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小林聡美が思う家族や友人との心地よい形「距離感を持ちながら味方でいてくれる」

  • 2026.3.15
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小林聡美 クランクイン! 写真:米玉利朋子(G.P. FLAG inc)

昭和の名作ドラマとして今なおテレビ史にその名を残す『岸辺のアルバム』が初めて舞台化される。名女優・八千草薫が演じ、家族を第一に支え続ける日々の中ふとしたことから謎めいた男と関係を深めていく主婦・則子役に挑むのは小林聡美だ。同じく名作ドラマを舞台化した『阿修羅のごとく』でタッグを組んだ、倉持裕(脚色)&木野花(演出)と再びの顔合わせで名作を令和によみがえらせる小林に、本作への思い、家族観などを語ってもらった。

【写真】小林聡美、チャーミングな個性あふれる撮りおろしショット

◆テレビ史に残る名作ドラマを舞台化 八千草薫が演じた主人公に挑戦

『ふぞろいの林檎たち』(1983~1997)など数々の名作ドラマを世に残した山田太一が原作・脚本を務め、1977年に放送された本作は、1974年9月に発生した多摩川水害をモチーフに、母親の不倫から始まる家族の崩壊を描き、リアルでセンセーショナルなストーリーが当時のホームドラマの概念を覆した名作として語り継がれている。

――出演オファーをお聞きになった時のお気持ちはいかがでしたか?

小林:『岸辺のアルバム』という作品は素晴らしいドラマだというのが私の中でありましたし、それを初めて舞台化するにあたって主人公を演じるというのは、かなり大変そうな気もしましたけど、せっかくお話をいただいたので挑戦してみようという気持ちでお受けしました。

――どういったところが大変そうだと?

小林:あんなにボリュームのある連続ドラマの熱量を2時間で表現するというのは大変なチャレンジだと思ったんですよね。ドラマのスケールも知っていますし、あれを舞台でとなると、私は観てみたいけど(笑)、きっと大変なんだろうなと。

――ドラマにはどんな印象をお持ちでしたか?

小林:家族というものをなんとかいい形で保っていきたいと、主婦である女性がもがいていた時代のお話という印象がありました。新しい文化や時代の流れの中で、理想的な家族の形、幸せな家族の形というものがあって、そんな中に1人の人間としての心の揺らぎだったり、ちょっとした魔だったり、そういうものが隣り合わせにある。そのゾクゾクする感じは誰もが共感できる部分だと思いますし、50年経った今でも面白いと思える作品なのではないかなと感じています。

――今回演じられる則子という女性についてはどんなキャラクターだと捉えられていますか?

小林:きちんとしていて、しかもキレイで、本当に主婦の鑑のような、素敵なお母さんですよね。しかもドラマでは八千草さんが演じられたということで、「すいません」っていう感じなんですけど(笑)。でもそれはそれで、今、この時代に、ドラマとの違いをあえて楽しむこともこの作品の一つの観方だと思いますし、則子の持ちこたえようと頑張っている気持ちや、ちょっとした心の隙間を許してしまったりする気持ちってなんかわかるなと共感していただけるところがたくさんある人物でありたいなって思っています。

◆思い描く幸せな家族の形「距離感を持ちながら味方でいてくれる」


――今回50年近く前の作品を舞台にしますが、時代が変わった今、家族であることの大切さを描く本作を上演する意義というのはどういったところに感じられますか?

小林:うーん。家族の話ですけれど、家族って、たまたま家族になっただけというか。DNAとかでは同じようなところを引き継ぎながらも、年の近いきょうだいでも経験したり感じたりすることは全然違ったりしますよね。一緒の時間をたくさん過ごしているからチームみたいな感じではあるけれど、別々の人生を歩んでいる人たちが成長するためにチームを組まされたみたいな、そういうところもあるような気がしていて。

そういう視点から見ると、50年前の家族の話だけど今の家族にも通じるものがきっとありますよね。親には分かってもらえないような事情が子どもたちにはあり、子どもには言えないような事情が親たちにはあり、共感できるところがたくさんあると思うんです。だから、今も変わらずにそういうことをやっている家族というものを見て、人がそれぞれどう思うのかというのもこの作品の見どころの1つだと思います。

崩壊してしまって家もなくなってしまった家族が新しい1歩を踏み出すわけですけれども、それは前とはまた違った形になるだろうし、脈々と流れている家族という形の愛情はあるけれど、不条理な感じっていうのは、今の時代でも共感できる部分ではないかなという風に思います。

――小林さんが思い描く幸せな家族の形というのはどんなものになりますか?

