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【小公女】シンガーソングライターの谷山浩子さんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン

  • 2026.4.17
撮影=藤巻 斉(フレイム)

『小公女』『赤毛のアン』などの海外小説から、日本の戦前の少女小説、少女小説レーベル、そして現代文学へと受け継がれてきた“少女の物語”。そこで描かれる誇り高き少女たち、少女的な感性で生きるヒロインたちは、いくつになっても心のなかに生き続け、私たちに希望や勇気、自信を与えてくれます。そんな小説を愛し、少女の心を持ち続ける方々が、名作から学んだこととは……?

想像力、好奇心、生活知。各々の“武器”で世界と対峙する

セーラ・クルー 『小公女』

私にとっての少女小説の原点は、小学校2年生のときに小学館の『少年少女の世界名作文学全集』を買ってもらったことでした。その第1回配本が、バーネットの『小公子』『小公女』『秘密の花園』の3作だったのです。

『小公女』は、大人になって読み返してみると、記憶の中のストーリーが「所詮は裕福な育ちのお嬢様の話でしょう?」といった、ひねくれた大人の視点に書き換えられていたことに気づきました。でも再読して、それは違うなと思ったんです。セーラは単なる特殊な環境の子ではなく、「優しさの天才」なんだと。彼女は過酷な状況に身を落としても、自分を「責任ある立場にある公女(プリンセス)」であると規定することで、凜とした強さを保ち続けます。

[『小公女』(角川文庫)P194]無一文となったセーラが、極限の飢えの中、拾った銀貨で買ったパンを、より困窮した物乞いの少女へ分け与える場面でつぶやく言葉。自身も貧困状態にありながら、「公女なら民を救うべき」と自らを律し、利他の精神を優先する。 Hearst Owned

セーラは想像力を「剣」にして、モンスターのような現実と戦った。そういう意味では、冒険小説的な側面もあると思います。上に挙げた場面は、空腹と寒さでボロボロになりながらも自分を公女という立場に置くことで、他者との関係をどう築くかを自ら決めていく、セーラの想像力の強さを示す象徴的なシーンです。

この「なりきる」という想像の力は、大人の女性が挫折して自己イメージが下がってしまったときにも、非常に効きます。公女でなくても「自分が尊敬する人ならどう振る舞うか」と想像することで、心が高揚し、自分を保つことができるのではないでしょうか。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『小公女』

バーネット/著 羽田詩津子/訳
KADOKAWA/角川文庫 836円

19世紀末のロンドン。裕福な家庭で育ったセーラは、良家の子女が学ぶ女子寄宿学校に、特別寄宿生として迎えられ、その気品と暮らしぶりから「小公女」と称される。しかし父の急死で境遇は一変し、無一文の召使に。屋根裏部屋での過酷な日々においても「心は公女」という矜持を失わず、想像力を羽ばたかせて運命に立ち向かう。

メアリ・レノックス『秘密の花園』

対照的なのが同じ作者の『秘密の花園』のメアリ。彼女は特殊な環境下に置かれてはいるけれどいたって“普通の子”で、自らの内側に世界を広げるセーラとは違い、子どもらしい「好奇心」で外の世界を切り開いていきます。

もし現代のようにスマホやゲームがあったら、メアリは秘密の花園には辿り着かず、部屋から出なかったかもしれません。何もない不自由な環境だったからこそ、持ち前の好奇心や素直さが伸びやかに発揮されたのでしょう。

メアリやいとこのコリンが心身ともに健康になっていくなかで、髪の生え際が自然に立ち上がってくるという描写があります。栄養が体の隅々まで行き届いたことを示すような、リアリティのある表現にとても感動しました。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『秘密の花園』

