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「女王しかいないアリ」を世界で初めて報告ーー子育ての仕方が恐ろしかった

  • 2026.4.16
Credit:Generated by gemini.google,ナゾロジー編集部

森の中でひっそりと暮らすアリたちの社会は、女王アリが子を産み、働きアリがそれを育てるという“分業”によって成り立っています。

ところが、その常識を根底から覆す存在が、日本の里山に棲んでいたのです。

国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所などの研究グループは、「キノムラヤドリムネボソアリ」という種が、働きアリもオスアリも持たず、女王だけで繁殖する極めて特異な生態を持つことを報告しました。

しかしさらに驚くべきは、このアリの“子育ての方法”です。

女王アリしかいませんから、自分で子どもを育てることはしません。

では一体どうしているのでしょうか。

研究の詳細は2026年2月の学術誌『Current Biology』に掲載されています。

目次

  • 他種の巣の女王アリを殺して、子育てをさせる
  • 「女王だけで増える」常識を覆す繁殖システム

他種の巣の女王アリを殺して、子育てをさせる

キノムラヤドリムネボソアリは、在野アリ学者である木野村恭一氏が40年以上前に岐阜県の里山で発見したアリです。

学名も木野村氏に由来しています。

キノムラヤドリムネボソアリは女王様しかいませんから、単独で巣を作り、子育てを行うことができません。

その代わりに取る行動は、かなり過激です。

このアリの女王は、別種のアリ(ハヤシムネボソアリ)の巣に侵入し、最初にその巣の女王を殺してしまいます。

そして、女王を失った巣に残された働きアリたちに、自分の子ども(幼い女王アリ)を育てさせるのです。

つまりこのアリは、

他種の社会を乗っ取り、子育てを丸ごと任せる「社会寄生」

という戦略をとっていたのです。

このような寄生的な生活をするアリは他にも知られていますが、通常は自分たちの働きアリを一部持っています。

しかし本種は違います。

自分の種の働きアリを完全に持たない

・子育て機能を100%他種に依存する

という、極端な形にまで進化しているのです。

「女王だけで増える」常識を覆す繁殖システム

さらにこのアリの驚くべき特徴は、その繁殖方法にあります。

通常のアリでは、女王はオスと交尾して受精卵を産み、働きアリや新たな女王が生まれます。

しかしキノムラヤドリムネボソアリには、そもそもオスが存在しません。

チームは、交尾していない女王を用いた飼育実験を行いました。

その結果、寄生に成功したすべての巣で、羽化したのは新しい女王のみであり、働きアリやオスは一切確認されませんでした。

さらに、女王の体内にある受精嚢(精子を貯蔵する器官)を調べたところ、

・器官が萎縮している

・精子が存在しない

ことが確認されました。

これらの証拠から、このアリは交尾なしでメスだけを産む「雌性単為生殖」によって繁殖していると結論づけられました。

つまりこの種は、女王が女王だけを産み続ける“クローン増殖社会”なのです。

同じ遺伝子なのに姿が分かれる謎

さらに研究者たちは、もう一つ奇妙な現象を発見しています。

生まれてくる新女王には、

・翅(はね)を持つタイプ

・翅を持たないタイプ

の2種類が存在していました。

(a)キノムラヤドリムネボソアリ(翅なし)に寄生された他種の巣内、(b)羽化したてのキノムラヤドリムネボソアリ(翅あり)(撮影:木野村恭一)/ Credit: 森林研究・整備機構(2026)

しかしこれらはすべて、同一の母親から単為生殖で生まれた個体です。

つまり遺伝的にはほぼ同じ“クローン”であるはずです。

それにもかかわらず、形態が分かれるということは、環境条件や発生過程によって役割が決まる可能性が示唆されます。

この仕組みはまだ解明されておらず、今後の大きな研究課題とされています。

「社会」を捨てたわけではない

一見すると、このアリは社会性を失ったように見えます。

働きアリもいなければ、子育ても自分では行いません。

しかし実際には、そう単純ではありません。

このアリは、他種の社会を利用することで、自分たちの社会機能を維持していると考えられます。

つまり、

・繁殖は自分で行う

・子育てを含む労働は他種に任せる

という形で、社会の役割を“外部に委託”しているのです。

この発見は、「生物にとって社会とは何か」という根本的な問いに新しい視点を与えます。

社会は必ずしも一つの種の中で完結する必要はないのかもしれません。

日本の里山という、ごく身近な環境に潜んでいたこのアリは、アリ社会の常識を根底から覆す存在でした。

女王だけで増え、子育ては他種に任せるというその生き方は、一見すると極端で異様にも思えます。

しかしその姿は同時に、進化がいかに柔軟であるかを示しています。

社会を自分で築くのではなく、すでにある社会を利用するという戦略もまた、生き残るための一つの答えだったのです。

参考文献

女王しかいないアリ、キノムラヤドリムネボソアリ —里山から、世界初の生態を報告—
https://www.ffpri.go.jp/press/2026/20260414/index.html

元論文

A parasitic, parthenogenetic ant with only queens and without workers or males
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.11.080

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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