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幻想と現実をつなぐ「ディオール」。庭園に咲く現代のエレガンス

  • 2026.3.10
Courtesy of Christian Dior ©ADRIEN DIRAND

オートクチュールとプレフォールを含め、実質四つ目となるジョナサン・アンダーソンによる「ディオール」のウィメンズコレクション。プレタポルテとしてはセカンドシーズンとなる今季、試行の段階を超えて、彼が描く“ディオール ウーマン”がより鮮明に立ち上がった印象を受ける。

Carlo Scarpato / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

それは、フランス古来の貴族文化に生きるような気品をまといながらも、変化を恐れず、好奇心に満ち、自らのスタイルを主体的に選び取る女性像。そしてムッシュ ディオールと同じく、心から花を愛している。彼女は公園へ行くときでさえ、むしろ、散策に出掛ける時こそ、ドレスアップを思う存分に楽しむのだ。

ショーに先立って公開された映像の中で、アンダーソンは”ファッション界のセラピスト”として知られるポッドキャスター、ベラ・フロイト(精神分析の創始者として知られる心理学者ジークムント・フロイトのひ孫)と対話を交わしていた。2人はパリのリュクサンブール公園に置かれたアイコニックなグリーンのガーデンチェアに腰掛け、「プロムナード(散策)」という概念について思索を巡らせる。

Courtesy of Christian Dior ©VALENTIN LECRON

「歴史的に見ても、『ディオール』はいつもここで展示をしてきました。私はよく、公園を“プレジャーガーデン(遊歩庭園)”のようなものだと考えるのです。あるいはイギリスでもそうですが、プロムナードという発想がありますよね。人々がどこかへ出掛けるためにきちんと装って歩く、あの感覚です」と話したアンダーソン。

Courtesy of Christian Dior ©ADRIEN DIRAND

ショー会場となったのは、ルーブル美術館に隣接するチュイルリー庭園。17世紀には訪問者に厳格なドレスコードが求められていたというこの場所に、公園中央の八角形の池を囲むように水上パビリオンが建てられた。人工の睡蓮が浮かぶ池は、まるでクロード・モネの印象派絵画を思わせる幻想の庭園へと変貌。着飾って散歩に出掛け、見て、見られる――そんなパリの歴史的な社交文化を、現代に呼び覚ます舞台である。

launchmetrics.com/spotlight

1月に発表されたオートクチュールに続き“自然”が主題となるが、ここでは花々が構造として現れた。ファーストルックは、クラゲの触手のように長く引くトレーンを伴ったボリューム感あるミニスカートに、輝きとテクスチャーを持つカーディガンを合わせたスタイル。裾にはさりげないペプラムが添えられている。有機的な質感のカーディガンジャケットは、花冠のように立ち上がるアウトラインと、花弁が重なるようなテクスチャーでボタニカルをコンセプチュアルに描き出した。

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なにより今季は、シルエットが研ぎ澄まされている。ウエスト位置を高く設定した新しい“バー”ジャケット、丸みを帯びて細長いパンツやアウターがつくるコクーン、アシンメトリーにとめたスカートやドレス、19世紀のバッスルを背面構造で引用したジャケット。

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この他にも、フロックコートやペプラムといった何世紀にもわたる女性服のコードを解体しつつ、シャンティレース、メタリックジャカードで甘さと硬質さを同居させる。上半身はどこかつつましく、下半身はロマンティックに広がる。まるで水面に浮かぶ花のように、表面の静けさの下で何かがひそかに動いているかのようなシルエット。

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彫刻的なフォルムのニット、長いトレーンのスイスドットのフリルスカートが、ムッシュ ディオールによる“ジュノン”ドレスを彷彿(ほうふつ)とさせる。オートクチュールで披露されたスパイラルケージドレスは、ここでは柔らかなプリーツの雲へと変容。メンズコレクションで用いられた素材は、ハンドプリーツのジャケットやコートにトロンプルイユの千鳥格子として再解釈され、メンズ、オートクチュール、そして異なる時代を横断するクリエーションが立体的に結びついていく。

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ジーンズはクリスタル刺しゅうで輝きをまとい、コートには軽やかな羽根が触れる。光沢を帯びたグレーのスーツや、空想的なモチーフが描かれたトラックパンツといったデイリーウェアも登場する。フランス中世の貴族的な誘惑をほのかに引きながら、今の時間を生きるための服として成立しており、メゾンのエレガンスとアンダーソンの独創性が見事に融合している。極めて実用的でありながら、彼らしいアバンギャルドな感性をしっかりと宿しながら。

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コレクションの遊び心をさらに際立たせたのがフローラルモチーフの展開だ。鮮やかな3Dの睡蓮や花の装飾が、ドレスだけでなくジュエリーや、繊細なヒールサンダルのトゥストラップで咲き誇る。ファーストコレクションから人気を呼んでいる“ブック・トート”は新たにアップデート。“カナージュ”のグラフィックパターンが映えるトートバッグから、包み込むフォルムの曲線的な新作バッグまで、ロマンティックで知的なニュアンスがコレクション全体を貫いていた。

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花を愛し、散策を楽しみ、装うことを喜びとして引き受ける、アンダーソンが描く新しい“ディオール ウーマン”。そこには思わず自分自身を重ね合わせたくなるような魅力があり、あるいはその世界に身を置いてみたいと感じさせる引力がある。まるで庭園の花の香りに誘われるように、「ディオール」の世界は今、共感と憧れを呼び起こしながら人々を引きつけている。

Victor Virgile / Getty Images
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