小林:やっぱり距離感をちゃんと持ちながら、味方でいてくれることかな。何してほしいという意味じゃなくて、何かの時にこの人たちはきっとわかって受け入れてくれる、そういう安心感ですかね。それがあるとないとじゃ全然違いますよね。でも、多くを期待するところではないような気がしていて。自分の人生があるように、家族にもそれぞれの人生があるし。でも、やっぱり味方であってはほしいですね。

――お友達や付き合いの長い方との関係で、心地よい付き合い方というのはどういうものだと思われますか?

小林:家族に求めるものに似ちゃうかもしれないんですけど、そんなにしょっちゅう一緒にいなくても、あの人に話したらちょっとわかってくれそうとか、自分がほっとするとか、そういう信頼が持てる関係。この人に話したらちょっと本音が言える、受け止めてくれる、そういう人がいると安心だし、もうちょっと頑張れるっていうところがありますよね。

でも、ずっと一緒にいるとそういう人でもちょっと…となってしまうのがまた人間関係の難しいところで。だから一緒にいられるってやっぱり自分が楽な人でしょうね。緊張しないで自分が自分らしく、だらしないところを見せても受け入れてくれる人が長く友達でいられるのかなと思います。

◆「手を加えない人力のリアルがあるところ」が舞台の面白さ


――小林さんにとって、舞台と映画やドラマなど映像作品の違いはどんなところにありますか?

小林:圧倒的に違うのは、やっぱり舞台は後で人の手が加えられないまま物語が進行していくところですね。映画やドラマは素材を編集というかたちで繋げて、作り上げていく。俳優が関わってる時間は全然違いますが、それぞれ面白いです。

けど、私は舞台の方が大変かな。千秋楽になるまで終わらない、同じ物語を同じ気持ちでやり続けなきゃいけない、同じ夢を毎日見続けるみたいな、そういう感覚になりますね。毎日その時間を体験するという、体を通るエネルギーが、やっぱり舞台は独特で強いと思います。

――舞台の面白さはどんなところでしょうか。

小林:ワクワク感ですかね。緊張感と裏腹な感じもあって、さっきも言いましたけど最初から最後まで手も加えず、物語を最後まで立ち上げていくというのが舞台の面白いところ。今AIがすごく発達してるし、「犬がこんなことを!」って感動したショート動画もAIだったりするじゃないですか(笑)。そういうことがなく、何が起きてもそのまま進行していくっていう、ライブの楽しさと面白さっていうのが舞台の1番の魅力かなと思います。手を加えない人力のリアルがあるというところですかね。

――前回『阿修羅のごとく』でも、演出の木野花さん、脚色の倉持裕さんとご一緒されましたがおふたりの印象はいかがですか?

小林:木野さんは本当に演劇に情熱を最大限に注ぐ、演劇がすごく好きな演出家。誰よりも稽古場で熱く役やシチュエーションについて説明してくださる方で、それに役者たちも刺激を受けて、作品がどんどん熱いものになっていった印象があります。

倉持さんは非常に冷静な視点で原作のエッセンスを選び取るセンスがすごくいい方。長くてボリュームのあるものを面白くまとめてくださるので、今回も楽しみにしていますし、安心もしています。

――共演の皆さんの顔ぶれですが、夫役の杉本哲太さんとは『団地のふたり』でもご共演されましたし、1998年公開の映画『キリコの風景』ではご夫婦役を演じられています。

小林:この間ドラマで久しぶりにお会いした時は、30年前に夫婦をやった時とはまた印象が随分変わっていたというか。30代の私たちと60になった私たちとだと、やっぱり過ごしてきた時間もあるし、肩の力も抜けて緊張せずに対面できる雰囲気がありました。すごくチャーミングで可愛らしい方なのですが、今回演じられるある意味“昭和の頑固なお父さん”の杉本さんも、ちょっと不器用で一途な雰囲気がぴったりだし、すごく楽しみです。

――お子さんを演じられる芋生悠さん、細田佳央太さんとは初共演です。

小林:芋生さんはその佇まいに嘘がないというか、どの役柄を見てもその人がいるっていう、その世界をリアルに感じられる俳優さんだと思っていて。その役としていてくれるだけで、そこを説得力のある空間にしてくれる俳優さんという印象があります。

