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【カメラマン幡野広志】カメラ初心者の95%は才能あり?『いい写真は誰でも撮れる』に学ぶ上達の最短ルート《インタビュー》

  • 2026.3.29
写真 幡野広志
写真 幡野広志

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写真家として数々の著書を上梓、ワークショップでも多くの人に支持される幡野広志さん。新著『いい写真は誰でも撮れる』(ポプラ社)は、幡野さん自身が「写真の本はこれで最後にするつもり」と決意を固めた1冊だ。

新著は、カメラや写真を取り巻く社会への思い、そして、撮影にまつわる実践的なマインドやテクニックを惜しみなく収録。タイトルのとおり「いい写真は誰でも撮れる」と語る幡野さんに執筆の背景、写真を楽しむための秘けつなどを聞いた。

カメラや写真の世界では「情報を発信する人の数だけ正義」がある

いい写真は誰でも撮れる 幡野広志 / ポプラ社
いい写真は誰でも撮れる 幡野広志 / ポプラ社

――2026年3月発売の新著『いい写真は誰でも撮れる』は、幡野さんにとって、2023年11月発売の『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』(ポプラ社)以来となる、写真について真正面から向き合う1冊となりました。

幡野広志さん(以下、幡野):前著(『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』)もおかげさまで評判がよかったんです。ただ当時、僕の本をきっかけに写真をはじめた人たちの中には「写真が嫌いになった」として、撮ることをやめてしまった人もいて。前著では“きれいごと”ばかりを並べてしまった反省もあったし、酸いも甘いもさらけ出して、ほどよく写真を楽しんでもらうための本を作りたいと思って、執筆しました。

――アマチュア、ハイアマチュア、プロと、楽しむ人たちのレイヤーもさまざまな写真の世界では、誰かに意見をするにも難しさがありそうですね。『いい写真は誰でも撮れる』では、前著で「書きたいけど炎上するから書けないジレンマ」もあったと、振り返っていました。

幡野:一番に書きたいことは、書けなかったんですよ。『いい写真は誰でも撮れる』では、僕なりにブレーキをはずしたつもりです。理由は、写真で不幸になる人たちをこれ以上出すことを食い止めたかったから。写真家としての15年で、実際にそんな人たちを見てきたんです。

本来、向いていなかったのにカメラを趣味にしてから散財して、家庭を壊してしまった人たち。プロであっても大成できず、それでも業界にしがみつこうとして、家族を不幸にしてしまう人たちもいました。近頃は、SNSやYouTubeでカメラや写真の情報を積極的に発信する人たちもいますが、玉石混淆ですし、アマチュアの方々が食い物にされてしまうような情報も目立っていたので、どうしても書かずにはいられなかった。

――新著では「カメラの本やSNSで発信されることは、不勉強でレベルが低かったり、そもそも非科学的だったりします」と、痛烈な一言もありました。

幡野:宗教対立と構造は似ていて、カメラや写真についての情報を発信する人の数だけ正義があるし、それぞれが偏った思想になってしまっているんです。でも、自分のアイデンティティでもあるから、おたがいに譲れないんですよね。

1500人ほどが参加したワークショップでは「5%」で才能がある人も

写真 幡野広志
写真 幡野広志

――新著と同タイトルのワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」も主宰されています。どのような経緯でスタートしたのでしょう?

幡野:近畿大学医学部皮膚科の主任教授・大塚篤司さんのご自宅に招かれたのがきっかけだったんです。当時、高校生だった大塚さんの息子さんがスマホで写真を撮っているのを見て「素質があるなぁ」と思って、その場には作家の(岸田)奈美ちゃんもいたんですが、流れで「今度、写真の撮り方を教えてあげるよ」となりました。

その後、別の日に京都で2人に数時間レクチャーをしました。2人が持っているカメラの設定を見直して、あとは「(自分の目で)見たものを中心に据えながら撮ろう」と伝えるぐらいでしたけど、大塚さんの息子さんがさらにコツをつかんで。撮影が苦手だった奈美ちゃんもグンッと上手になったのを見て「同じように教えれば、ほとんどの人が上達するんじゃないか」と思ったのが、ワークショップのはじまりでした。

――シンプルなタイトル「いい写真は誰でも撮れる」には、どのような意味があるのでしょうか?

幡野:言葉のとおりですよ。本当、いい写真は誰でも撮れるんです。背景には、プロとしての経験もあります。広告を中心に撮影してきた中で、それこそ経験の浅かったときは先輩から「お前にはできない」と言われることも多かったんです。写真の世界では根性論もまかりとおっているし、可能性がある人たちに対して「お前はダメ」なんて、それこそダメですよね。いわれのない言葉によって潰されてしまった人たちもいたので、僕はその逆を行って、カメラや写真の楽しさを伝えられればと思いました。

――ワークショップを受講されるのは、どのような方々なのでしょう?

