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ミイラの中から伝説の詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』を発見

  • 2026.4.21
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

古代エジプトのミイラの中から、まさか伝説的な詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』が見つかりました。

舞台はエジプト中部のアル・バフナサ。

古代には「オキシリンコス」と呼ばれたこの都市で、スペイン・バルセロナ大学の考古学調査により、約1600年前のローマ時代の墓から、ホメロスの叙事詩『イリアス』の一節を含むパピルスが発見されたのです。

しかも驚くべきことに、このパピルスはただ墓に納められていたのではなく、ミイラの腹部に組み込まれていました。

ギリシャ文学のテキストが、意図的にミイラ化の過程に取り込まれていたことが確認されたのは、考古学史上初めてとされています。

死者の体の中に、西洋文学を代表する古典の断片が眠っていたわけです。

目次

  • なぜミイラの中に『イリアス』が入っていたのか?
  • 「黄金の舌」も発見ーー見えてきた「死後の世界観」

なぜミイラの中に『イリアス』が入っていたのか?

【イリアスの一節が記されたパピルスの実際の画像がこちら

この発見があったのは、第22区画の第65号墓と称される発掘地です。

調査チームは2025年11月から12月にかけてここを発掘し、木棺に納められたローマ時代のミイラを調べる中で、腹部に置かれたパピルスを確認しました。

実は、ミイラと一緒にパピルスが埋葬されること自体は、前例がないわけではありません。

これまでにも、胸部や骨盤周辺に、包帯の下へ折りたたまれて粘土で封印されたギリシャ語パピルスが見つかっていました。

ただし、そこに書かれていたのは主に呪術的、儀礼的な文言でした。つまり、死後の旅や来世での守りに関わるような内容です。

【発見されたミイラの画像がこちら

ところが今回は違いました。

修復と分析の結果、そこに書かれていたのがホメロスの『イリアス』第2巻の有名な一節、「船団目録」だと判明したのです。

これはトロイア戦争に参加したギリシャ軍の勢力を列挙する場面で、西洋文学史でも特によく知られた部分です。

ただし、ここで注意したいのは、亡くなった人物が『イリアス』の愛読者だったから、一緒に葬られたと断定はできない点です。

チームによれば、このパピルスは再利用されていた可能性があります。

もともとは『イリアス』の写本だった素材が、後に魔術的な用途のために使い回され、結果としてミイラ化の工程に取り入れられたとも考えられています。

「黄金の舌」も発見ーー見えてきた「死後の世界観」

今回の発見が面白いのは、『イリアス』だけではありません。

この墓地では、ローマ時代の人々が死後の世界をどう想像していたのかをうかがわせる品々も見つかっています。

特に目を引くのが、死者の口に入れられていた小さな金の舌です。

考古学者たちは、これを「死後も話せるようにする」ためのものとみています。

金は腐りにくいと考えられていたため、舌を守り、死者がオシリスの審判で自らを弁明できるようにする意味があったらしいのです。

まるで来世に向かうための“発声装置”のようでもあります。

【黄金の舌の画像がこちら

さらに墓地からは、ミイラだけでなく火葬された遺骨も見つかりました。

ある部屋では、大きな壺の中に成人の焼骨と乳児の骨、さらに動物の頭部が布に包まれて納められていました。

別の部屋でも、複数人の火葬遺骨と動物骨が一緒に確認されています。

つまりこの墓地では、ミイラ化と火葬という異なる埋葬法が並存していたのです。

加えて、ハルポクラテス(ギリシア神話の沈黙の神)やキューピッド(ローマ神話の愛の神)に似た小像も出土しており、エジプト的な信仰とギリシャ・ローマ的な文化が入り交じっていたことも見えてきます。

オキシリンコスは単なる地方都市ではなく、複数の文化や宗教観が重なり合う場でした。

だからこそ、エジプトのミイラの中からギリシャ叙事詩の断片が出てくるという、一見奇妙な出来事も起こりえたのでしょう。

古代の墓は、しばしば静かな場所として語られます。

しかし実際には、そこには生者たちの信仰、知識、習慣、そして文化の混ざり合いが濃密に封じ込められています。

今回のミイラは、そのことを非常に鮮やかに示してくれました。

最後に見つかったのが『イリアス』だったというのも象徴的です。

戦争と栄光を歌う叙事詩が、長い時を経て死者の体内から現れたのです。

古代の人々にとって、言葉は生者のものだけではなく、死後の世界にまで持ち込まれる力を持っていたのかもしれません。

参考文献

The UB’s archaeological mission in Oxyrhynchus has found Homer’s ‘Iliad’ inside a Roman-era mummy
https://web.ub.edu/en/web/actualitat/w/oxyrhynchus-iliad-homer

They find the ‘Iliad’ on the abdomen of a mummy in Egypt
https://en.ara.cat/culture/they-find-the-iliad-the-abdomen-of-mummy-in-egypt_1_5713068.amp.html

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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