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日本独自の飲み文化「スナック」で味わう東京の深い夜。1300軒以上を飲み歩いたスナック女子に聞く、人気のワケとは|21:00〜

  • 2026.3.24

21時。今日の仕事を成し終え、少しずつ夜の濃さが増していく深夜の入り口。1軒目の店を出ても、24時の終電まであともう少し日常という喧騒を離れていたい。そんな大人の夜を受け止めてくれる居場所が、「スナック」だ。日本独自の飲み文化であるスナックは、都内だけでも推定数千軒以上。近年は、若者や海外からも熱い視線を集めているという。今、スナックが求められる理由とは?

スナックに魅せられ、全国1300軒以上のスナックを飲み歩くスナック女子=スナ女®であり、外国人スナックツアー®やオフィススナック®、オンラインスナックなど、さまざまなスナックエンタテインメントを展開する「スナック横丁」を運営する五十嵐真由子さんに話を聞いた。

「本当の自分になれる」。今、スナックが求められる理由

五十嵐真由子さん。Harumari Inc.

「スナックの定義に明確なものはなく、起源も諸説あるんです」と五十嵐さんはいう。イメージとしては、ママやマスターがいて、客はカウンター越しにお酒を嗜む──そんな光景が浮かぶ。若い世代や外国人まで、多くの人を惹きつける所以は、どこにあるのだろう。

「スナックの最大の魅力は、“会話”です。中心にママやマスターがいて、おしゃべりしているうちに、カウンターに座る私たちもつながっていく。はじめは知らない同士でもいつの間にか盛り上がって、誰かがカラオケを歌えば、ハイタッチで沸く。この一体感は、他の業態の酒場にはありません。まさに“スナックエンタテインメント”なんです」(五十嵐さん・以下同)。

SNSが生活に根付き、インスタントなやりとりが当たり前になってしまった現在。失いかけていたコミュニケーションの“熱”が、スナックにはあるのだ。

そして、単にググるだけでは巡り会えない、隠れ家的なムードもまた、魅力のひとつ。「スナックの歴史は戦後までさかのぼると言われています。日本の古き良き時代のカルチャーを汲む存在であり、そのエリアの生活や人にディープに浸透している。そのノスタルジックな世界観が、海外の方にも刺さっているのだと思います」。

スナック女子・五十嵐さんは、スナック文化の振興のためさまざまな企画を行っている。そのひとつが、初心者向けのスナックツアー。参加者には20代の若い世代も多いそうだ。

若い世代がスナックを求める理由を五十嵐さんに聞くと、「多くの人は、学生時代をコロナ禍で過ごしている」という。お酒を介した深い会話をあまり経験してこなかった一方で、SNSではつい“よそ行きの自分”を表現してしまう。気づけば、なかなか本音をさらけ出せなくなっているのではないかと五十嵐さんは語る。

「そんな若者たちも、ママには素顔になって相談ができる。スナックが若い世代にもサードプレイスとしてポジティブに機能しているのを感じます。加えて、80年代・90年代カルチャーのリバイバルも、若者がスナックに向かう後押しになっていますね。歌謡曲の文化圏を突き詰めていくと、この場所に辿り着くようです」。

初心者向けのスナックツアーには、さまざまな年代・性別の参加者が集まる。Harumari Inc.

肩の力を抜いて、本音で話をしたいのは、若者も人生のベテランも、そして日本人も外国人も同じ。夜の風に誘われてこのドアを開ければ、違う自分になれる。それこそが、スナックという場所が持つ魔法のような魅力なのだ。

五十嵐さんの原体験から見る、スナックの魅力

実は五十嵐さんがスナックの魅力に取り憑かれたのも、まるで魔法のような出会いがあったからだ。スナック普及の活動をはじめる前、五十嵐さんは楽天トラベルでPRを担当していた。当時はまだまだ会社の知名度も低く、地方営業では門前払いをされることもままあったという。

「岐阜県の温泉地への出張が決まったときのこと。今度こそ営業がうまくいくように、前泊して街のことを予習しようと思ったんです。たまたま乗ったタクシーの運転手さんにそのことを話すと、『だったら姉ちゃん、まずはスナックに行かないと』と勧められました」。

これが、五十嵐さんのスナック初体験。恐る恐るドアをくぐると、そこには温泉街の有力者たちがずらりと集まっていた。

「みなさん、お店の常連さんで、ママのひと声で集まってくださったんです。『がんばれよ、応援してるから!』と勇気づけていただいて。『(翌日の営業先の)オーナーは知り合いだから、俺の名前出して大丈夫だよ』だとか。すっかり盛り上がって深夜1時まで飲んでしまって(笑)。本当に楽しい時間でした」。

