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阿部千登勢が振り返るサカイの26年間。「私自身が着たいと思うかが、 サカイの大事な判断基準です」【女性デザイナーの現在 vol.1】

  • 2026.3.2
CHITOSE ABE/阿部千登勢
CHITOSE ABE/阿部千登勢

──2026年春夏の「紛れもなく、疑いようもないサカイ」というテーマから阿部さんの自信と覚悟が伝わってくるようでした。

私たちがサカイでいる意味を、毎回コレクションを作りながら考えています。シーズンによってデザインの変化はあっても、根底は26年間変わらない。今のファッション界はデザイナー交代が続いたり、ノイズが多すぎます。ノイズを遮断して、私たちにしかできない、圧倒的なサカイを作ろう、というのが今回の意図。パリに新しいオフィスを構えたことも影響していますね。

──ニコラ・ジェスキエール時代のバレンシアガ、その後はステラ・マッカートニーのオフィスだったあの場所はやはり特別です。

絶対あそこに入りたいという強い憧れがあったわけではないのですが、偶然そういう巡り合わせになり、であればビジネスの現状や新しいオフィスを会場にすることを含めて、「紛れもないサカイ」を打ち出すタイミングだったと感じています。

テクニックを進化させ、サカイらしさを突きつめる <br /> 青山にあるサカイの本社前の交差点で、写真家ホンマタカシが捉えた「自分らしく生きるサカイウーマン」たち。「Coming Home」をテーマに、「紛れもなく、疑いようもないサカイ」を表現した2026年春夏は、デザイナーの阿部千登勢自らが、サカイらしさを改めて見つめ直し進化させたコレクション。「今着たい服」というリアリティを持ちながら、タイムレスな魅力を放っている。現代人のワードローブに欠かせないデニムも、ハイブリッドなレイヤーを重ねモダンな一着に。パッチワークデニムジャケット ¥187,000 パッチワークデニムスカート ¥154,000 スカーフネックレス ¥63,800 シューズ 参考商品
青山にあるサカイの本社前の交差点で、写真家ホンマタカシが捉えた「自分らしく生きるサカイウーマン」たち。「Coming Home」をテーマに、「紛れもなく、疑いようもないサカイ」を表現した2026年春夏は、デザイナーの阿部千登勢自らが、サカイらしさを改めて見つめ直し進化させたコレクション。「今着たい服」というリアリティを持ちながら、タイムレスな魅力を放っている。現代人のワードローブに欠かせないデニムも、ハイブリッドなレイヤーを重ねモダンな一着に。パッチワークデニムジャケット ¥187,000 パッチワークデニムスカート ¥154,000 スカーフネックレス ¥63,800 シューズ 参考商品

──「集大成」のようでもありました。

終わらないですよ(笑)。あくまでも前へ進みながら、「これぞサカイ」を打ち出したつもりです。ハイブリッドというのは私たちの本質。男性的な要素と女性的な要素、カジュアルとエレガントという正反対のイメージの組み合わせや異なるカルチャーの出合いなど、さらにいうと人間の多面性を表したいという思いです。人は二面性どころか、本当にたくさんの面を持っている。ハイブリッドは人のそうした姿の表現でもあります。なので、それぞれのアイデンティティを生かしてキャスティング、フィッティングもしました。

──ナオミ・キャンベルがランウェイに登場したときには会場がざわつきました。

ショーのスタイリング担当のカール・テンプラーや音楽のミシェル・ゴベールのようにサカイには一緒に面白いことをやろうと協力してくれる“ファミリー”といえる人たちがいて、ナオミもそのひとり。知り合ったのは10年以上前で、一緒に全米オープンの大坂なおみ選手の試合を見たこともあります。本当にサカイのよき理解者です。昔から応援してくれている彼女だからこそ、今回のショーに出てもらいたかった。

多くの人がひと目でサカイだと認識するアイコニックなペプラム使いもシンプルに、力強く。ペプラムトップ ¥253,000 ラッフルスカート ¥176,000 ブーツ ¥132,000╱すべてSACAI(サカイ)
多くの人がひと目でサカイだと認識するアイコニックなペプラム使いもシンプルに、力強く。ペプラムトップ ¥253,000 ラッフルスカート ¥176,000 ブーツ ¥132,000╱すべてSACAI(サカイ)

──そうしたファミリーの存在もサカイらしさのひとつですね。でも、らしさを確立するのは簡単ではなかったと思います。

学芸大学駅から15分くらいの工場跡にオフィスを構えてスタートした頃は、こんなふうにブランドを発展させようなんて思ってもいませんでしたが、小さいブランドでもほかにはないものを作りたいという意識は持っていました。「これだ」というサカイらしさが見えてきたのは3シーズン目から。もともと私はカーゴパンツやシンプルなカーディガンやジャケットが大好きで、その類いのベーシックな服ばかりを自分なりにサイズを変えたりバランスを崩して着ていたのですが、同じ発想で、すごく普通なのに普通ではないものを作ればいいんだと気づきました。自分が欲しいのは普通のもの、ただしそれは誰も見たことのない普通のものなんだ、と。その後最初に作ったのが、メンズのカーディガンにテイラードの襟をつけたカシュクール。メンズとレディス、カーディガンとジャケットがひとつになったハイブリッドで、フェミニンでありながらベーシック。そこを出発点に26年間やり続けています。リボンやフリル、ファスナーがつくこともあるけれど、そこには必ず意味が必要で、それを突きつめていくようにしたら、デザインすることが苦しくなくなり、ますます楽しくなっていった。そのカシュクールは今やサカイのクラシックになっていますが、そうした初期のアイテムも最新コレクションのルックも根底は一緒です。

