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アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に

  • 2026.4.25
アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に
アンコウの「ちょうちん」は進化の起爆剤だった――種が増えるペースが3倍に / Credit:Canva

アメリカのカンザス大学(KU)とセントクラウド州立大学で行われた研究によって、頭に光る「ちょうちん」を持つ深海アンコウは、光らない仲間に比べて2〜3倍も速いペースで新しい種を生み出していたことが明らかになりました。

あの「ちょうちん」は単なる餌とりの道具ではなく、種の爆発的な増加を後押しした進化の起爆剤だった可能性があります。

いったいなぜ、「光」がこれほどの進化の加速を生んだのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年3月27日に『Ichthyology & Herpetology』にて発表されました。

目次

  • 7200万年前に始まった「自然界の道具箱」
  • 暗闇の中で「光」を手に入れたとき、何が起きたか
  • 光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」でもあった
  • 「道具が通信も兼ねたとき、多様性が爆発する」

7200万年前に始まった「自然界の道具箱」

アンコウのちょうちんは、背びれの一番前のトゲが細長い竿状に変形し、それを支える土台の骨ごと頭の上に移動して、先端に、光るバクテリアを住まわせる小さな「ランプ」がぶら下がっています。
アンコウのちょうちんは、背びれの一番前のトゲが細長い竿状に変形し、それを支える土台の骨ごと頭の上に移動して、先端に、光るバクテリアを住まわせる小さな「ランプ」がぶら下がっています。 / Credit: Maile & Davis, Ichthyology & Herpetology 114(1), 2026 / CT scan sourced from MorphoSource / American Society of Ichthyologists and Herpetologists / CC BY

アンコウの仲間が地球上に登場したのは、恐竜時代の終わり近く、約7200万年前のことです。

研究チームは、13個の化石記録を使って進化の系統樹を時間軸に沿って較正し、ロサンゼルス郡自然史博物館、フィールド自然史博物館、フランス国立自然史博物館などに保存された102種・118点の標本を実際に手に取って測定しました。

「多くのアンコウは、生きた姿を撮影されたことすらないのです」とデイビス教授は語っています。

マイレ氏がロサンゼルス郡自然史博物館でアルコール漬けの標本瓶を手に取ったとき、最初に驚いたのは「誘引器の形態の多様性の多さ」だったと言います。

光るもの、ぴくぴく動くもの、スライドホイッスルのように頭蓋骨から飛び出して化学物質を噴射するもの――400種を超えるアンコウの仲間は、それぞれ独自の「釣り道具」を進化させていたのです。

では、その多様な道具はどのような順番で進化したのでしょうか。

研究チームが明らかにした進化史は、こうです。

まず最初に登場したのは「機械式ルアー(動きで誘うタイプ)」。

背びれの棘が変形した棒状の突起(イリシウム)の先端に、組織のかたまり(エスカ)がつき、それをゆらゆら動かして獲物を誘い込みます。

光らず、化学物質も出さない、純粋に「動き」だけの罠です。

このシンプルな道具は驚くほど長く使われ続けました。

浅い海底に棲むカエルアンコウやアンコウ(monkfish)は、祖先的な機械式ルアーの基本構造を、現在も受け継いでいます。

さらに面白いのは、一部のアンコウが「第3の道具(化学物質で誘うタイプ)」も独自に開発したことです。

コウモリウオの仲間は約5000万年前に、カエルアンコウの一種は比較的最近の500万年前に、化学物質で獲物をおびき寄せる能力をそれぞれ別々に獲得しています。

同じ問題に対して、まったく異なる解決策が繰り返し発明される――アンコウの「道具箱」は、まさに進化の実験室です。

しかし、アンコウの進化史で最も劇的な変化が起きたのは、一部のグループが深海に移住してからのことでした。

次のページでは、暗闇の中でアンコウが手に入れた「新しい武器」と、それがもたらした予想外の結果を見ていきましょう。

暗闇の中で「光」を手に入れたとき、何が起きたか

アンコウの「ちょうちん」可動域は種ごとに異なる
アンコウの「ちょうちん」可動域は種ごとに異なる / カエルアンコウ科の広い回転角度からムチアンコウ科の限定的な動きまで、科ごとの「釣り方」の違いが可動角度で定量化されている。/Credit: Maile & Davis, Ichthyology & Herpetology 114(1), 2026 / American Society of Ichthyologists and Herpetologists / CC BY

映画「ファインディング・ニモ」で、歯がぎらぎら光るアンコウに追いかけられるシーンを覚えている方もいるのではないでしょうか?