結果、翌日の営業も大成功。このときに味わった、スナックという場ならでは肩書や立場を飛び越えて一体になる感動を忘れられず、五十嵐さんは全国のスナックを訪ね歩くようになった。

それにしても、ママや常連さんが初対面の五十嵐さんにそこまで親身になってくれたのはなぜなのだろう。

「本当に不思議なのですが、スナックではよく見る光景なんです。きっと、ママたちが当たり前にしている“おもてなし”なのでしょう」。

その場にいた常連さんたちも、かつてママから手を差し伸べられたことがあるのかもしれない。同じこの場所に辿り着いたからには、困っている人を助けたい! それもまた、スナックの持つ不思議な魅力だと言えそうだ。

東京は、終わりなき「スナックラビリンス」!

個性あふれる日本全国のスナックを飲み歩いた五十嵐さん。そんな五十嵐さんが思う、「東京のスナック」の楽しみ方は。

「かつての花街の名残で、昔ながらの横丁がいくつも残っているのが東京の特徴。狭い範囲にスナックが密集しているエリアも多いので、“ハシゴスナック”をぜひ楽しんでほしいです。あちこち巡り歩くことができるのは、東京ならではですね。私にとって東京は、“スナックラビリンス”です。探求しても探求しても、終わりがありません(笑)」。

数が多いだけに、コンセプチュアルな店舗が多いのも、特色のひとつだという。うどんや餃子など、ママの得意料理が名物になっているスナック、特撮怪獣のソフビが所狭しと並ぶスナック、ゴルフのパター練習ができるスナックなどなど。果ては縁結び上手なママがいる“婚活スナック”まであるのだとか!

「スナック初心者の方は、こうしたコンセプトのあるお店が入りやすいかもしれませんね。やっぱりスナックは“ママ・マスターの部屋”なんです。それぞれに店主の色があって、それに共鳴する人たちが集まる。だからこそ、唯一無二の居場所になるのだと思います」。

スナックがもたらす「人と人との会話でしか得られないこと」

しかしながら、過去には国内に数十万軒あったと言われるスナックも、減少し続けている。危機感を覚えた五十嵐さんが始めたのが、「スナック女子」としての活動だ。

コロナ禍にはオンラインスナックのプラットフォーム「スナック横丁」を立ち上げ、スナック界の大きな力となった。これが海外の日本好きの目にも留まり、コロナ以降のスナックツアーにつながる。

「スナックツアー®では2軒を巡り、スナックの知識を深めるクイズを交えながらガイドします。最初は照れがあった参加者も、1時間もすれば『ママ、また来るからね!』とすっかり楽しんでいて(笑)。日本人も、外国人も、同じなんです」。

ツアーでは、五十嵐さん自身がガイドを務めることも。Harumari Inc.

「この先どれだけ技術が進化しようとも、人と人とのコミュニケーションでしか癒せない部分が、間違いなくあります。そんな場を創り上げるママのファシリテーション力には大きな価値を感じます。スナックの魅力を世界中に発信して、いつかは無形文化遺産に登録できたら──そのくらいの覚悟を持って、スナック女子、そしてスナック横丁での活動をしています!」。

五十嵐さんの活動もあり、2025年に発表された森記念財団による「世界の都市総合力ランキング」では、東京のナイトライフ充実度が大きく評価された。その要因としても、スナックツアーが着目されているそうだ。今、スナックの価値が世界的に再評価されている。

東京の夜、ドアの向こうの「もうひとつの時間」

仕事の時間、家庭の時間、友人との時間。そのどれでもない、「もうひとつの時間」があっても良い。スナックは、そんな居場所を求める者同士がゆるくつながり、不思議な化学反応をおこす場所。

誰でもない自分を、東京の夜の一員として優しく迎え入れてくれるスナック。今夜もドアの向こうでは、世界のどこにもない“ここだけの時間”が醸成されている。

五十嵐真由子 オンラインスナック横丁文化株式会社 代表

これまでに1300軒以上のスナックの扉を開いてきたスナックを愛するスナック女子=スナ女®。2020年5月、コロナ禍で大きな打撃を受けたスナックを支えるべく「オンラインスナック横丁」をリリースし、現在では世界90以上のスナックが加盟、国内最大級オンラインプラットフォームとなっている。また日本の文化コンテンツであるスナックによる“ナイトタイムエコノミー活性化”につながると信じ、2023年には「外国人向けスナックツアー」を開始、同年には「日本人向け初心者ツアー」もスタートしている。現在はテレビをはじめとする多くのメディアに出演、企業や地方行政のスナックイベント監修など、マルチな活動に邁進している。

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