──「日常の上に成り立つデザイン」というコンセプトもずっと変わっていませんね。

アート作品を作っているわけではなく、日常で着る服というのが大前提です。私自身が着るか、着たいと思うかが重要で、サカイにとって大事な判断基準。ファッションが世の中に絶対的に必要かと聞かれたら、そうではないかもしれないですが、サカイの服を着ると気分がいい。大袈裟ですが、自信を持って生きられると感じてもらうことが私たちのやりがい。「日常の上に成り立つデザイン」というのは日常着を作ることではなく、人の生活に寄り添える服を作ることだと思っています。

クラシックとモダンとを行き来する、自由な精神 <br /> 現代らしいゆったりとしたプロポーションの中に、異素材の組み合わせや独自のリズムを奏でるパターン使いなど、サカイらしいコードと遊び心が詰まったジャケットとパンツのセットアップ。洗練されたパリのランウェイでも、多様な価値観が混在する都市の路上でも、服から発せられる凛々しい存在感は、褪せることなくスタイリッシュに輝き続ける。コットンとウールを組み合わせたジャケット ¥253,000 パンツ ¥121,000 スカーフネックレス ¥63,800 シューズ 参考商品╱すべてSACAI(サカイ)
現代らしいゆったりとしたプロポーションの中に、異素材の組み合わせや独自のリズムを奏でるパターン使いなど、サカイらしいコードと遊び心が詰まったジャケットとパンツのセットアップ。洗練されたパリのランウェイでも、多様な価値観が混在する都市の路上でも、服から発せられる凛々しい存在感は、褪せることなくスタイリッシュに輝き続ける。コットンとウールを組み合わせたジャケット ¥253,000 パンツ ¥121,000 スカーフネックレス ¥63,800 シューズ 参考商品╱すべてSACAI(サカイ)

──サカイらしさを表現しながら、今回の「Coming Home」や2025-26年秋冬の「OneTender Moment」など、コレクションには時代の空気が的確に反映されていると感じます。その発想はどこから生まれるのですか。

もはや感覚でしかありません。「安心と裏切りのバランス」と私は呼んでいるのですが、それがとても大事。コレクションも安心ばかりだとつまらないし、逆に裏切りばかりだとサカイにはついていけないとなる。裏切るときも最初は驚いても時間が経つと納得できるような裏切り。そのバランスも6:4のような数値で考えているわけではないので、やはり感覚としかいえない。その感覚が鈍ったらダメなんです。

良いものを作ればビジネスは成立する

──ビジネスとクリエイションのバランスはどう考えていますか。阿部さんはデザイナーであると同時にサカイの経営者でもあります。「ファッションはビジネスです」とこれまでのインタビューでも話されていました。

ビジネスが成り立っていないと、好きなこともできません。良いものを作っているのに売れないなんて嘘です。良いものを作っていたら売れます。だからこそ、ビジネスが成り立っているのは、良いものを作っている結果だと思っています。大多数に受け入れられなくても、共感してくれる人は必ずいます。誰もが知っているメガブランドを私たちは目指しているわけではないので。

──ビジネスを成立させる会社としての戦略を立てるのも阿部さんの仕事ですね。

そんなに戦略的には考えていません。ただ自由にやりたいことをやっているだけ。もちろん会社として売り上げや店舗の数などの目標は設定していますが、私個人としてはもっと柔軟で、たとえ5年後に達成できていなくても、また考えればいいくらいの気持ち。チームで決断し、責任は私がとる。会社はとてもいい状態で、こうして私が自由にやりたいことをできるのは、スタッフに恵まれているからですね。私ができない部分をみんながフォローしてくれるので、好きなことをやっていられる。うちのスタッフはどこに出しても恥ずかしくない、本当に優秀です。私は自分にリーダーシップがあると思っていたのですが、そうでもないようです。私をフォローしなければいけないので育っていったんでしょうね。スタッフが宝です。

──若いデザイナーにアドバイスを求められたら、どんな言葉をかけますか。

私もまだまだなので一緒に頑張りましょうとしか言えません。ただひとつ伝えるなら、たくさんブランドがあるなかで自分のブランドの意味を探してくださいということでしょうか。私たちは早い段階でサカイのアイデンティティに出合うことができた。自分にしかできないことが見つかれば、先へ進めます。

──「新しい景色が見たい」とよく言われていましたが、これからも変わらないですか。

10年くらい前まではもっともっと上の景色が見たいと思っていました。なぜ私たちにはあの景色が見えないのか、と。それを見たいという思いでずっと登り続けてきましたが、今は違います。もちろん上の景色も見てみたいけれど、横を見てもいいし、少し離れた場所から見るのでもいい。あと何年やるんだろうと考えたら、これまでとは違う目線でいろいろな景色が見たくなってきた。上ばかり見ていた昔に比べてより自由になれた気がします。それはサカイとは何かをあらためて見つめ直し、再定義できてきたからかもしれません。

驚きと愛着を生み出す、「安心と裏切りのバランス」 <br /> さまざまな素材や色が織りなす洗練のリズム。ボリューム豊かな布がダイナミックに流れ、揺れるドラマティックなロングドレスも、不思議と東京のグレイな街並みにマッチして。ロングドレス ¥308,000 サンダル ¥88,000╱ともにSACAI(サカイ)
さまざまな素材や色が織りなす洗練のリズム。ボリューム豊かな布がダイナミックに流れ、揺れるドラマティックなロングドレスも、不思議と東京のグレイな街並みにマッチして。ロングドレス ¥308,000 サンダル ¥88,000╱ともにSACAI(サカイ)

Photos: Takashi Homma Styling: Mana Yamamoto Hair & Makeup: Rie Shiraishi Models: Kiko Arai, Lian Text: Kaori Tsukamoto Editor: Gen Arai, Reona Kondo

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