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いま“心を掴むクリエイティブ”に必要なのは? 世界的ディレクターが教える、表現の思考術

  • 2026.3.10
<strong>デイビッド・ミスキン</strong> ニューヨーク出身。世界最大のマーケティング会社、アイリス・ワールドワイドでキャリアを積み、ランボルギーニやNetflix、グローバルなラグジュアリーホテルなど多くのブランド開発に携わる。現在は霞ヶ関キャピタルのチーフクリエイティブディレクターとして、同社が展開するホテルブランドなどのクリエイティブディレクションを務める。 Hearst Owned

ランボルギーニ、Netflix、マリオット・インターナショナル――名立たるグローバルブランドから、その感性を求められてきたクリエイティブディレクター、デイビッド・ミスキン。ニューヨークのダイナミズムをその身に宿し、世界的なマーケティング企業であるアイリス・ワールドワイドで数々のプロジェクトを主導してきた彼は、いま日本を舞台に“ラグジュアリーの定義”を新たに書き換えようとしている。

彼の仕事の真骨頂は、単なる視覚的なデザインに留まらない。受け手の五感を、そして感情の揺らぎさえも計算し尽くした“ブランド体験”の構築にある。2023年に活動拠点を日本へ移し、現在は「FHG HOTELS」(霞ヶ関キャピタルが展開するホテルの企画・開発会社)のチーフクリエイティブディレクターとして新しいホテルブランド「セブン バイ セブン(seven x seven)」を手がけ、従来の枠にとらわれないエモーショナルな滞在体験を生み出している。

モノがあふれ、スペックだけでは心が動かなくなった現代。一流ディレクターが見つめる“いま、心を掴むクリエイティブ”とは何か。未来のスタンダードを創るための思考法に迫る。

記憶に残るクリエイティブの核にあるのは、“感情”と“わかりやすさ”

――まず、クリエイティブディレクターを志すきっかけとなったような、最初に心を動かされたブランド体験について教えてください。

10代の頃に働いていた「GAP」での経験です。90年代、ブランディングという言葉がまだ定着する前から、とてもハイクオリティなプレゼンテーションをしていたあの環境が、僕の価値観を大きく変えました。店内に流れる音楽、スタイリング、空気感……当時の顧客が何を着たいか、聴きたいか、感じたいかを熟知していてカルチャーを牽引する存在でした。そして、服を着た瞬間に人が自信を持つ姿を見て初めて「ブランドは人の心を動かすことができる」と実感したんです。その気づきが、いまの仕事の原点になっています。

――「GAP」ではどのようなお仕事をされていましたか?

最初は販売員でした。ある日店頭ディスプレイの担当者がお休みしたことがあって、自ら進んでやってみたら好評で、そこから徐々にビジュアル面のディレクションを任されるようになったんです。仕事に没頭して骨を埋めるつもりで働いていましたが、18歳のとき当時最年少でブランドディレクションを任されたときはうれしかったです。

――Netflixの冒頭で流れる「ダダーン」の開発にもチームとして携わっていたそうですが、いまや世界中の人の心をつかんでいるサウンドロゴといえます。このように人々の記憶に一瞬で刻まれるクリエイティブの核にあるもの、心を動かす表現の共通点とは何でしょうか。

記憶に残るクリエイティブの核にあるのは、“感情”と“わかりやすさ”だと思います。Netflix の「ダダーン」は、自信に満ちあふれていて、シネマティックで、記憶に残りやすい。そしてそれは人の期待感を生みます。どの優れたクリエイティブも、無駄がなく、感情に訴えかけ、そして唯一無二です。どこか複雑すぎると埋もれてしまいますが、感情を的確に捉えた瞬間、その表現は人の中に残り続けるのです。

「セブン バイ セブン 石垣」は、隈研吾氏が選考委員長の「ラグジュアリー ジャパン アワード 2025」ホテル・旅館部門Best10に選出された。 Hearst Owned

“いま、人がどう生きたいか”が表れているものは、心に響く

――現在携わっているホテル「セブン バイ セブン」の“セルフホスピタリティ”という宿泊体験は、現代のどのようなニーズに着目してストーリーを描きましたか? 実際手応えはありますか?

