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北斎とチュルリョーニス|江戸とリトアニアを繫ぐ「浪」

  • 2026.4.16
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葛飾北斎《冨嶽三十六景》より「神奈川沖浪裏」、1830–33(天保1–4)年頃、横大判錦絵、井内コレクション(国立西洋美術館に寄託)

山口桂さん、河内タカさん、小崎哲哉さんが交代で担当している『婦人画報』のアートコーナー「アートの杜 賢者の深掘り」では、開催中の注目の美術展をピックアップ。

「クリスティーズジャパン」代表取締役社長の山口桂さんが今回ご紹介するのは、『北斎 冨嶽三十六景 井内コレクションより』と、『チュルリョーニス展 内なる星図』です。

世界を魅了した北斎の波。海を描いた芸術家たち

今世界の何処かで外国人に「日本の絵で一番好きな作品は?」と尋ねれば、恐らく回答者の多くはアニメや漫画のキャラクターやシーンを答えるだろうが、ことファインアートに限って聞けば、その答えの多くは雪舟でも等伯でもなく、草間彌生か「北斎」では無いだろうか。

その北斎の作品の中でも、彼の大ヒット錦絵シリーズ《冨嶽三十六景》中の「神奈川沖浪裏」は、最も世界に知られたアイコニックなイメージで、海外でも日本絵画の代表選手的に見られている傑作だ。この「神奈川沖浪裏」は、富士山を描いたシリーズ中の一作にもかかわらず、富士山は波濤の向こうに少し見えるだけで、絵の主人公は大きな波と木の葉の様に揺れる舟……その構図のダイナミックさは19世紀から多くの外国人を魅了し、ドビュッシー等の芸術家にも影響を与える程であった。

もう一つ言えば、ここ数年でこの作品の価格は30年前に比べて10倍以上の3億円に至り、版画としては異例の上昇率として、一躍世界のアートマーケットの寵児となっているのだが、それもこういった歴史的背景があるからに違いない。

そんな大人気の「神奈川沖浪裏」の中でも、格別に状態の良い一枚が国立西洋美術館に登場する。この世界有数の状態の作品が「東博」でなく「西美」で展覧される理由は、その持ち主であるコレクター井内英夫氏がピカソなどの西洋美術コレクションを寄託しているからなのだが、今回の展示では氏の所有する本作を含む《冨嶽三十六景》のコンプリート・セットに加え、“赤富士”の色変わり版、通称“青富士”も出展される。

ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス《第5ソナタ(海のソナタ):フィナーレ》1908年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.

そして同館同時開催の『チュルリョーニス展』には、この「神奈川沖浪裏」から影響を受けたと推察される、《第5ソナタ(海のソナタ):フィナーレ》が展示される。リトアニアに生まれ35歳という若さで夭折した、作曲家でもあったチュルリョーニスは、僅か6年間に300点以上作品を残したが、音楽形式を取り入れたその作品群は、アール・ヌーヴォーや象徴主義、ジャポニスムといった芸術運動に呼応したもの。そしてこの《海のソナタ》はその意味でも、ドビュッシーの『交響詩「海」』において関連性が指摘される様に、北斎の「神奈川沖浪裏」がなければ生まれなかった作品ではなかろうか?と思わせるに余りある作品。江戸とリトアニアを繫ぐ「浪」を、今すぐ西美へ観に行こう!

北斎 冨嶽三十六景 井内コレクションより

2024年に井内コレクションより寄託された、葛飾北斎の《冨嶽三十六景》全46図に摺り違い2点を含めた計48点を初披露。浮世絵を表裏両面から鑑賞できる展示もある。

会期/~2026年6月14日(日)
時間/9時30分~17時30分(金・土曜~20時)
休館日/月曜、5月7日(5月4日は開館)
料金/一般2,200円ほか
tel.050-5541-8600
会場/国立西洋美術館 企画展示室B3F[東京・上野]
Google mapで確認
東京都台東区上野公園7-7

国立西洋美術館 公式サイト

チュルリョーニス展 内なる星図

人間の精神世界や宇宙の神秘を描いた作品で知られるリトアニアを代表する芸術家、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニスの大回顧展。日本初公開の《レックス(王)》ほか、彼の音楽を体感できる展示も必見。

会期/~2026年6月14日(日)
時間/9時30分~17時30分(金・土曜~20時)
休館日/月曜、5月7日(5月4日は開館)
料金/一般2,200円ほか
tel.050-5541-8600
会場/国立西洋美術館 企画展示室B2F[東京・上野]
Google mapで確認
東京都台東区上野公園7-7

国立西洋美術館 公式サイト

やまぐちかつら〇1963年東京都生まれ。世界で最も長い歴史を誇る美術品オークションハウスの日本支社「クリスティーズジャパン」代表取締役社長。長年、東洋美術部門インターナショナル・ディレクターを務めてきた古美術の目利き、日本美術のスペシャリスト。近著は『死ぬまでに知っておきたい日本美術』(集英社新書)。

文=山口桂 編集=吉岡尚美(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年5月号より

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