幡野:北海道から沖縄まで、全国に参加者がいます。年齢層もさまざまで、10代で学生の方もいますし、上は70代ぐらいですね。アンケートで職業も尋ねていて、中には編集者やライターの方もいらっしゃいます。意外と、医療関係者の方々も多いんです。10人中半数以上が、医療関係者の日もありました。

――レクチャーする中で、写真に向いている人、向いていない人の傾向もあったのでしょうか?

幡野:これまでの受講者は1500人ほどなんですが、あまり向いていないかもという方は全体の5%程度で、残る95%の方は向いていたと思います。共通点はあって、車の運転が上手な人だったり、料理が得意だったり、道具を扱うのが上手い人はそもそも素質があるんです。なかでも、95%のうちのさらに5%は「本当に才能がある」と、こっちが驚いてしまう人もいます。写真をはじめて間もないのに、僕をすでに追い越しているかのような1枚を撮る人もいて、レクチャーするとより伸びるし、教える側としてもうれしいです。

カメラを好きになるためのマインド「写真をアイデンティティにしない」

写真 幡野広志
写真 幡野広志

――ワークショップのように、新著でも写真を撮るにあたっての実践的なマインドやテクニックを伝えています。例えば、「見たものを撮ればいい」という一文は、写真への苦手意識があるひとりとして、肩の荷がスッと下りるような感覚をおぼえました。

幡野:ほとんどの方は、好きなものを撮ろうとしますよね。カメラを買うために家電量販店へ行っても、店員さんから「何を撮りたいですか?」と聞かれる。でも、そもそもこれからカメラをはじめようとする人が聞かれても、分からないじゃないですか。小学生に「将来、何になりたい?」と聞くようなもので、迷うに決まっているんです。それなら「見たもの」を撮って、まず、カメラを好きになるのが先だろうと思っています。

――InstagramのようなSNSでは、いわゆる“映える写真”がもてはやされる時代でもあって。誰にとっても“いい写真”を撮らなければいけないという風潮もあり、迷う人たちもたくさんいるのではないかと思います。

幡野:SNSが普及する以前とは違い、迷いやすい時代ではあると思います。特に、スマホで撮影が身近になってからはより顕著ですよね。実は、性能もさまざまな専用機のカメラと違って、スマホは機器による差がほとんどないので、それぞれの実力差が分かりやすく出てしまうんです。写真による不幸が生まれる原因でもあって、例えば、お父さんがスマホで撮った子どもの写真がイマイチで家族からの反応が悪く、撮ること自体が嫌いになってしまうケースもありました。学校では“インスタ映え”の同調圧力で苦しむ子もいますし、義務教育でも“写真教育”を取り入れてもいいのではないかと思うこともあります。

――苦しまずに続ける秘けつとして「写真をアイデンティティにしない」という考え方も、新著では伝えていました。

幡野:プロの世界では「アイデンティティ」にしている人たちが淘汰されていて、むしろ、写真家と名乗っていない人のほうが生き残っていると思います。アマチュアであっても「写真で何者か」になろうとしないのは、続けるために欠かせないマインドですね。大切なのは、かけ合わせです。カメラを好きになる秘けつでもあって、写真自体を目的としてしまうと、苦しくなってくるんですよ。例えば、僕のワークショップでは航空会社のパイロットの方に参加していただいたことがあるんですが、飛行機のコックピットから撮影した写真をInstagramにアップしていて「その人にしか撮れない写真」になっているんですよね。

――背伸びせず、身の丈に合った写真を撮るのが、写真を楽しむためには必要なのかと思いました。

幡野:大切です。写真を上達させるコツでもありますね。一番は、自宅から見慣れた風景を撮り続けること。なぜなら写真に欠かせない光の表現を身につけるための近道だからです。雪の写真はその一例で、毎年、雪が降ったり降らなかったりする地域の人と、冬に必ず雪が降る地域の人とでは、写真の完成度が違います。東京生まれの僕が雪の写真を現像してしまうと、画面越しに見るドラマや映画の影響で、全体が青みがかってしまうんです。でも、自然と雪になじんでいた人は、人が見たままの白い雪景色を写真で表現できる。結局「見たものを撮ればいい」が本当にすべてですし、その思いさえあれば、きっと写真を楽しめると思います。

取材・文=カネコシュウヘイ

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