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『税理士がすすめるなら』3,500万円で戸建てを売却→“買換特例”でマンションに住み替え…3年後、60代夫婦が“青ざめたワケ”

  • 2026.5.20
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。金融機関でマネージャーを務めながら、住み替えや相続まわりのお金のご相談を数多くお受けしてきた中川です。

今回ご紹介するのは、長年住んだ戸建てを売却して駅近マンションへ住み替えた68歳のAさん(仮名)ご夫婦の体験談です。「3,000万円控除があるから無税のはず」と決めてかかっていたところに、税理士から提案された「買換特例」を選び、数年後に想定外の課税の存在に気づかされた一件です。

「3,000万円控除があるから無税」と決めていた住み替え

Aさんは68歳、ご夫婦で営んでいた建材小売業を3年前に廃業されました。

妻のBさんは64歳。お子さま2人は独立されています。

ご夫婦が決断されたのは、30年以上住んだ郊外の戸建てを売却し、駅近のシニア向けマンションへ住み替えることでした。3,500万円で取得した戸建てに5,200万円の買い手がつき、新居は6,000万円のマンション。譲渡益はおよそ1,700万円です。

「マイホームを売ったときは3,000万円控除があるから、うちは無税のはずだよ」

Aさんはご近所の集まりでもそう話していたといいます。お住まいを売却したときの「居住用財産の3,000万円特別控除」は、要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける制度です。譲渡益1,700万円ならまるごと枠に収まる。そう信じておられました。

税理士から買換特例の提案

不動産会社の紹介で訪ねた税理士から、Aさんは思いがけない提案を受けます。

「将来お子さまへの贈与や売却も視野に入れていらっしゃるなら、『特定の居住用財産の買換特例』を選ぶ選択肢もあります。今期の譲渡益への課税を将来の譲渡時まで繰り延べる仕組みです」

3,000万円控除と買換特例は併用できないとされており、どちらか一方を選ぶ必要があります。税理士の試算では、買換特例を選べば今期の譲渡所得税は発生しない計算でした。

「3,000万円控除でも無税、買換特例でも無税。それなら、税理士さんがすすめてくれるほうで」
Aさんは深く考えず、税理士のすすめに従って買換特例を選択されました。

ご長男との会話で発覚した事実

転機は住み替えから3年後、長男との何気ない会話でした。

「将来このマンションを売って施設に入るときは、また3,000万円控除が使えるんでしょ?」

返答に詰まったAさんは、改めて当時の税理士に問い合わせます。担当税理士は申し訳なさそうにこう告げます。

「買換特例は『免税』ではなく『課税の繰延』です。新しいマンションを将来売却されるとき、旧自宅の取得費をベースに計算されるため、新居の課税上の取得費は実際の購入価格6,000万円ではなく、旧自宅の取得費3,500万円に両物件の価格差800万円を加えた4,300万円となります。購入価格6,000万円より大幅に低い計算になります」

Aさんが繰り延べた約1,700万円の譲渡益は、消えたわけではなかったのです。将来マンションを売れば、その時点での売却額から「引き継いだ取得費」を差し引いて譲渡所得を計算するため、当時の譲渡益と新たな値上がり益が同じタイミングで顕在化します。

「3,000万円控除を使っていれば、譲渡益1,700万円はそこで完結し、将来の売却時は新居の取得費6,000万円を基準に計算できたはずです」

Aさんの背中に冷たいものが走ったといいます。これは制度を知らずに選択した場合の典型的な結末です。一度選択した特例の変更は原則として認められないため、住み替え時の選択は慎重な判断が必要になるのです。

勘違いで損をしないために

Aさんのケースから学べるのは、住み替え時の特例選択は「目先の税金」だけでなく「将来の売却・贈与まで含めた出口設計」で比べる必要があるということです。

3,000万円控除は譲渡益をその場で打ち消す制度、買換特例は将来へ繰り延べる制度。性格がまったく違うにもかかわらず、「今期が無税なら同じ」と感じてしまう怖さがあります。所有期間10年超のお住まいなら軽減税率特例との組み合わせも論点です。

判断の前に、必ず税理士または所轄の税務署にご相談ください。その際は「今期の税金」だけでなく、「将来の売却時にどう跳ね返るか」まで具体的に質問することが大切です。


※マイホームを買い替えた際の譲渡所得税の特例措置は、所有期間や居住要件、買い替える物件の床面積などによって非常に細かい適用基準が定められています。実際の選択にあたっては、自己判断せず、必ず事前に管轄の税務署や不動産税務に強い税理士へ直接ご相談ください。

執筆・監修:中川 佳人(なかがわ よしと)(@YoshitoFinance)
金融機関勤務の現役マネージャー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。 20年にわたり、資産形成や家計管理・住宅ローンなどの実務に携わってきた経験を活かし、記事の監修や執筆を行っている。 専門的な内容を、誰にでもわかりやすく伝えることをモットーとしている。

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