あの不気味な光の正体は、メスのアンコウの頭から突き出た誘引器の先端(エスカ)に住みつく発光バクテリアが放つ輝きです。

しかし、光る誘引器はアンコウが地球に登場した当初から存在していたわけではありません。

日光が届かない深海に進出したアンコウたちが、あるとき直面した問題は明白でした。

真っ暗で、水は冷たく、餌は乏しい。

浅い海底でうまく機能していた「動きで誘う」戦略は、光がなければ獲物に見えません。

水深数千メートルの暗闇で、ゆらゆら揺れるだけの透明な棒を振っても、誰も気づかないのです。

そこでアンコウは、およそ3400万年前から2300万年前にかけて、新たな進化上の一手を打ちました。

エスカの内部に、自ら光るバクテリア(生物発光バクテリア)を住まわせ、光らせ始めたのです。

この発光バクテリアは、自由に暮らす近縁種と比べて遺伝情報が約半分にまで縮小しており、エスカの外ではもう生きられない体になっています。

アンコウと発光バクテリアは、文字どおりの「運命共同体」を築いたのです。

アンコウ類の誘引器の多様性
アンコウ類の誘引器の多様性 / 26種のアンコウの誘引器を並べた標本写真集。イリシウム(I)、エスカ(E)、翼状骨(P)の長さと形態の違いが一目で比較できる。/Credit: Maile & Davis, Ichthyology & Herpetology 114(1), 2026 / American Society of Ichthyologists and Herpetologists / CC BY

ここで1つ、興味深い事実があります。

光る種のルアーは、光らない種のルアーに比べて約3倍も長いのです。

なぜわざわざ長くする必要があったのでしょうか。

マイレ氏とデイビス教授の推測はこうです。

ルアーが短ければ、光が自分自身の体を照らしてしまいます。

深海のアンコウは赤や黒の体色で暗闇に溶け込んでいるのに、顔のすぐ前で光を灯せば、巨大な口と鋭い歯が獲物にも天敵にも丸見えになってしまう。

だからルアーを長く伸ばして、光と体の間に距離を取ったと考えられています。

暗い部屋でスマホの画面を見ると、自分の顔がぼんやり照らされてしまう――深海のアンコウにとっても、同じ問題が起きるのです。

さて、ここまでの話をまとめると、深海アンコウは「光」という新しい武器を手に入れ、それを体から遠ざける工夫まで進化させたことになります。

しかし、ここで1つの謎が残ります。

光で餌が獲りやすくなったのなら、それだけで十分に有利なはず。

ところが研究チームの解析によると、光る誘引器を持つグループは、光らないグループに比べて2〜3倍も速いペースで新しい種を生み出していたのです。

「餌が獲りやすくなった」だけでは、これほどの差は説明がつきません。

では、光にはほかにどんな役割があったのでしょうか?

光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」でもあった

光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」だった
光は「釣り竿」だけではなく「ラブレター」だった / Credit:Canva

研究チームが注目したのは、オスの存在です。

深海アンコウのオスとメスは、体の大きさがまるで違います。

メスの体長が数十センチにもなるのに対し、オスはわずか数センチしかありません。

そのかわり、オスの目は体に不釣り合いなほど大きく、鼻の穴(嗅覚器官)も巨大に発達しています。

さらに驚くべきことに、一部の種ではオスはメスの体に永久にくっついて融合し、血液から栄養を受け取りながら、脳や内臓がほぼ退化して、最終的には精巣だけが残る存在になります。

ここで浮かび上がるのは、ある重大な疑問です。

広大な暗闇の中で、こんなに小さなオスは、いったいどうやってメスを見つけるのか?

