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「朝ドラ出てなかった?」「演技上達してる!」物語の中心ではないのに目が離せない…【日曜ドラマ】で魅せた女優の“進化”

  • 2026.5.10
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日曜ドラマ『10回切って倒れない木はない』第2話 (C)日本テレビ

志尊淳主演のドラマ『10回切って倒れない木はない』の中で、ふと目を引く存在がいる。風見診療所の看護師・花井美香を演じるみりちゃむ(大木美里亜)だ。SNS上では「朝ドラ出てなかった?」「演技上達してる!」といった声が相次いでいる。かつて“ギャル”のイメージで強烈な印象を残した彼女は、確実に女優への一歩を踏み出している。

※以下本文には放送内容が含まれます。

物語のなかで息づく存在

『10回切って倒れない木はない』は、韓国財閥の御曹司・ミンソク(志尊淳)と、過去に傷を抱えた医師・桃子(仁村紗和)の運命が交差する純愛ドラマだ。心と心が交錯する物語のなかで、その呼吸を整えるように配置されているのが、風見診療所の看護師・花井美香である。

明るく、気が利いて、現場を軽やかに回す存在。ついつい一人の患者に丁寧に時間をかけすぎる桃子の代わりに、テキパキと段取りをこなす。決して前に出すぎるわけではないものの、いてもらわないと困る。そんな“現場に一人はいてほしい人”として自然に溶け込んでいるのが、みりちゃむだ。

印象的なのは、彼女の存在に気づくタイミングが人によってばらついていることだろう。画面を見た瞬間に名前が浮かぶのではなく、数シーン後、あるいはSNSを見てようやく一致する。そんな“あとから気づく存在”として機能している。

これは、彼女が自分自身のイメージを前に出すのではなく、役の中に重心を置いているからこそ起きる現象だ。かつてのように“誰が見てもすぐわかる存在”ではなく、物語のなかで自然に息づく一人として配置されている。

ギャルから看護師へ

みりちゃむといえば、やはりNHK連続テレビ小説『おむすび』でのルーリー役を思い出す人も多いだろう。博多ギャル連合の総代表という強烈なキャラクターを、圧倒的なリアリティで演じきり、「ハマり役すぎる」と話題になった。

その存在感は、いわば“完成された記号”だった。派手なビジュアル、歯切れのいい言葉、場の空気を一瞬で塗り替えるエネルギー。誰が見ても一発で記憶に残る、強い輪郭を持った役である。

しかし今作『10回切って倒れない木はない』で彼女が演じているのは、その真逆とも言える存在だ。看護師・花井美香は、派手さとは無縁の人物である。目立つことよりも、周囲を支えることに価値を見出す役どころだ。

この変化は、単なる役柄の違いではない。演技のアプローチそのものが変わっている。たとえば声のトーン。ルーリーのときのような弾けるような勢いは抑えられ、現場に馴染む落ち着いたリズムへと変化している。動きも同様に、無駄がなく実務的だ。看護師という職業を身体で理解しようとしていることが伝わってくる。

かつては“似合う役”を演じていた彼女が、今は“役に合わせて自分を変える”段階に入っている。この変化は、女優としての大きな転換点と言える。

演技の進化を証明する3つの要素

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日曜ドラマ『10回切って倒れない木はない』第2話 (C)日本テレビ

ではなぜ、彼女の演技はここまで自然に馴染むのか。その理由は、いくつかの要素に分解できる。

まず一つは、“等身大のリアリティ”だ。みりちゃむの演技には、過剰な誇張がない。うまく見せようとするのではなく、その場にいる人間として振る舞うことに重心が置かれている。だからこそ視聴者は、演技を見ているという感覚よりも、“そこにいる人を見ている”という感覚に近づく。

次に、“芯の強さ”の転用である。彼女がこれまで見せてきたギャルとしての強さは、決して消えたわけではない。それは形を変え、看護師としての責任感や判断力に置き換えられている。言い換えれば、キャラクターの質感は変わっても、根にあるエネルギーはそのまま活きているのだ。

そしてもう一つは、“空気を変える力”である。前に出すぎないにもかかわらず、場の温度を整える存在感。これはバラエティで培われた感覚とも無関係ではないだろう。相手を引き立てながら、自分も消えない。そのバランス感覚が、ドラマのなかでも機能している。

こうした要素が重なった結果、彼女の演技は“気づかれないほど自然”という状態に到達している。しかしそれは、決して存在感が弱いという意味ではない。むしろ逆で、作品に深く根を張っているからこそ、違和感なくそこに居続けることができるのだ。

『10回切って倒れない木はない』におけるみりちゃむは、物語の中心ではない。しかし、確実に物語を支えている。そして何より、彼女自身が“俳優としての次の段階”に進んでいることを静かに証明している。


日本テレビ系 日曜ドラマ『10回切って倒れない木はない』毎週日曜よる10時30分〜

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_