私たちが見つめたのは、自由”という、現代の最も切実な欲求でした。誰かに管理されるのではなく、自分で選び、自分のリズムで過ごしたい。家の延長線上にありながら、自宅以上に解放される場所。セルフホスピタリティは、そんな生き方を肯定するためのストーリーです。だからこそ、ゲストは直感的にそれを理解し、力を与えられたように感じるのだと思いますし、実際に反応もすごくいいです。多くの人の心に響くのは、そこに“いま、人がどう生きたいか”が正直に表れているからだと思います。

――最新プロジェクト「エディット バイ セブン 瀬戸内小豆島」のいちばんのこだわりポイントを教えてください。

最もこだわったのは、デザインと情緒のバランスです。モダンでありつつも、瀬戸内の自然や風景に溶け込ませる必要があったからです。サンクチュアリでありつつも、エネルギーにあふれ、意志を宿した空間にするには光、人の動き、静けさ、そして空間のリズムを意識する必要がありました。

――個人的に好きなホテルブランドはどこですか? その哲学やDNAはどうFHG HOTELSに影響していますか。

具体的に挙げると、ゲストのさまざまなライフスタイルに寄り添う「パティーナ大阪」や、まもなく東京にも上陸するサステナブルラグジュアリーホテル「ワンホテルズ(1 Hotels)」は接客ホスピタリティのバランスが素晴らしいと思います。引き算の美学と自信にあふれた姿。その両立を理解しているブランドに、私は魅力を感じます。過剰に語らず、過剰に見せないこと。多くのホテルに滞在してきたからこそ分かるのは、本当に優れた体験ほど、驚くほど自然で、力みがないということです。その感覚こそがFHG HOTELSの哲学であり、ラグジュアリーは自然に滲み出るものであるべきだと思っています。

3月5日(木)にグランドオープンする「エディット バイ セブン 瀬戸内小豆島」では、オーシャンビューの客室から美しい瀬戸内海に溶け込むようなステイがかなう。 Hearst Owned

すべてに「Yes」ということで、結果的に仕事の質が落ちる

――これまで関わったプロジェクトにおいて、失敗や行き詰まった経験から学んだことはありますか?

もちろんです。キャリアの初期は、すべてに「Yes」ということで結果的に仕事の質が落ちることを学びました。ビジョンを明確に持たないまま進めた仕事は、結果として失敗に終わる。その経験が、規律、取捨選択、そして「No」と言う勇気を教えてくれました。クリエイティブにおけるリーダーシップとは、アイデアの輪郭を守ることだと思います。

――クリエイティブ脳を育むための、日常的な習慣やルールがあれば教えてください。

私は建築やファッション、人やその振る舞いまで、すべてを観察しています。散歩をし、美術館にも通い、旅行もたくさんします。たとえば馴染みのある南青山には、現代的なものと、お寺や神社など日本古来のものが共存していて、歩いているだけでインスピレーションを受けます。日本的な心を忘れずに、自分が持ち合わせている西洋の感覚を取り入れることでFHG HOTELSの新しいホスピタリティを生み出すことにつながっているんです。創造性は、日々を能動的に生き、感受性豊かでいることで育まれるものだと思います。そして、日常的なトレーニングも欠かしません。身体を律することで、瞑想に近い状態になり、思考がクリアになるからです。

――インスピレーションをくれるおすすめの音楽や映画、本を教えてください。

音楽はマスターズ・アット・ワークやシャーデー、そしてオールドスクールのハウスやディスコをよく聴きます。朝はピアノのクラシック音楽を静かに流しながらコーヒーを楽しむことが多いです。映画は『プラダを着た悪魔』ですね。この映画は、若かった頃の自分を思い出させてくれて、いつも原点に立ち返らせてくれる作品です。本だと、デザインや建築に関するもの、そしてあらゆる人物の伝記。じっくり本を読む時間はあまりないので、だいたいイヤホンでオーディオブックを聴いています。週に少なくとも2冊は聴くようにしています。

次のプロジェクトとなる2027年春開業予定の「セブン バイ セブン 由布院」に向け邁進中。 Hearst Owned

ストーリーや人間らしさが宿ったとき、クリエイティブは魂を持つ

――アイデアに行き詰まることもあると思います。そんなとき、どんなリフレッシュや発想転換をしてブレークスルーしますか? 秘訣があれば教えてください。

環境を変えることを常に意識しています。旅に出たり、感覚を刺激してくれる場所へ足を運んだり。あえてパソコンから距離を置き、思考を解放する時間を作ります。クリエイティブなアイデアは、無理に生み出すものではなく、自分自身の心に余裕があって初めて浮かんでくるものです。

――“自分らしい表現”を見つけられずに悩んでいる読者に、アドバイスをお願いします。

自分らしい表現とは、それぞれの人生から生まれるものです。経験、好み、直感。誰かを真似するのではなく、あらゆるものを吸収し、自分の感覚を信じること。自分らしい表現は一朝一夕に完成するものではなく、ぶれない姿勢と自己規律の中で磨かれていくものです。

――視覚情報があふれる現在、そしてAI との共生が進むこれからの時代に、ユーザーが「本物だ」と心を動かすクリエイティブに必要なものとは何でしょうか。

情報や技術は、あくまでツールにすぎません。人の心を動かせるのは、常に人間です。そこにストーリーや人間らしさ、そして誠実さが宿ったとき、クリエイティブは魂を持ち、情報があふれる時代でも必ず人の心に届くものになります。

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