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「まだまっすぐ」を繰り返す乗客。後ろを振り返ると“予想外の光景”にタクシー運転手も絶句…

  • 2026.3.23
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役タクシードライバーのけんしろです。

冬の深夜、居酒屋前で上機嫌の男性客をお乗せしました。
目的地はほぼ一本道の駅前。
何事もなく終わるはずの運行でしたが、その夜私は「酔ったお客様の“まだまっすぐ”」に、思わぬ形で振り回されることになりました。

ご機嫌なお客様と、走りやすい冬の夜道

「よっこらしょ〜」

30代くらいの男性が、勢いよく乗り込んできました。

「○○駅の近くね〜」

「かしこまりました。国道◎◎号をまっすぐですね」

「正解〜」

とても陽気なお客様です。
きっと、楽しいお酒だったのでしょう。

○○駅は隣の市にある小さな駅で、国道をほぼ一本道。

私は運転しながら、到着までの時間と料金を頭の中で計算していました。
だいたい25分、6,000円台くらい。
タクシードライバーは、こんなことをわりと無意識に考えています。

深夜の国道は昼間と違って、とても走りやすいです。
信号は黄色点滅が多く、街灯も明るく視界良好。
冬の澄んだ空気の中、ヘッドライトが前方をきれいに照らしていました。

駅が近いのに、なぜか「まだまっすぐ」

予定どおり20分ほど走った頃、
【○○駅 500m】の看板が見えました。

私は前を向いたまま、後部座席に声をかけます。

「お客様、そろそろ○○駅です。この先をご案内していただけますか?」

「まだまっすぐ行って〜」

念のため確認します。

「駅を越えて、しばらくまっすぐですね?」

「ずんずん行って〜」

返事は明るい。会話としても成立している。
だからこの時点では、そこまで強い違和感はありませんでした。

「おかしいな」と思いはじめたのは、民家も減って、川沿いの少し暗い道に入った頃でした。
メーターも、すでに9,000円を超えていました。

振り返ったら、寝ていた

私は少しだけ後ろを振り返りました。

すると、お客様はシートにもたれたまま、目を閉じています。

しまった、と思いました。

すぐに安全な場所へ車を寄せ、メーターが上がらないように設定します。

「お客様、かなり先まで来ています。起きてください」

すると返ってきたのは、寝ぼけた声で、

「ん? まだまっすぐよ」

やっぱり、そうだったのです。

私は後部座席の窓を少し開け、冷たい外気を入れました。
体に触れて起こすのは避けたいので、まずは空気を入れ替えます。

「ここはもう△△です。もっと早く確認するべきでした。すみません」

そう説明すると、お客様も状況を理解されたようでした。

チケットが救ってくれた

正直、この時は少し覚悟していました。
確認不足を責められたら、言い訳できません。

するとお客様が、「これ貰ったんだけど」と、
タクシーチケットを出してくださったのです。
心の中では、かなりほっとしました。

「ありがとうございます。使えますよ。このままお送りしますね」

そうお伝えすると、お客様は最初の陽気な調子に戻って

「いやー、こっちこそごめん」

と笑っていました。

そのまま無事に目的地へ到着。
私はそこでようやく、深く息をつくことができました。

あの夜に覚えたこと

タクシーは、お客様に背を向けたまま接客する仕事です。
ルームミラー越しに目が合ってしまうことも失礼だと思い、少し上向きにしています。

表情が見えない分、声のトーンや、物音、ちょっとした違和感を拾うことがとても大切です。

あの夜以来、目的地の近くで「まだまっすぐ」と繰り返すお客様には、少し早めにご様子を確認するようにしています。

酔ったお客様の「まだまっすぐ」は、案内ではなく、眠気のサインかもしれない。
私は勝手に「まっすぐの法則」と呼んでいます。

そんなことを教えてくれた、冬の深夜の一本でした。


ライター:けんしろ

現役タクシードライバー。
日々さまざまなお客様と向き合う。現場での経験をもとに、移動の裏側にある人間模様や、サービス業における対応力について発信。密室空間だからこそ見える感情の機微を大切に、実体験をもとにしたコラムを執筆している。


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