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雪の世界に想いを馳せて。山形・月山に息づく日々の営み。

  • 2026.3.21

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は山形・月山の旅。

つたやの部屋から外を望む。雪はこれほど長い間降り続けることができるものなのかと驚き感心した。数時間おきに除雪を行わなければ道が閉ざされる。雪を部屋で眺めていられるのは、たいそう優雅なことだと実感する。小説『月山』の作家、森敦は月山の注連寺に1年ほど身を寄せていた。彼のもうひとつの代表作『意味の変容』に月山を訪れる少し前に偶然出合い、この旅の前後で読んでいた。1度目は取りかかりにくさに戸惑い、2度目はするすると言葉が染み入ってきた。読み手のコンディションを選ぶのだろう。すっきりした気持ちで向かうと、そうかそうかと頷きながら読み進めることができ、世界の捉え方を説かれたよう。このタイミングでこの場所で、道標のような本と一緒だった。

白に覆われた世界、修験の山の麓。

vol.38 @ 山形・月山

日本国内で最も積雪量が多い地域のひとつ、山形の月山志津温泉郷にある老舗宿の一年を撮影することになった。友人の坂本大三郎さん・美穂子さん夫妻の実家の、変若水の湯つたやがその宿で、撮影対象は、この地域の四季折々の自然の姿、400年受け継がれてきたこの土地ならではの山菜料理や漬物などの保存食、そして宿を取り巻く人たちの日々の営みだ。

激しい雪が降る月山の冬は、都会暮らしの私にはまさに特別で、否応なしに「自然の荘厳さ」と対峙することになる。数年前、横なぐりの吹雪の中、山伏である大三郎さんの舞を撮った時のことは忘れがたい。雪に支配された世界と融合していく彼の姿は、まるで聖なる山の遣いのようだった。よき写真の手ごたえを感じながら寒さも忘れ夢中で撮影していたら、この時は自分よりカメラのほうが先に凍りついてしまったのだった。この度、雪にさらして干す凍り大根と岩魚スモークの調理工程を追っていた私は、竿に引っ掛けた岩魚を外に干すところを撮影中、もう一歩被写体に近づこうとし踏み出した途端、ファインダーを覗いたままずぶずぶと雪水にはまり、腰まで沈み込んでしまった(カメラは水に浸からないように死守した)。不思議なものでこういう時は特別な体内スイッチが作動して身体を守ろうとするようで、雪も水もあまり冷たく感じなかったのだった。私の腕を引っ張り上げてくれた美穂子さんに促されすぐに温泉に直行、芯から温まり一気に軌道修正完了。失敗を笑い飛ばしご機嫌に撮影を再開した。

茹でた大根を雪ざらしに。初夏にはこれを戻し炊いて料理する。

女将の志田英子さんが茹でた大根がたっぷり入った鍋を運んできたら、次は皆で手分けしてそれに紐を通す作業をする。

『新編 意味の変容』森 敦著ちくま学芸文庫¥1,760

Yayoi Arimoto東京生まれ、写真家。2月、3月は松本のギャラリー10cm、盛岡のミナ ペルホネン、東京・馬喰町のelävä Ⅰで写真展を開催、新しい展示方法についてぐるぐる試行錯誤中。

*「フィガロジャポン」2026年4月号より抜粋

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