フランシス・ホジソン・バーネット/著 畔柳和代/訳
新潮文庫 880円

児童文学の傑作としても名高い長編。インドで両親の愛を知らず、気難しく育った孤独な少女メアリ。英国の叔父の館へ引き取られた彼女は、10年もの間放置されていた“秘密の花園”と出合う。荒れ果てた庭を自らの手で再生させる過程で、頑なだった心もまた、ヨークシャーの自然や友との交流を通じてみずみずしく花開いていく。

ペリーヌ・パンダヴォワーヌ『家なき娘』

マロの『家なき娘』もずいぶん昔に読んだので、ストーリーについての記憶は再読するまで朧げでした。ただ、ずっと強烈に覚えている部分があって、それは、主人公のペリーヌが廃屋でほとんど野宿のように暮らしながら、大きな葉っぱをお皿にして食事したり、なけなしの小銭で買った布と裁縫道具で靴や肌着を作ったりして、自分の居場所を心地よく整えていくくだり。

彼女は周りと自分を比較して「不幸だ、惨めだ」と考える感覚が薄く、ただ「いまを生きる」という健やかな強さをもっています。SNSなどで他人と比較して毒を溜めてしまいがちな現代において、ペリーヌのような「どんな状況においても自分は自分である」という姿勢は、とても大切なメッセージを与えてくれます。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『家なき娘』上・下

エクトール・マロ/著 二宮フサ/訳
偕成社文庫 ※古書のみ、電子版あり

両親を亡くし、孤独な旅を続ける少女ペリーヌ。父の故郷であるフランスを目指し、過酷な道行きの果てに祖父が経営する巨大な工場へと辿り着く。素性を隠して働き始めた彼女は、持ち前の知性と誠実さで周囲の信頼を勝ち得ていく。逆境でも自らの創意工夫と行動力で前に進み、居場所を摑み取るまでの、不屈の精神を描いた一大ロマン。

Hearst Owned

たにやまひろこ〇1972年「銀河系はやっぱりまわってる」でデビュー。幻想的な楽曲で唯一無二の世界を築く。6月に「谷山浩子 Billboard Live」を開催。4日(木)Billboard Live TOKYO、11日(木)Billboard Live OSAKA。詳細は公式サイトで確認を。

少女小説をもっと知るためのイベント

特別展 生誕130年吉屋信子展 シスターフッドの源流

会期:4月4日(土)~5月31日(日)
時間:9時30分~17時(入館は~16時30分)
会場:神奈川近代文学館
休館日/月曜(5月4日は開館) 入場料/800円

20歳で作家デビューし、大正、昭和を通じて、旺盛な活動を続けた人気作家、吉屋信子。連作短編集『花物語』は、女学生を中心に熱狂的な支持を集め、日本文学史に少女小説という一ジャンルを築いた。

作中で多様な女性像や女性同士の関係を描き、自身も同性のパートナーと生涯をともにした信子。神奈川近代文学館が所蔵する膨大な資料を中心に、信子の人生と作品に「女性同士の絆」という観点から新たな光を当て直す。

集英社コバルト文庫創刊50周年ときめくことばのちから──少女小説家は死なない!─

会期:4月29日(水・祝)~5月10日(日)
時間:10時~20時(入館は~19時30分)
会場:西武渋谷店A館7階催事場
入場料/1,500円

1976年5月28日に創刊し、今年で50周年を迎えるコバルト文庫。1980年代から2010年代にかけて生み出されてきたコバルト文庫の物語と言葉は、多くの少女たちを夢中にさせ、“いちばんの親友”としていつも寄り添ってきた。

本展では、「ことば」「ときめくことばのちから」に着目し、コバルト文庫の50年の歴史と魅力を掘り起こす。日替わりでゲストとして登壇するコバルトのレジェンド作家たちにもご注目!

撮影=藤巻 斉(フレイム) 編集・文=柏木敦子(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年5月号より

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◾️特集「少女小説が教えてくれたこと」

辻村深月さんにとっての少女小説とは?|それは「わたし」の物語
【赤毛のアン】あんびるやすこさんが語る、わたしの好きな少女小説のヒロイン
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