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育ての親を殺した冤罪で処刑宣告? ゴミ溜めから復讐を誓う、能力系バトルマンガ『ガチアクタ』が世界でも人気な理由【書評】

  • 2026.2.28
ガチアクタ 裏那圭:作、晏童秀吉:graffiti design/講談社
ガチアクタ 裏那圭:作、晏童秀吉:graffiti design/講談社

「物を大事にしなさい」

子どものころに言われたことはないだろうか。それを守っているわけではないが、長く愛用した、保持した物は、汚れたり傷ついたり多少壊れていても捨てにくい。美術品や骨董品でなくとも、物に“価値”が生まれることはある。たとえそれが個人的な思い入れにすぎなくても、その価値は確かに存在するのだ。

『ガチアクタ』(裏那圭:作、晏童秀吉:graffiti design/講談社)は、そうした「思念」を宿した物を武器へと変える能力者たちのバトルマンガだ。主人公の少年・ルドは、捨てられたゴミでさえ武器に変えることができる。その力を駆使した、ハイテンションで迫力満点の戦闘シーンが大きな見どころだ。

「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門ではGlobal特別賞を受賞。ボンズフィルムが手がける高品質なTVアニメは、2026年夏に第2期の放送が予定されている。さらに、世界最大級のアニメ専門ストリーミングサービス「Crunchyroll」の視聴ランキングでは、1話あたりの平均視聴数で世界No.1を記録。そしてロサンゼルス、ミラノ、台北、香港を同時に“ジャック”した「World Connecting Graffiti」はSNSでも大きな話題に。まさに、世界が注目する作品なのだ。

空に浮かぶ“天界”と、奈落と呼ばれる“下界”。理不尽に分断されたこの世界で、主人公ルドは何者かの策略で罪人として天界から落とされる。彼はすべてに対して復讐を誓う。

最底辺からぶち上がろうとする、下剋上の物語。話題作『ガチアクタ』の魅力を解説していく。

■“モノを愛する気持ち”が武器。能力者たちのハイテンションバトル。

ルド・シュアブレックはスラム街に住む孤児だ。ある日ルドは、父のように自分を育ててくれたレグトを殺される。しかもその犯人にされて処刑宣告を受けてしまう。ここでいう処刑とは、街の端にある奈落へ落とされることだ。崖下は底の見えない暗闇で、落ちることは死を意味している。

そもそもルドは理不尽な差別を受けていた。スラムに住む人間たちは族民と呼ばれ、貧しい生活を強いられていた。街の人間たちは、ルドと同じ族民たちであるにもかかわらず彼の処刑に沸き、罵声を浴びせる。さらに先日まで仲が良かった女の子でさえ彼を信じない。

ルドは、レグドを殺した真犯人、そして全ての人間を呪いながら奈落へ落ちる。

気がつくとルドは、ゴミに覆われた大地に寝ていた。奈落とは地下ではなく地上だったのだ。つまり彼が暮らしていた街は空の上にあり、今いる“下界”からは“天界”と呼ばれていた。

そんな下界でゴミから発生する化け物“斑獣”がルドを襲う。このピンチを救ったのはエンジンと名乗る男だった。エンジンは手にもった傘を武器に変化させ、斑獣を一掃する。彼のように、物に命を与えて力を引き出し「人器」という武器を作り出す能力をもつ人間を“人通者(ギバー)”といった。

そして、ルドは人通者として覚醒する。彼はその腕で触った物を「人器」にすることができた。すべてではないが、壊れている物、捨ててあるゴミであっても変化させられるのだ。エンジンは、そんなルドを逸材と呼び「掃除屋」に誘う。掃除屋は「人器」でしか倒せない斑獣を掃除する組織だった。

ルドは彼の仲間になると決めた。それは下界から天界へ戻る情報を得るためだ。彼は、天界にいたレグトを殺した奴と全ての人間をぶっとばすと決めていた。何よりもルドは、生きるために「掃除屋」で人通者として能力を磨き上げていく。

「掃除屋」には、人通者で木の棒を「人器」にするザンカ、ハサミ型の「人器」を操る女子のリヨウ、能力はないが彼らをサポートする兄貴分のグリスがいる。やがて、彼ら「掃除屋」に人通者たちの犯罪組織「荒らし屋」が戦いを挑んでくる。「荒らし屋」の目的は生きて下界にやって来た天界人、ルドを奪うことだった。はたして彼が狙われる理由とは何か。ルドは望み通り天界に戻れるのか。

理不尽に満ちた天界から、命を奪われるようにして落ちたルド。だが、彼は地を這ってでも生きて、空を睨むのだ。

■無価値だと捨てられた“もの”たちの再生の物語

壮大な世界観や人通者たちの能力が、迫力の人器バトルとともに語られていくストーリー。ただ主人公ルドについての情報はなかなか明らかにならない。序盤で判明しているのは孤児であり人通者ということだけだ。天界にいた彼がなぜ人通者だったのか。彼の黒い腕は何を意味しているのか。ルドのグローブとは一体何なのだろうか。

ただ最初から分かっていることは、ある。ルドは常に怒っている少年だ。下界に来る以前からである。理不尽な差別を受け、親の愛もやりたい夢ももっていない「なにもない」自分に対してやるせなく感じ、怒りを噴出させていた。彼は怒りを携えて、自分への明確な敵意に立ち向かう。そしてその一助になるのが“物への愛着”だ。

ルドは小さいころ、捨てられたゴミを見て泣きながら言っていた「こいつはまだおわってないのに!!かわいそうだ!なおしたい!!」。彼は、何ももたない無価値な自分をゴミに自己投影していたわけではない。ルドは捨てられていた物に価値を見出せる能力をもっていたのである。それが彼の「人器」を生み出す能力につながるのだ。ルドが手にする“人器”は単なる武器ではない。それは、かつて誰かが愛した物の、最後の咆哮だ。

見下し合う階級と差別に覆われた天界と、“不要”とされたすべてが投げ捨てられる下界。ルドは無価値とされた自分と物の力で、この分断された“クソな世界”を再定義するのだろうか。

価値がなくなったと捨てられた物は、誰かの手で再び輝きを取り戻せる。人間は踏みにじられる存在になったとしても、自ら立ち上がれる。『ガチアクタ』は価値を見出し輝きを取り戻す“再生”の物語なのだ。

文=古林恭

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