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一人の科学教師に人類の命運が託された理由とは?キーワードでひも解く『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の世界

  • 2026.3.20

ライアン・ゴズリング主演の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(公開中)は、『オデッセイ』(15)の原作者アンディ・ウィアーの同名小説を原作に、人類滅亡を阻止するため、宇宙に飛んだ中学教師の活躍が描いたSF超大作だ。監督を務めたのは『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)などの脚本&製作を手掛けてきたフィル・ロード&クリストファー・ミラー。地球から遥か宇宙へ、サスペンスや友情、スペクタクルなど多彩な要素を盛り込みながら展開する本作の世界観を、物語のカギを握るキーワードから紹介する。

【写真を見る】孤独な科学教師グレースは宇宙で出会った異星人ロッキーと協力して故郷を救おうとする

太陽エネルギーを吸収する微生物アストロファージ

太陽のエネルギーを吸収する微生物。太陽と金星を輪のように結んだ光る線“ペドロヴァ・ライン”として発見され、やがて太陽から金星へ束になって移動する微細な物質だと判明。その繁殖には二酸化炭素が必要なため、太陽で熱エネルギーを得たのち二酸化炭素密度の濃い金星で繁殖すると、再び餌場である太陽に戻ってきたのだ。このままアストロファージが太陽エネルギーを奪っていけば、地球の気温は10~15℃ほど低下し氷河期に突入するのは確実。人類が初めて遭遇した宇宙生物は、実に厄介な微生物だった。名前の由来は“宇宙(アストロ)”と“食べる(ファージ)”から。

『オデッセイ』の原作者アンディ・ウィアーによるベストセラー小説を映画化!
『オデッセイ』の原作者アンディ・ウィアーによるベストセラー小説を映画化!

人類の命運を託された科学教師ライランド・グレース

本作の主人公で、知的で論理派、ユーモラスで皮肉屋でもある中学校の科学教師。かつて将来を嘱望された微生物学者だったが、「必ずしも生命に水は必要でない」という説に固執したためバッシングを浴び研究者の道を絶たれてしまう。教師になった現在は、科学への情熱を子どもたちの教育に向けている。問題になった論文を読んだエヴァ・ストラット(ザンドラ・ヒュラー)の誘いでアストロファージ対策チームに参加。アストロファージが生物であることを突き止め、中核メンバーとして研究に没頭する。持ち前の好奇心と科学への情熱に突き動かされるグレースを、『ファースト・マン』(19)で実在の宇宙飛行士に扮したゴズリングが軽やかに演じている。

アストロファージが生物であることを突き止めたライランド・グレース
アストロファージが生物であることを突き止めたライランド・グレース

プロジェクトの責任者エヴァ・ストラット

強い意志と優れた判断力で「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を牽引する責任者。国連によりプロジェクトの全権を委任され、法や国を超越し人材を含むあらゆるリソースを自由に使うことができる。アストロファージ解明のためグレースをプロジェクトにリクルートし、その性格を利用しながら宇宙に飛ばした張本人。目的のためならどんな犠牲や手段も厭わない冷徹な独裁者だが、計画に関する責任はすべて自分にあることを自覚して汚れ役を受け入れている。そんなストラットを演じるのは、『ありがとう、トニ・エルドマン』(16)、『落下の解剖学』(23)、『関心領域』(23)などで称賛されたザンドラ・ヒュラー。感情をいっさい出さない彼女の表情に時折よぎる、心の揺らぎが胸を打つ。

プロジェクトの責任者エヴァ・ストラット
プロジェクトの責任者エヴァ・ストラット

唯一、アストロファージの影響を受けていない恒星タウ・セチ

地球から約12光年離れたところに位置する太陽に似た恒星。アストロファージの観測を続けた対策チームは、その感染が太陽、金星間だけでなく銀河系のいたる場所で行われていることを知る。ところが、くじら座の恒星タウ・セチだけは、周囲の星々が感染しているにもかかわらずアストロファージの影響を受けていなかった。なぜタウ・セチは無事なのか、その理由を探るためストラットらは研究者の派遣を検討する。問題は太陽系からほかの恒星に移動する技術がないことだったが、アストロファージのエネルギーを利用すれば恒星間航行が可能なことが判明。アストロファージを推進力にする、スピン・ドライヴ搭載の宇宙船の建造が始まった。

