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NHKとは思えない程、濃厚で“色気のある”昭和群像劇 実力派俳優陣の“奮闘”が印象に残った【ドラマ10】

  • 2026.6.20

2018年にNHKで放送された連続ドラマ『昭和元禄落語心中』は、一人の落語家の壮絶な人生を描いた物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。 

昭和52年、昭和最後の名人と言われる落語家・八代目有楽亭八雲(岡田将生)の元に弟子入りしたいという元ヤクザの男(竜星涼)が現れる。
男は刑務所に服役している時に聴いた八代目の落語に感動し、出所したら弟子入りしようと決めていた。
これまで一人も弟子を取らなかった八代目は、なぜか男の弟子入りを許す。男の名は、強次といい、楽天的で呑気な性格だったことから、強次は落語の登場人物から取られた有楽亭与太郎の名で呼ばれるようになる。
人懐っこくて愛嬌のある性格ゆえに、すぐに周囲の人々から愛された与太郎だったが、師匠の落語が自分の芸風と合わないことに悩んでいた。そんな時に八代目の因縁の相手でもある二代目有楽亭助六(山崎育三郎)の落語を知り、自分の芸風に合っていると思った与太郎は、八代目の独演会の前座で助六の「たらちね」を披露する。
しかし八代目は怒り与太郎を破門にしてしまう。

与太郎は八代目に泣きつき、なんとか破門を取り下げてもらう。八代目は弟子を続ける上での3つの約束を与太郎に結ばせた後、自分の過去を語って聞かせる。

昭和11年。後に八代目を襲名する菊比古は、芸者の家に生まれ、踊り子になるための修行をしていた。だが、足を怪我したことで夢を断念し、母親の知り合いだった七代目有楽亭八雲(平田満)の元に弟子入りすることになる。そこで菊比古は、後に二代目助六を襲名する初太郎と出会う。

落語を下敷きにした複雑な歴史群像劇

物語は昭和52年(1977年)から始まり、そこから昭和11年(1936年)へと遡り、八代目八雲と二代目助六の因縁を描いた後、10年後の昭和62年(1987年)へと舞台は移る。

与太郎は真打昇進が間近となるが、娯楽としての落語は廃れつつあり、寄席の数も減っていた。そして八代目は、滅びゆく落語とともに心中しようと考えていた。

物語の中核にあるのは菊比古と初太郎、そして二人の間で揺れ動く芸者のみよ吉(大政絢)の三角関係だが、NHKドラマとは思えないくらい濃厚で色気のある人間ドラマが展開されていた。
菊比古にとって初太郎は、落語のライバルであると同時に、かけがえのない親友だった。 初太郎には菊比古にはない落語家としての愛嬌があり、観客からも愛されていた。だが、初太郎は落語の人気がいつか廃れるのではないかと危機感を抱いており、もっと客を引き付ける面白い落語をやらなければならないと考えていた。しかし、無作法な初太郎の振る舞いは、礼儀と伝統を重んじる先輩落語家たちと衝突することになり、やがて落語界から姿を消すことになる。
一方、初太郎と比べて自分には落語の才能がないと思っていた菊比古は、コツコツと実績を積み上げ、八代目八雲の座を襲名することになる。 初太郎は娯楽としての落語、菊比古は伝統芸能としての落語を象徴する存在だと言える。 時代が昭和末になると初太郎が予感した通り、寄席は廃れつつあり、一部の人気落語家はテレビタレントとして活躍していたものの、落語界は凋落の一途をたどっていた。
そんな中、八代目八雲に弟子入りしながら、落語家としては二代目助六と近い資質を持った与太郎は、自分ならではの落語を模索することで成長していく。

『昭和元禄落語心中』は複雑な構成の物語で、男と女、親と子、弟子と師匠、そして落語界全体の栄枯盛衰といった様々な要素が全10話の中に散りばめられている。
そして、それらの物語は「品川心中」「出来心」「芝浜」といった古典落語の演目が重ねられている。
宮藤官九郎脚本の『タイガー&ドラゴン』や、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ちりとてちん』といった落語を題材にしたドラマでは、落語の演目を下敷きにすることで多層的な物語を作り出していた。
『昭和元禄落語心中』も、この手法を踏襲しているのだが、『タイガー&ドラゴン』や『ちりとてちん』との大きな違いは、戦前・戦後の昭和を描いた歴史ドラマであるということ。
つまり本作は、落語を下敷きにした歴史ドラマとなっており、全10話という短さの中で大河ドラマのような壮大な物語を展開することに成功しているのだ。

落語家の人生を演じ切った岡田将生の色気

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岡田将生 (C)SANKEI

本作は雲田はるこの同名漫画をドラマ化したもので、羽原大介が脚本を担当している。
『パッチギ!』や『フラガール』といった映画や、『マッサン』や『ちむどんどん』といった朝ドラの脚本で知られる羽原は、熱いヒューマンドラマを得意としているが、古き良き人情話が物語の中心にある落語の世界とは相性が良く、どのキャラクターも人間味がある。

何より俳優陣の奮闘が印象に残った。
菊比古を演じた岡田将生、与太郎を演じた竜星涼、初太郎を演じた山崎育三郎の三人は特に、通常の演技だけでなく、落語を披露するシーンも多かったため、難しい役柄だったと思う。
ドラマ内で展開される落語は、語りに落語家の個性が宿っていないと成立しない。そのため演者は、落語の中の登場人物を演じている落語家の演技という二重の演技が求められるのだが、3人の落語の演技は素晴らしく、とても見応えがある。
中でも主演の岡田将生は、若者だった時代と年老いた時代を演じるため、年齢に応じた落語を披露しているのだが、見事に演じ分けていた。
特に序盤で菊比古が、女性の色気のある芝居を身に付けていく過程は見応えがあり、俳優・岡田将生の持つ色気が存分に発揮されている。
岡田が演じる菊比古は、年齢を重ねる中で様々なものを手に入れるが、それと引き換えに大切なものや人を失ってしまう。しかしその喪失は彼の色気に暗い魅力を生み出し、落語の語りに凄みを与えている。
様々な視点で楽しめる作品だが、何より岡田の放つ色気のある芝居と落語に引き込まれるドラマである。


出典:NHK ドラマ10『昭和元禄落語心中』NHKアーカイブス

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』 (PLANETS)がある。

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