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【NHK朝ドラ】ヒロインが“加害者”として踏み込んだ衝撃の展開 12年前に高視聴率を記録した“巧みな”脚本

  • 2026.5.30

2014年度前期に放送されたNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『花子とアン』は、L・M・モンゴメリの小説『赤毛のアン』を翻訳した村岡花子の半生を原案とした物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

明治時代に山梨県・甲府の貧しい小作農家の長女として生まれ育った安東はな(吉高由里子)は、読み書きの才能があったことから、東京のミッションスクール・修和女学校に給費生として編入し、寄宿生活を送ることになる。
そこで彼女は“腹心の友”となる葉山蓮子(仲間由紀恵)と出会う。
蓮子は葉山伯爵の異母妹だが、先代伯爵と愛人の芸者との間に生まれた子だった。
14歳の時に政略結婚で子爵家に嫁に出され16歳で出産したが、子どもを取り上げられたという辛い経験をしていた。 周囲に対して高飛車で自由奔放に振る舞うことで心を閉ざしていた蓮子だったが、はなと“腹心の友”になったことで心が解放される。
だが、女学校卒業後、兄に九州の炭坑王・嘉納伝助(吉田鋼太郎)との縁談を強引に進められて、福岡に嫁ぐことになる。
本作は、後に『赤毛のアン』を翻訳することになる安東はなの半生を描くと同時に、葉山蓮子の波乱万丈の人生も見せていく。
蓮子のモデルは柳原白蓮という大正天皇の従妹にあたる歌人で、彼女が社会運動家の宮崎龍介と駆け落ちした事件は白蓮事件と呼ばれ、新聞でセンセーショナルに報道された。
村岡花子とは同じ女学校出身で交流も深かったそうだが、『花子とアン』のはなと蓮子の関係には、『赤毛のアン』の主人公・アンと親友のダイアナの関係も重ねられている。 二人の関係を筆頭に、劇中には『赤毛のアン』のオマージュが多数散りばめられており、はなとアンの人生を重ねるように物語は描かれている。

中園ミホの巧みな脚本

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吉高由里子 (C)SANKEI

『花子とアン』は放送されると大きな話題となり、平均視聴率22.6%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)の大ヒットとなった。 2000年代は視聴率の面で苦戦していた朝ドラだったが、『ゲゲゲの女房』、『カーネーション』、『あまちゃん』といった話題作が続々と生まれたことで人気を持ち直し、高い評価を獲得するようになった。
『花子とアン』の安定した人気は、そんな朝ドラの評価が盤石のものとなったことを象徴していた。
また、この時期の朝ドラは内容も多様化しており、これまでとは違う朝ドラを作ろうという機運が高まっていた。
『花子とアン』においては、蓮子の描き方にそれが強く表れていた。

はなが朝ドラヒロインらしい明るく真面目な女性だったのに対し、蓮子は、自由奔放で高飛車なお嬢様で、自らの力で運命を突破していく強い女性だった。
本作の脚本を担当した中園ミホは『やまとなでしこ』や『ハケンの品格』といったヒットドラマを多数手掛けているが、男社会に負けない自由奔放で強い女性を魅力的に描くことに定評があった。
その意味で蓮子は、中園作品で主役になるタイプの女性キャラクターで、彼女のシーンは、とても筆が乗っていた。
中園ミホの脚本は脇役が魅力的で、外伝的なエピソードが本編以上に盛り上がることも多い。
蓮子が政略結婚させられた嘉納伝助との交流はその筆頭で、吉田鋼太郎の好演の効果もあってか、蓮子を苦しめる悪い夫というイメージは話が進むにつれて変化し、一見、怖そうに見えるが実は蓮子に惚れているチャーミングな男として、放送当時は人気だった。
蓮子と演劇活動を通して知り合い恋仲となる帝大生の宮本龍一を演じた中島歩の演技も印象深かった。 当時の中島は、『花子とアン』が、テレビドラマで初めてのレギュラー出演となる若手俳優だった。
近年はテレビドラマに引っ張りだこで、大人の色気が漂う余裕のある男を演じさせると右に出る者はいない中島だが、当時は演技経験が少なかったこともあり、必死さが伝わってくる不器用で青臭い芝居だった。だが、その青臭さが、龍一のキャラクターに見事にハマっていた。

窪田正孝、鈴木亮平、土屋太鳳、黒木華といった人気俳優が多数出演していた『花子とアン』だが、もっとも突出していたのが吉田鋼太郎と中島歩だったのは、それだけ蓮子を取り巻く男たちが魅力的に描かれていたということだろう。

加害者としての朝ドラヒロイン。

一方、朝ドラヒロインのはなを通して描かれたテーマは、とても重たかった。
村岡英治(鈴木亮平)と結婚し、村岡花子と名乗るようになったはなは、翻訳家として活躍するようになる。 そして、蓮子の紹介でNHKのラジオ番組に関わるようになり「ラジオのおばさん」として子ども向けのニュースを読むようになる。しかし、日中戦争が勃発して以降は、軍事関係のニュースを読む機会が増え、戦意高揚を煽る報道に加担してしまう。
朝ドラは戦時下を描いた作品が多く、戦時下の空気に朝ドラヒロインが違和感を示すことが定番となっている。
そのため、戦争の被害者として朝ドラヒロインは描かれることが多かったのだが、消極的に報道に関わり、最終的に自らラジオ番組を降板したとは言え、村岡花子を戦時下の空気に加担した加害者として描いたことは、当時とても衝撃だった。

中園が手掛けた2作目の朝ドラ『あんぱん』のヒロイン・のぶ(今田美桜)も、戦時下の軍国主義の価値観を内面化した女性として描かれていた。
時代の空気から人は簡単に逃れることはできず、それは朝ドラヒロインとて例外ではないというのが、中園の考えなのだろう。

この「加害者としての朝ドラヒロイン」は、朝ドラではまだ掘り下げが進んでいないが、戦時下を描くためには避けては通れないテーマである。

中園には是非、3作目の朝ドラで、この難しいテーマに挑んでほしい。


出典:NHK 連続テレビ小説『花子とアン』NHKアーカイブス

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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