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金継ぎして使い続ける、能登の木のお盆。写真と文:辰野しずか (クリエイティブディレクター、デザイナー) #4

  • 2026.3.28

我が家には、金継ぎの跡が残る木のお盆があります。使い始めてから、2年ほどになるでしょうか。家に迎えたときから、すでに金継ぎが施されていました。

金継ぎの跡が、小さな景色のように残る。

このお盆に出合ったのは、能登半島地震の後に開かれた、ものづくりを支援するイベントの場でした。会場には、能登の工房でつくられた器や道具が並び、震災で欠けてしまったものの中には、金継ぎが施されたものもありました。その中で目に留まったのが、能登の工房、〈四十沢木材工芸〉のお盆でした。このお盆は、手工業デザイナーの大治将典さんが手がけたものでもあります。以前から素敵だと思っていた品でもあり、手に取ったときには自然と惹かれるものがありました。

〈四十沢木材工芸〉を営むご夫婦とは、展示会などでお会いすることがありました。お二人ともやわらかな雰囲気の方で、会うたびに気さくに声をかけてくださいます。「いつか工房にも遊びに来てくださいね」と言っていただいたこともありました。そんなことを思い出しながら、そのお盆を選びました。

欠けた部分には金継ぎが施され、修復の跡がそのまま小さな景色のように残っています。その跡はどこか落ち着いた美しさをまとい、凛とした存在感を持つように感じられました。

能登でつくられた木のお盆。金継ぎの跡とともに使い続けている。

日常の中でこのお盆を使っていると、金継ぎの跡がふと目に入ります。遠く離れた能登の土地のことや、あの工房のご夫婦のことを思い出します。

ものは、ただ使うための道具ではなく、出来事や時間を引き受けながら、人の暮らしの中に残っていくものなのかもしれません。このお盆もまた、そんな時間を重ねていく道具のひとつです。

 

クリエイティブディレクター、デザイナー 辰野しずか

出典 andpremium.jp

たつの・しずか/〈Shizuka Tatsuno Studio〉代表。ロンドンのキングストン大学プロダクト&家具科を卒業後、2011年に独立。物事に潜む可能性を見つけ出し、昇華して可視化することを強みとし、実用的な道具から情緒的なオブジェまで領域を横断しながら制作を行う。造形の美しさにとどまらず、ブランドの核となるコンセプト設計や商品企画にも関わり、「ものづくりの軸」を定めた上で表現を組み立てている。プロダクトデザインを中心に、クリエイティブディレクション、展示空間の構成、アート制作へと活動を展開している。

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