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鏡を渡したら魚が30分で「自分いじり」を始めた

  • 2026.2.27
鏡を渡したら魚が30分で「自分いじり」を始めた
鏡を渡したら魚が30分で「自分いじり」を始めた / Credit:Cleaner fish show intelligence typical of mammals

日本の大阪公立大学(OMU)などで行われた研究によって、サンゴ礁に生息する小さな魚「ホンソメワケベラ」が、思っていたよりずっと「自分」を分かっているかもしれないことが示されました。

研究ではこの小さな魚の喉部分に寄生虫そっくりの茶色いマークをこっそり仕込み、その後に初めて鏡を見せるという少しイジワルな設定が使われています。

魚たちは最初、鏡の中の相手にケンカを売りますが、すぐに自分の動きと鏡の動きがぴったり重なるかを確かめる行動に切り替わり、そのあと多くの個体が喉こすりに突入しました。

さらには3〜4日目には、エビのかけらをわざわざ鏡の前に運び、落としてはその映り方を観察するという「遊びのような行動」まで始めたのです。

もしこの研究結果が正しければ、「自己意識(自分を自分だと感じる心)」は大型のほ乳類や鳥だけの特権ではなく、魚のような小さな脳でも芽生えうる可能性があります。

論文の著者たちも、自己意識は少なくとも約4億5千万年前の硬骨魚類の祖先までさかのぼって進化していた可能性があるとまで述べています。

研究内容の詳細は2025年11月25日に『Scientific Reports』にて発表されました。

目次

  • 「これが自分」の意識はいつ芽生えたのか?
  • 鏡の前で魚が「エビを咥えて落とす遊び」のような行動をとった
  • 自己意識の起源は4億5千万年前の魚だったかもしれない

「これが自分」の意識はいつ芽生えたのか?

「これが自分」の意識はいつ芽生えたのか?
「これが自分」の意識はいつ芽生えたのか? / 本研究で使用された魚はクリーナーフィッシュとも言われており、サンゴ礁で他の魚の体表やエラについた寄生虫などを食べることで有名な種です。Credit:Canva

自分の顔にシールが貼られているのに、まわりの友だちだけクスクス笑っている。

鏡を見て初めて「うわ、ついてたのか」と気づく──そんな経験をしたことがある人は多いと思います。

鏡がなければ、後ろ頭や喉の状態にはなかなか気づけません。

人間にとって鏡は、自分の体をチェックするための当たり前の道具ですが、ほかの動物にとってはどうなのでしょうか。

動物の研究では、額や喉など自分では見えない場所にマークをつけ、鏡を見せてそのマークを触ろうとするミラーテストで、鏡で自分を認識する能力を調べてきました。

チンパンジーやイルカ、ゾウ、カササギなど一部の動物だけがこのテストに合格し、「自己意識はごく限られたエリートの能力だ」と考えられがちでしたが、その解釈には議論も残っています。

しかし最近になり、チンパンジーやイルカで使われる「ミラーテスト」には落ちてしまうものの、鏡の前で複雑な行動を行う動物が次々と報告され、「落第=心がない」とは言えないのではないかと疑問が出てきました。

そこで今回研究者たちは、順番をあえてひっくり返し、「先に印をつけてから初めて鏡を見せる」ことで、魚が自己認識にたどりつくまでの道のりを秒から分の単位で追いかけようとしました。

もし魚が人間の子どもと同じように、鏡を見てすぐ自分に気づくとしたら、自己意識というものの生まれた時期は、サルどころか古代の魚まで大きくさかのぼるのかもしれません。

本当にそんなことがあるのでしょうか。

鏡の前で魚が「エビを咥えて落とす遊び」のような行動をとった

魚にも、人間のような素早い自己認識はあるのでしょうか。

答えを得るために研究チームは、サンゴ礁にすむホンソメワケベラを1匹ずつ水槽に入れ、喉の下に寄生虫そっくりの茶色い印(偽寄生虫マーク)を注射しました。

その状態で、魚にとって人生(魚生)初となる大きな鏡を水槽の一面に設置し、初日から5日間、毎日8時間をまるごとビデオで記録しました。

鏡が顔を出すと、多くの魚はまず「誰だお前!」とばかりに鏡の中の相手へ突進し、噛みつきや威嚇といった攻撃をくり返しました。

これは約30秒から約31分ほど続きました。

その後、魚たちはいったん距離を取り、今度は鏡の前で体を傾けたり、鏡を見ながら後ずさりしたりと、自分の動きと鏡の動きがぴったり対応しているかを確かめるような行動に切り替わりました。

