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ネトフリ“どぎつい話”だけじゃない…3年前『万引き家族』監督・総合演出で話題になった“異色”の【傑作ドラマ】

  • 2026.5.24

『地獄に堕ちるわよ』が話題を呼び、SNSでは「Netflixは犯罪ものや昭和の危ない話ばかりだ」という声も少なくない。確かに、日本のNetflixオリジナル作品は、刺激の強い作品が目立つ。だが実は、Netflixが手がけてきたのは、決してそうした“どぎつい物語”ばかりではない。

例えば、2023年に配信された『舞妓さんちのまかないさん』は、映画『万引き家族』の映画監督で知られる是枝裕和が、総合演出を手掛けており、京都の花街を舞台に舞妓になることを夢見る2人の少女の日常を軽やかに暖かく描いた作品だ。大きな事件が起きるわけでもなく、ごはんを支度したり洗濯したり、日々の稽古に励んだりと、たんたんと花街の日常が綴られていく。何も起こらないと言えば何も起こらないのだが、そんな平和な日常の中で笑ったり落ち込んだり、悩んだりする人々の日常をいとおしく感じさせる作品だ。

花街という“異世界”を、外部の目線で照らし出す

物語の舞台は、京都の花街・屋形『市』。青森から舞妓を志して上京してきたキヨ(森七菜)とすみれ(出口夏希)を中心に、屋形に集う舞妓や女将、芸妓たちの日々が描かれる。一話完結に近い構成のなかで、キヨが作るまかないを軸にして、登場人物それぞれの背景や感情が静かに浮かび上がっていく。

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ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』Netflixにて独占配信中

キヨは舞妓を目指してこの世界に飛び込んだが、その才能はないと言われてしまう。すみれは優秀で将来を有望視されているが、2人には残酷な才能の格差が存在する。青森に帰るように促されるキヨだが、急遽まかないの女性が働けなくなってしまい、ピンチヒッターで食事を用意することになる。その料理の腕が見込まれて、キヨは花街の街のまかないとして居場所を見つけていく。

そんな2人を中心に、花街の穏やかな日々の暮らしを丁寧に積み上げていくのだが、制作陣は、原作にはいないキャラクターを追加することで外部の視線を導入した。花街に暮らしながら舞妓ではない少女という、“外部の目線”を持った存在を物語の中に置くことで、この場所の独特さ、その美しさや閉鎖性をも観る者にわかりやすく伝えている。

是枝裕和監督は、これまで家族や共同体のあり方を描き続けてきた。本作でもその眼差しは健在で、血の繋がりはなくとも共に暮らす者たちのあいだに流れる絆を、台詞ではなく、所作や食卓の風景で語らせている。

役者たちがみな素晴らしい

この作品を語るうえで、キャストの素晴らしさは避けて通れないだろう。
主演の森七菜と出口夏希は、みずみずしさに溢れている。森七菜が演じるキヨの、台所に立つときの自然体な佇まい。出口夏希が演じるすみれが、舞妓として化粧をまとった瞬間に立ち上る凛とした空気。二人が並ぶだけで、画面に“青春”という普遍的な強度が宿る。

そして、松岡茉優と橋本愛の共演もまた見物だ。橋本愛の舞妓姿は、息を呑むほど美しく、同時に妖艶だ。その立ち姿だけで、花街という世界が背負ってきた時間の厚みを感じさせる。一方、松岡茉優が演じるのは出戻りの舞妓という立場で、型破りな存在だ。溌剌とした魅力で、凛とした美しさを見せる橋本愛と好対照をなしている。彼女が登場すると、一段と画面がにぎやかになっていく。

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ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』Netflixにて独占配信中

脇を固める豪華キャストも、常盤貴子、リリー・フランキー、井浦新、北村有起哉、戸田恵子など、上手くて味のある役者が勢ぞろいしており、みな、花街という共同体の住人として、自然に馴染んだ雰囲気を作り上げている。

何も起きない、ということの豊かさ、ネトフリ異色の傑作ドラマ

本作には、いわゆる“事件”は起こらない。誰かが死ぬわけでも、誰かが裏切るわけでもない。淡々と、良い空気の時間が流れていくだけだ。にもかかわらず、観ていると不思議と落ち着き、心地よい気分にさせてくれる。
花街では、古い伝統と風習が今なお息づいている。屋形では携帯電話の使用が制限され、舞妓たちは厳しい上下関係と稽古の日々を送る。窮屈ではあるが、現代が失った濃いコミュニティがそこにはある。

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ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』Netflixにて独占配信中

そんな古風な共同体の中で、本作は「夢破れても、もう一度居場所を見つける女の子の物語」を描いている。舞妓になる夢を諦めたキヨが、台所という別の場所で自分の役割を見出していく。ただ、毎日の食事を作り続けるという行為そのものが、彼女にとっての肯定であり、再生であることが、静かに伝わってくる。

Netflixが派手な事件性のある作品ばかり作っているわけではないことを、本作は確かに証明している。派手な事件はなくても、そうした物語に負けないくらい豊かな時間をくれる作品だ。


ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』Netflixにて独占配信中

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi

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