マイレ氏とデイビス教授は、ここに1つの仮説を立てています。

メスの光る誘引器には、まわりの筋肉を収縮させて光を調節できる、小さな「窓のシャッター」のような構造が備わっています。

つまりメスは、ただ光を灯しているのではなく、光の点滅パターンで種固有のシグナルを送っている可能性がある。

大きな目を持つオスは、遠くからそのきらめきを察知し、巨大な鼻腔でメスが放つ化学物質(フェロモン)をかぎ分ける。

つまり、光る誘引器は「餌を釣る竿」であると同時に、暗闇の深海でオスに向けて送る「ラブレター」でもあったと考えられるのです。

注目すべきなのは、その先の展開です。

ここから先はまだ仮説ですが、おそらく、ちょっとした光り方の違いが「好みの分かれ目」になったと考えられます。

ある集団のメスがわずかに異なるリズムで光り、その光を好むオスだけが集まるようになれば、同じ海域にいても別の集団のメスとは交配しなくなっていきます。

こうした「光の好みによる住み分け」が繰り返されるうちに、それぞれの集団は遺伝的にも離れていき、やがて別々の種へと枝分かれしていった可能性があります。

つまり、光を手に入れたことで、アンコウは種が分かれやすい素地を自らの体に組み込んだのです。

ラブレターの「書式」にバリエーションが生まれるほど、種の枝分かれも起きやすくなる――研究チームはこの進化パターンを実際のデータから見いだしました。

種の増え方の速さ(多様化率)を統計モデルで比較した結果、光る誘引器を持つ系統は、動きだけで誘う機械式ルアーの系統に比べて、明らかに高い種分化率を示しました。

一方、機械式ルアーしか持たないグループでは、多様化率の上昇は見られませんでした。

研究チームはこの結果から、機械式ルアーは「餌とりだけに使う道具」であり、仲間どうしのコミュニケーションには関わっていないと結論づけています。

今回の研究に関わっていないサットン教授(フロリダ州ノバ・サウスイースタン大学)は、この発見をこう評しています。

「食べることも、子孫を残すことも必要だ。獲物と配偶者の両方を引き寄せることができる発光する誘引器の進化は、まさにこの二つの問題に対する洗練された解決策だ。」

「道具が通信も兼ねたとき、多様性が爆発する」

Credit: Matthew Davis

ここで一歩引いて、アンコウの進化が教えてくれる、もっと大きな構造について考えてみましょう。

アンコウの光る誘引器は、もともと餌を捕るための「武器」として進化しました。

しかし深海という極限環境に置かれたとき、その武器に、配偶者を見つけるための「通信装置」としての役割が加わりました。

そして兼用が進化した系統で、種の多様化が2〜3倍のペースに加速していました。

研究者たちは、同じパターンがハダカイワシ、ハチェットフィッシュ、ドラゴンフィッシュなど他の深海魚でも見られると指摘しています。

光を使って同種の仲間と「私はここにいる」と伝えるようになったグループは、いずれも多様化率が高いのです。

「道具が通信を兼ねると、種が爆発する」――この構造は、進化生物学の文脈を超えて、どこか聞き覚えがないでしょうか?

たとえば携帯電話は、もともと「声を遠くに届ける道具」でしたがカメラが載り、SNSと結びついて「自分を表現し、他者を見つける通信装置」に転用された瞬間、デバイスの多様性も、それを使う文化の多様性も、爆発的に増加しました。

あるいは、文字。

もともとは穀物の在庫を数えるための「記録の道具」でした。

しかし物語を書き、恋文を送り、法律を定めるための「通信の手段として使われるように」なったとき、人類の文化は爆発的に分岐しました。

「道具→通信→多様性の爆発」は、アンコウの深海でも、人間の文明でも、同じ抽象パターンをなぞっているように見えます。

もちろん、研究にはまだ解明されていない点が残されています。

メスの誘引器の精巧化がオスの感覚の特化を引き起こしたのか、それともオスの探知能力が「もっと目立つメスの誘引器」を選んだのかは、未解決のままです。

また、光を持つ種のエスカに存在する腺構造が、フェロモンを放出しているのか、それとも発光バクテリアの培養に関わっているのかもまだ分かっていません。

しかし、この研究が明らかにした構造は明快です。

サットン教授はこう問いかけます。

「真っ暗で、寒く、食料も乏しい。これ以上劣悪な環境は想像しがたい。それにもかかわらず、この魚の群れは他の魚とは比べ物にならないほど繁栄しているのです。」

その答えの一端が、今回の研究で見えてきました。

暗闇という「最も過酷な環境」で、1本の釣り竿を「食料確保」と「恋人探し」の両方に使えるよう進化させたアンコウたちは、その洗練された解決策のおかげで、現存するアンコウ約413種のうち43%を占めるまでに繁栄しています。

元論文

The Evolution of Lures in Anglerfishes (Acanthuriformes: Lophioidei): Investigating Nature’s Tackle Box
https://doi.org/10.1643/i2025018

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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