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「パンくず」から「水素」を生み出す新技術の開発に成功

  • 2026.4.3
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

パンくずが、未来のエネルギーになるかもしれません。

私たちが日常的に捨てているパンの切れ端が、環境問題の切り札となる可能性があるのです。

英エディンバラ大学(The University of Edinburgh)の研究チームは、食品廃棄物であるパンくずから水素を生み出し、それを使って化学反応を進める新技術を開発しました。

では、なぜパンくずが水素になるのでしょうか。

そして、それはどれほど画期的なことなのでしょうか。

研究の詳細は2026年2月23日付で科学雑誌『Nature Chemistry』に掲載されています。

目次

  • パンくずが「水素」になる仕組みとは?
  • 「パンくず」が「資源」に変わるとき

パンくずが「水素」になる仕組みとは?

今回の研究の核心は、「微生物」「金属触媒」を組み合わせた点にあります。

金属触媒とは、簡単にいうと、金属を使って、化学反応を速く・効率よく進める“手助け役”のようなものです。

通常、化学工業で使われる水素は、天然ガスなどの化石燃料から作られています。

しかもその過程では、水素1キログラムあたり15〜20キログラムもの二酸化炭素が排出されるため、大きな環境負荷が問題になっていました。

そこで研究チームは、「そもそも水素を自然から取り出せないか」と考えます。

注目したのは「大腸菌」のような細菌です。

これらの細菌は、酸素のない環境で活動すると、水素ガスを自然に発生させる性質があります。

つまり、細菌は“水素を作る小さな工場”のような存在なのです。

ただし、ここで問題がありました。

水素を作ることはできても、それを化学反応に使うには別の仕組みが必要だったのです。

そこで登場するのが「触媒」です。

研究チームは、パラジウムという金属を使った触媒を細胞の表面に配置しました。

すると、細菌が放出した水素がすぐに金属触媒(パラジウム)に捕まえられ、その場で「水素化反応」が進むようになったのです。

水素化反応とは、分子に水素を加える反応で、食品の加工やプラスチック、医薬品の製造など、私たちの生活を支える多くの場面で使われています。

つまりこの研究は、

「細菌が水素を作る」

「その水素をすぐに化学反応に使う」

という2つの工程を、ひとつのシステムにまとめることに成功したのです。

さらに驚くべきことに、このシステムは非常に効率的で、最大で94%という高い収率で目的の化学物質を作り出すことが確認されています。

「パンくず」が「資源」に変わるとき

この研究のもうひとつの大きなポイントは、「パンくず」という素材にあります。

実験の初期段階では、細菌にエネルギー源としてグルコース(ブドウ糖)を与えていました。

しかしグルコースはコストがかかるため、実用化には不向きです。

そこで研究チームは、より安価で持続可能な代替を探しました。

そして目をつけたのが、食品廃棄物として大量に捨てられている「パンくず」でした。

パンくずに含まれる炭水化物は、そのままでは細菌が利用できません。

そこでチームは微生物の酵素を使い、複雑な炭水化物をグルコース(糖)に分解しました。

こうして得られた「廃棄物由来の糖」を細菌に与えることで、「パンくず → 糖 → 水素 → 化学製品」という流れが実現したのです。

さらにチームは、遺伝子改変によって細菌自身に「必要な原料を作らせる」ことにも成功しました。

これは、単にエネルギーを供給するだけでなく、化学反応に必要な材料そのものを細胞内で生み出せることを意味します。

いわば、細菌が「自分で燃料を食べて、水素を作り、さらに製品の材料まで準備する」という、極めて高度な“生きた工場”へと進化したのです。

環境面での効果も非常に大きなものがあります。

この方法では、従来の化石燃料を使ったプロセスに比べて温室効果ガスの排出量が大幅に減少し、条件によっては「カーボンネガティブ」、つまり排出よりも多くの炭素削減につながる可能性が示されています。

これは単なる省エネではなく、「環境を回復させる化学プロセス」への第一歩ともいえる成果です。

パンくずが未来の工場を動かす?

もちろん、この技術はまだ発展途上です。

現時点で、大規模な工業プロセスとして使うには、効率やコスト、触媒の安定性といった課題が残されています。

しかし重要なのは、この研究が「全く新しい考え方」を提示した点にあります。

これまでの化学工業は、「原料を取り出し、加工し、廃棄する」という一方向の流れでした。

一方で今回の技術は、

・廃棄物を原料にする

・ 生物の力でエネルギーを生み出す

・ その場で化学反応を完結させる

という、循環型の仕組みを実現しています。

もしこの技術が発展すれば、将来的には食品廃棄物から医薬品やプラスチック原料を作る「持続可能な化学工場」が実現するかもしれません。

私たちが何気なく捨てているパンくずが、未来の産業を支える重要な資源になる。

そんな時代が、すぐそこまで来ているのかもしれません。

参考文献

Chemists make hydrogen from breadcrumbs in groundbreaking reaction that could replace some fossil fuels
https://www.livescience.com/chemistry/chemists-make-hydrogen-from-breadcrumbs-in-groundbreaking-reaction-that-could-replace-some-fossil-fuels

元論文

Native H2 pathways enable biocompatible hydrogenation of metabolic alkenes in bacteria
https://doi.org/10.1038/s41557-025-02052-y

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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