G.TAKAHASHI, K.ASAKURA

なぜ“変わらないバイク”は愛され続けるのか?

これは自動車の話だ。

50年以上販売され続けてきたロングセラーモデルがあった。随時改良は加えられてきたが、エンジンレイアウトと駆動方式だけは守り抜かれ、それに惹かれるファンも多かった。

やがて生産終了を迎え、設計者はその理由をこう語った。「レイアウトや駆動方式を変えると、生産設備の変更を余儀なくされ、大きな投資が必要になる。そのコストはかけられなかった。変えなかったのではなく、変えられなかったのだ」と。

そこにあったのは一貫した開発思想という美談ではなく、冷徹な企業論理だった。当然のことではある。しかし、バイクの世界ではあまり聞かない話でもある。

バイクの製造や販売においても、もちろん企業論理は存在する。利益を出すための活動としてバイクは作られており、どんなに思い入れのある1台でも、メーカーにとってはあくまで商品だ。この考えがなければ、メーカーは存続できない。

だが、それだけではないように感じさせてくれるのも事実である。例えば、’78年から’21年まで43年間も生産され続けたSR400について、ヤマハのウェブサイトにはこう記されている。

「排出ガス規制をはじめ幾度となく訪れた存続のピンチも、『変わらないために変わり続ける』工夫を重ね、毎年のように仕様変更が繰り返されてきた。『どうすればSRがSRであり続けられるのか』、そして『どうすれば次の世代につなげることができるのか』──その議論は2000年代初頭からずっと続けられてきた」

SR400 (1978年発売/ヤマハ)
【SR400 (1978年発売/ヤマハ)】一部改良を繰り返しながらも、キックスタートを始めとするスタイルを貫き通した。ユーロ5に準拠した厳しい「二輪車令和2年排出ガス規制」に適合せず、’21年に惜しまれつつ生産終了。ファイナルエディションは年間販売台数の2倍以上となる約6000台を受注。

ここにあるのは企業論理というより、SR400というバイクそのものへの強い愛情だと感じざるを得ない。

ホンダ・スーパーカブに至っては、’58年から現在まで70年近く生産が続けられており、’17年時点で累計生産台数は1億台を超えている。

スーパーカブはSR400とは異なる実用車であり、利便性が最優先されるグローバルモデルだ。それでも最新型においてさえ、初代から受け継がれるS字ラインというデザインアイコンを守り続けている。その姿からは、作り手の愛着が確かに伝わってくる。

こうしたモデルから生まれるのが、本当の意味での普遍性だ。発端は企業の論理だったのかもしれない。しかし、そこにやがて情念が宿り、強固な根を張り、揺るぎない存在へと変わっていく。

【スーパーカブ (1958年発売/ホンダ)〈右〉】
【スーパーカブ (1958年発売/ホンダ)〈右〉】’14年、特許庁により車両形状が立体商標登録され、独自性が保護されることになったスーパーカブ。’58年の発売以来、ホンダの成長を支え続けたモデルだが、無意味に変えることをよしとせず、コンセプトやデザインを守り抜いた。その結果、「誰が見てもスーパーカブと分かる」という最高の信頼を得たのだ。

残念ながらSR400はすでに生産を終えている。スーパーカブもまた、世界情勢によっていつどうなるかは分からない。

それでも、愛に根ざした普遍性がユーザーに伝わり、ロングセラーとして支持され続けたという事実は、メーカーとユーザーの間に温かい信頼関係を生み出してきた。

「変えられないから、変えない」のではない。「変えたくないから、変えない」のだ。

わずかな違いのようでいて、そこには決定的な温度差がある。

【Z900RS (2017年発売/カワサキ)】
【Z900RS (2017年発売/カワサキ)】「Z1」の愛称で知られる900スーパー4(’72年発売)のオマージュとして、Z900をベースモデルに開発。大ヒットモデルとなった。ロングセラーを目指し、ブラッシュアップを続けている

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