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新時代を迎えたジョゼフが見据える、クワイエット ラグジュアリーのその先【2026-27年秋冬 ロンドンコレクション】

  • 2026.2.23

フラムにあるミッドセンチュリーの研究所を改造した複合施設で、デザイナーのマリオ・アリーナは、ロンドンに欠くことのできないラグジュアリーブランドのひとつ、ジョゼフJOSEPH)のために構想しているデザインの数々の最終仕上げに入っていた。ファッション通ならご存知かもしれないが、アリーナがブランドのクリエイティブ・ディレクターとしてデビューを果たしたのは2026年春夏シーズンでのことで、今回披露するのはジョゼフで手がける初コレクションではない。

「『最初のコレクションはショー形式では発表したくない』とずっと言っていました」と私を出迎えながらアリーナは話す。ジョゼフのランウェイ復帰を2日後に控えているにもかかわらず、あたりはやけに静かだ。「私にとっては、ブランドのヘリテージを深く掘り下げると同時に、新たな声を確立し始めることが非常に重要でした」

昨シーズンが新生ジョゼフの意思表明であったとすれば、2026-27年秋冬はブランドの今後の展望を堂々と示すコレクションだ。私は真っ先に、何百本ものヤマアラシの針で飾られた重厚なクリーム色のカシミアセーターに釘付けになった。針は3Dプリンターで作られたものだが、樹脂に顔料を練り込んでいるため、本物そっくりの仕上がりになっている。アリーナがハンガーにかかったセーターを私に渡す。受け取った瞬間、体勢を崩しそうになったほどずっしりとしているにもかかわらず、見た感じは重みを全くと言っていいほど感じさせない、流れるような軽やかさを宿すデザインだ。表面をさっと払うと針が揺れ、雨のようなカサカサ音が部屋中に響き渡る。

シリコンコーティングのグミのような触感、雲を思わせる加工されたシアリングの山、チョコレート色のナッパレザーの芳醇な香り。見ただけではわからないがルックに深みを与えてくれる知覚的なこれらの要素について、アリーナはプレビューの間中力説した。

クラフツマンシップへの愛と、ジョゼフの歴史への賛歌

今季のコレクションは、「触覚」を表現することに重きを置く、イギリスの彫刻家リチャード・ストーンからインスピレーションを得ている。「彼は非常に硬い素材を、実に柔らかく流動的な形に彫刻し、自然には存在しないフォルムを見出すことを得意としています」とアリーナは語る。「ファッションでは、平らな布を、奥行きとフィット感のある立体的な服に変えます。今回のコレクションではそのプロセスを表現したかったのです」

ワンランク上の削ぎ落とされたベーシックアイテムは、依然としてコレクションの中核を成している。そんなアイテムに交えて、インパクトのあるピースを制作し、ショー形式で発表することは、9年近くロンドン・ファッションウィークのランウェイから離れていたジョゼフを「メゾンとして復活させる」ための試みの一環であるとアリーナは言う。「競合と並ぶためにも、オンスケジュールでファッションウィークに参加することが本当に重要なんです。私は、ジョゼフを“現代のブランド”だとは思っていません。ラグジュアリーブランドであり、その要素を取り入れていくつもりです」

ヤマアラシのセーターを含め、ジョゼフをトップメゾンに返り咲かせるために打ち出されたピースは、数え切れないほどある。例えば、ゆったりとしたチョコレート色のセーターとスカート。不規則で粗いゲージのクロシェ編みのこれらは、リチャード・ストーンのブロンズ像から着想されたものだ。手作業でカットされた2,000メートルにも及ぶナッパレザーを用いており、職人たちの手によって完成するまでに72時間かかった。

ほかにも、表面を金メッキのシリコンで薄くコーティングしたパイソン風のチュール、夏でも着られそうなほど皮を薄く剥がれた、手に吸い付くようなしなやかなレザーのトップやスカートが登場。着用するにつれて徐々に浮き上がってくる、蛇のうろこに似た模様をレーザーエッチングで刻印したグレイズドレザーのピース、エンボス加工でバスケット織りのような詰まった編み目を表現した、革のジャケットやトップハンドルバッグなども披露された。

「提携している工場にお願いして、アーカイブにある限りの古い技術を遡って見せてもらい、参考にしました」とアリーナは後者の技術について言う。誕生から40年が経つ技法を、今回はテクノロジーを駆使してアップデートした。「織物の要素を得ながら、軽やかに仕上げられます」

「私がジョゼフに入った当初は、クワイエット ラグジュアリー一辺倒でした」とアリーナは続ける。「でも、市場は変わっていて、私たちのクライアントはより刺激的なものを求めています」。実際、アリーナのデビューコレクションで圧倒的なヒットアイテムとなったのは、クワイエット ラグジュアリーとは程遠い、大胆なクロコ型押しのパープルのレザーコートだった。

アリーナがジョゼフで手がけた2回目のコレクションは、彼自身のクラフトへの愛を示すと同時に、ブランドのやや見過ごされてきた物語を賛美するものでもある。「私はクラフツマンシップに魅せられてこの業界に入りました。そして、そのクラフツマンシップを復活させたかったのです」と彼は語る。「実際に店舗に足を運んで、自分の手で服の質感を感じたくなる。旅に出て、服の声に耳を傾けたくなる。90年代初頭のジョゼフは、そう思わせてくれるブランドだったことを覚えています」

そして、アリーナはそう思わせてくれるショーを繰り広げた。ロンドンで最も趣のある会場のひとつ、テート・モダンの「ザ・タンクス」で行われたショーでは、70年代のシンセサイザー音楽が鳴り響く中、モデルたちが丸みを帯びたコンクリートの空間を駆け抜けた。「ソフトで優美な雰囲気にはしたくなかったんです。今、自分たちがやっていることを声高にアピールする必要があるので」とアリーナは断言する。確かに、クワイエット ラグジュアリーを早くも過去のものとしているファッション業界では、ブランドの声に耳を傾けてもらうためには、大胆に出なければならないのだ。

※ジョセフ2026-27年秋冬コレクションを全て見る。

Text: Mahoro Seward Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.CO.UK

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