細田さんはやっぱりこの大きな目がとても魅力的で。なんかワンちゃんみたいじゃないですか(笑)。ドラマで同じ役を演じられた国広富之さんにも、眼差しがストレートで素直な感じがすごく似ている気がしていて。あんな澄んだ目で見つめられたら、お母さんはなんでもしてあげたいと思うのではないかなと。

――田島家にとってのキーパーソン、謎の多い男を演じられる田辺誠一さんはいかがですか。

小林:『法廷のドラゴン』でもご一緒しましたが、あの時はまた全然違う天然の役で。田辺さんご自身はどんな方なのか、私もちょっと実情が掴みきれていないので、ミステリアスという意味ではまさにミステリアスな感じでワクワクしています。

◆さまざまな世代の後輩から憧れられる小林聡美が憧れた存在とは?


――小林さんご自身が大好きだった昭和のドラマはありますか。

小林:『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』といった久世光彦さんのシリーズはすごく斬新な感じで好きでした。あの時代にはいろんなタイプのドラマがあったんですよね。「赤いシリーズ」などフィルムで映画のように撮っているドラマもあったし、久世さんがやってらっしゃった作品みたいにその場のハプニングもドラマの中に落とし込んでいくもの、山田太一さんがやってらした、きちんと物語を作ってがっちり作っていくものもあったり。今も実験的なドラマと言われる作品はたくさんありますけど、この時代のドラマはまさにそういういろんなタイプの面白いドラマがいっぱいあった時代でしたよね。

――近年、ドラマでは『春になったら』『団地のふたり』『法廷のドラゴン』『ゴールドサンセット』『塀の中の美容室』、映画でも『まる』『2126年、海の星をさがして』と出演作が続き、ファンとしてはうれしい限りです。何か心境の変化などがあったのでしょうか?

小林:あまり深く考えずにって言ったらあれですけど、一緒にお仕事をやりたいっておっしゃってくださる方がいたら、難しく考えずに飛び込んでみようかなっていう感じになっていますね。

――お仕事を選ばれる際に1番大事にされてることや、これだけは譲れないみたいなものはあったりされますか?

小林:やっぱり誠実にいい作品にしたいという熱意だったりをお仕事をいただくときに感じると、ご一緒したいなっていうような気持ちになります。

――いろんな俳優さんにお話を聞いていると、小林さんを憧れの存在と挙げる方がたくさんいらっしゃいます。小林さんご自身が憧れた先輩を挙げるとするとどなたになりますか?

小林:すごく軽やかで素敵だなと思ったのは、岸田今日子さんかな。ものすごく引き出しの多い味のある俳優さんでありながら、なんかこうふわふわしていて、自由な感じがして、とても素敵だったんですよね。おしゃべりも楽しいですしね。きっと仕事以外のところで豊かな時間をたくさん過ごしてらっしゃるから、こういう感じの人なんだろうなっていう味わいが感じられる方でした。

昔はみなさん先輩ですから失礼なことがないようにと緊張して現場にいましたけど、若者の目から見てもすごく個性的な先輩がたくさんいて面白かったですね。

――以前お話を伺った時に、ピアノを始められたとお聞きしました。ピアノの楽しさはどんなところに?

小林:ピアノは、楽譜に向かうのが嫌いっていう方もいるんですけど、私は逆に向かい合って全然できないところから音楽が出来上がっていくという過程が編み物にも似ているというか、ちょっと無になれる時間なんです。すごく辛いんですけど(笑)、音符が曲になっていく段階がすごくうれしいんですよね。

――ほかにプライベートでハマっていることなどはありますか?

小林:新しいことっていうのは特にないんですよ。もうね、いろいろやりすぎると本当に時間がないんです(笑)。あ、最近ちょっと麻雀をやりたいなと思っています。お年を召した方たちが集まって麻雀をやってる姿が楽しそうだなと。そういうおばあちゃんも楽しいかもと思ったりしてますね。

――昨年還暦を迎えられて、これからどんな小林聡美を見せていきたいと考えられていますか?

小林:見せていきたいものは別にないです。自然にもうどんどんおばあちゃんになっていくので、その姿を面白がっていただければ。

(取材・文:渡那拳 写真:米玉利朋子[G.P.FLAG inc])

舞台『岸辺のアルバム』は、東京・東京芸術劇場シアターイーストにて4月3日~26日、大阪・松下IMPホールにて5月1日~4日上演。

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