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パーカーはなぜ生まれた? スポーツの発展とともに進化したアウトドアファッション/何がダサいを決めるのか⑤

  • 2026.4.26
『何がダサいを決めるのか』 (平芳裕子/ポプラ社)
『何がダサいを決めるのか』 (平芳裕子/ポプラ社)

『何がダサいを決めるのか』を第1回から読む

『何がダサいを決めるのか』(平芳裕子/ポプラ社)5回【全8回】

ファッションの世界では「おしゃれ至上主義」が常識。しかし、世間一般の価値観は少し違うようです。「似合ってないと思われたくない……」「年相応じゃない服は着たらいけない」なんて、見えないルールに縛られていませんか? まるで「ダサい」ことが悪のように扱われるこの空気、一体どこから来たの!? 本書ではそんなモヤモヤを一気に吹き飛ばすべく、服の歴史や社会背景をもとに「ダサい」の正体を徹底解剖します。常識を脱ぎ捨てて、もっと自由におしゃれを楽しもう! 私たちが囚われているファッションの常識をアップデートしてくれる一冊『何がダサいを決めるのか』をお楽しみください!

※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

スポーツの人気とニットへの注目

それでは「パーカー」は、どのような衣服なのでしょうか。「パーカー」という服の一番の特徴は、「フードが付いている」ことにあります。頭を覆うフードが首元についた服です。しかし、フード付きの衣服は特殊なものなのかというと、そうではありません。西洋の服飾史をさかのぼれば、かなり古くからフードのついた服が存在していました。中世にはフード付きのケープ、飾り付きのフードなど、絵画や彫刻にフード付きの衣服を身につけた修道士や兵士などが再現されています。しかしこれらのフードをよく見ると、取り外しのできるタイプや、コートや丈の長い服の首元からゆったりと伸びるタイプが多く、今私たちが想像するフードとはやや異なる形状をしています。

それでは現代の「パーカー」の起源となる衣服は、いつ誕生したのでしょうか。その始まりには、スポーツの発展が関わっています。歴史的な話になりますが、現代ファッションのなかでの位置づけを考えるうえで重要となりますので、その流れを見ておきましょう。

一九世紀末から二〇世紀にかけての西洋では、スポーツやレジャーがおしゃれなものとして流行しました。その背景には、鉄道の発展があります。短時間に遠くまで行くことができるようになると、人々は都会を離れて自然の豊かな場所で週末やバカンスを過ごすようになります。森のなかを散歩するだけではなく、海水浴やゴルフ、テニス、サイクリングなどを楽しみ始めました。すると、都会の社交で必要とされるおしゃれなドレスやスーツではなく、レジャーやスポーツのために活動しやすい服が求められるようになります。

西洋の服は、歴史的には毛織物を主として作られてきました。この織物は、たて糸とよこ糸を一本おきに交差させて織ります。糸と糸の隙間は少なく、伸縮性には劣りますが、ハリがあって型崩れしにくく、耐久性に優れています。そのため、寒い季節の長い西洋では、保温性があり丈夫な毛織物が重宝されました。ところが、こういった特徴をもつ衣服は、体を動かし汗をかくスポーツには向きません。

そこで注目されるようになったのが、「ニット(knit)」です。ニットというとセーターを思い浮かべる方が多いかもしれません。セーターは柔らかく伸び縮みして、暖かい服です。「ニット(knit)」は「編み」という意味で、その服は一本の糸をループ状に編んで作ります。編んであるために、糸と糸の間に隙間があり、通気性がよく、伸縮性にも長けていることに特徴があります。人間の体の動きに合わせて形状の変化も容易です。編み物自体は古くから行われていましたが、スポーツの人気が高まるにつれて、ニットの技術が広く使用されるようになりました。

ジャージーを取り入れたシャネル

とはいえ、スポーツ用のニットといってもイメージが湧きにくいかもしれません。そこで「ニット」とほぼ同様の意味を持つ言葉が、「ジャージー」です。学校の体育の時間によく着用される、上下セットになったトレーニングウェアです。体育では体を動かしますので、伸縮性のある生地でできた服を身につけることは理にかなっています。「ジャージー」とは、もともとイギリス海峡のジャージー島で作られていた漁師の衣服に由来しています。細かい編み地や、それを使って作られる下着や作業着などの衣服を意味していました。このジャージーの素材や衣服こそが、二〇世紀のファッションに革新をもたらしました。

ジャージーをいちはやくファッションデザインで用いたのは、フランス人のガブリエル・シャネルです。シャネル(CHANEL)といえば現代でも有名なファッションブランドで、扱っている商品は高級というイメージがあります。しかし、創業者であるシャネルは、誰も見向きもしなかった素材に着目しました。それまでの時代、上等なファッションに用いられたのは、艶やかな絹や厚手のウールといった布地でした。ところがシャネルは、下着や労働着の素材と考えられていたジャージーを用いて、おしゃれなリゾートウェアをデザインしたのです(図2-2)。ジャージーは伸縮性に富んでいるため着心地が良く、上流階級の人々が海辺でリラックスするために適した素材だったのです。

 図2-2 シャネルのジャージースタイル。『エレガンス・パリジェンヌ』1917年
図2-2 シャネルのジャージースタイル。『エレガンス・パリジェンヌ』1917年

シャネルがジャージーを使い始めたのは一九一〇年代のことですから、彼女は先見の明があるデザイナーであったと言えます。そして一九一〇年代から一九二〇年代にかけて、ジャージーは大変人気となり、さまざまなデザイナーが使用するようになります。ところが、ほかのデザイナーたちがジャージーの服を作ることをやめてしまっても、シャネルだけはジャージーにこだわりました。現代のファッションが活動的な方向性へ進んでいくことをシャネルは理解していたのです。

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