研究ではこの確認行動はすべての個体で約4分から約2時間20分ほど観察されたことが確認されています。

そしてこの行動が終わった後、9匹中6匹が、鏡越しに見える喉の違和感に気づいたかのように、用意しておいた岩に喉をこすりつけ始めました。

最も早い個体では鏡提示からおよそ30分、多くの個体では2時間以内に「喉こすり」がスタートしており、ミラーテストの合格サインとされる自己認識行動を、驚くほど短時間でクリアしていたと研究チームは判断しています。

ですが本当に面白いのはここからです。

印をこすり落とそうとしたあと、魚たちの鏡への態度はがらりと変わりました。

口先で鏡をつつく回数は、印に気づく前よりも有意に増え、鏡の前でくねくねと不思議な泳ぎをしたり、鏡のすぐそばでじっとたたずんだりする時間も目に見えて長くなりました。

研究チームはこれを、鏡そのものの性質を確かめる「鏡探索行動」と名づけ、単なる攻撃でも自己チェックでもない第3のステージだと研究チームは考えています。

また鏡に口をつけたままスーッと水槽の底に向かって沈んでいくという奇妙な行動も目立ちました。

さらに象徴的だったのが、エビの欠片を使った魚たちの「自作実験」です。

ある個体は、底に落ちているエビの欠片をくわえ、鏡の前まで持ち上げてからわざと落としました(上の動画参照)。

すると、落ちていくエビと、その鏡像の動きを見比べるように、魚は鏡に沿って一緒に沈みながら口でガラスをつつき続けました。

鏡がない水槽では同じ行動が見られなかったことから、研究者は「自分以外の物体を使って鏡の性質を試す高度なテスト」だと解釈しています。

こうした流れをまとめると、魚たちは「敵だと思ってケンカ」「自分と鏡像の動きをテスト」「鏡を使って自分の喉をチェック」「エビを使用した遊び兼実験」という四つのフェーズを数時間~数日のうちに駆け抜けていることになります。

研究チームは、このスピード感こそが「魚には鏡を見る前から自分の体のイメージがあり、鏡はその違和感を確認するための道具になっている」ことを示唆していると考えています。

自己意識の起源は4億5千万年前の魚だったかもしれない

自己意識の起源は4億5千万年前の魚だったかもしれない
自己意識の起源は4億5千万年前の魚だったかもしれない / 大きな体の表面でお掃除すべきエサをさがしている様子。Credit:Canva

今回の研究により、「魚でも鏡を渡されてから短時間で自分の体の異常に気づき、その後は鏡を道具のように使いこなすようになる」可能性が示されました。

小さなサンゴ礁の魚が、鏡の前で攻撃モードから実験モードへと切り替わる様子は、コミカルでありながら、自己意識という重たいテーマをぐっと身近に感じさせます。

そして、自己認識は一度だけ霊長類で生まれたわけでも、少しずつ高度になってきたわけでもなく、少なくとも硬骨魚類の共通祖先の段階、つまり約4億5千万年前の段階で存在し、それが子孫の脊椎動物に広く引き継がれ分布しているかもしれないという大胆な仮説を著者たちは提示します。

もし今後、ブタやカラス、エイなど、これまで「テスト落第組」とされてきた動物でも同じような詳細観察や過去映像の再解析が進めば、「どこまでが道具としての鏡利用で、どこからが自己認知なのか」という線引きがよりはっきりしてくるだろうと著者たちは予測しています。

「自分を自分だと感じる」レベルの心が、思っているより多くの生き物に広がっているなら、動物福祉の考え方や、脳がどのように「自分」をモデル化しているかを探る神経科学、さらにはAIが自分の状態をどのようにモニターすべきかという議論にも、静かに影響していくかもしれないと研究者たちは見ています。

私たちが洗面台の鏡をのぞくとき、「いま鏡を見ているこのまなざしは、約4億5000万年前の魚から静かにつながっているのかもしれない」と想像してみるのもいいでしょう。

参考文献

Cleaner fish show intelligence typical of mammals
https://www.omu.ac.jp/en/info/research-news/entry-103609.html

元論文

Rapid self-recognition ability in the cleaner fish
https://doi.org/10.1038/s41598-025-25837-0

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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