プロジェクト・ヘイル・メアリー

恒星タウ・セチがアストロファージに感染されていない理由を探るため、宇宙船を派遣するプロジェクト。パイロット、エンジニア、科学者からなる3人のクルーが恒星間宇宙船「ヘイル・メアリー」号でタウ・セチに行き、アストロファージ対策を解明、そのデータを小型宇宙船「ビートルズ」に積んで地球に送り返す計画だ。この小型船は予備機を含め4機が搭載されているが、これはイギリスの4人組のバンド「ビートルズ」のパロディ。彼らの楽曲「トゥ・オブ・アス」も劇中で流されるなど、イースターエッグとして使われている。燃料の都合上、片道切符になるためクルーにとってヘイル・メアリー号は終の住処。船内には全天周囲モニター風ルームもあり、地球の景色を投影して故郷の気分に浸ることができる。

恒星タウ・セチがアストロファージに感染されていない理由を探る
恒星タウ・セチがアストロファージに感染されていない理由を探る

へイル・メアリー号は光速に近いスピードで航行できるため、約12光年先のタウ・セチまでの往復にかかるのは20~30年。人類滅亡までカウントダウン状態という「宇宙戦艦ヤマト」並みに差し迫ったスケジュールだ。ちなみに、“ヘイル・メアリー”とはアメフトの試合終了間際に一か八かで投げるロングパスのこと。その名の通り、運を天に任せた厳しいミッションなのだ。

グレースが宇宙で出会った知的生命体ロッキー

高度な技術力を持つエリド40(エリダヌス座40番星)の知的生命体エリディアンの一人。地球と同じくマイクロファージの被害に遭っている母星を救うためタウ・セチを訪れ、そこでグレースと出会う。5本の肢がある岩のようなクモに似た外見をしており、コンピュータ並みの計算力と記憶力を持ち、驚異的な強さと気密性のある化合物キセノナイトを粘土のように操って日用品から宇宙船まで作ることができる。小さなかぎ爪のついた肢でせっせとキセノナイトをこねる姿が愛らしい。なお、エリド40は実在する惑星で、「スター・トレック」に登場するミスター・スポックの故郷バルカン星のモデルにもなった。ついでにいえばタウ・セチも実在する恒星だ。

【写真を見る】孤独な科学教師グレースは宇宙で出会った異星人ロッキーと協力して故郷を救おうとする
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エリディアンは目がない代わりに高性能なソナーで相手を知覚し、クジラのように音でコミュニケーションを取る。和音を使ってグレースとやり取りする様は、まるで『未知との遭遇』(77)のよう。グレースは互いの言葉のデータベースを作成し、音声翻訳プログラムを組むことで会話が可能になった。好奇心旺盛なロッキーがグレースの言動をおもしろがり、なにかにつけて「質問!」と繰り返す姿も笑いを誘う。両者の出会いから交流の過程も丁寧に描かれ、中盤の見せ場になっている。なおロッキーの名は、その外見と『ロッキー』(76)からグレースが命名した(エリディアンもグレースによる命名)。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は片道切符の捨て身のミッション
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は片道切符の捨て身のミッション

タウ・セチで出会い、互いの目的が同じだと知ったグレースとロッキーは、科学知識と技術力で協力し合いながらアストロファージを研究。ついに、タウ・セチのサンプルを採取したところ、驚くべき事実が判明する…。不可能に挑むスリリングな人間ドラマと異星人との熱き友情物語、そして宇宙で繰り広げるスペクタクルと見どころ満載の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。壮大な物語の行く末をスクリーンで味わってほしい。

文/神武団四郎

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