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カツオの眼球から「回遊履歴」を推定する手法を開発!

  • 2026.2.20
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

カツオは広い太平洋を高速で泳ぎ回る回遊魚です。

しかし、その一生の移動ルートを正確にたどることは、当然ながら簡単ではありません。

そんな中、京都大学の研究チームは、カツオの「眼球」に残された化学的な記録を読み解くことで、生涯の回遊履歴を推定する新手法を開発しました。

研究の詳細は2025年11月18日付で科学雑誌『Methods in Ecology and Evolution』に掲載されています。

目次

  • 眼球は「海の航海日誌」だった
  • 33個体のカツオから見えた「部分回遊」

眼球は「海の航海日誌」だった

従来、魚の回遊を追跡するには電子標識(タグ)を体に装着する方法が主流でした。

しかしこの方法は高コストで、小さな個体には装着が難しく、電池寿命の制約もあります。

そのため、魚が孵化してから漁獲されるまでの「一生分の移動」を把握するのは困難でした。

今回の研究が注目したのは、カツオの眼球にある水晶体です。

水晶体は成長に伴って外側へ層を重ねるように形成され、いわば年輪のように過去の情報を内部に閉じ込めています。

カツオの水晶体を顕微鏡下で切片にする様子(A)、水晶体(B)と切片にした後の水晶体の中心部(C)。中心部には、孵化時期の同位体比が記録されている。/ Credit: 京都大学(2026)

研究チームはこの水晶体を中心部から外側へと薄く切り分け、それぞれの層に含まれる炭素と窒素の安定同位体比を測定しました。

炭素や窒素の同位体比は、海域ごとの環境や食物網の違いを反映します。

つまり、水晶体に記録された同位体比を読み解けば、その時期にどの海域にいたのかを推定できる可能性があるのです。

研究ではまず、西部太平洋における同位体比の分布地図を作成。

既存のカツオ筋肉データと、水温や塩分、栄養塩などの環境データを組み合わせ、海域ごとの同位体比を統計モデルで推定しています。

特に窒素同位体比は南北方向で大きく変化し、北緯10度以南の熱帯域で高い傾向が確認されました。

33個体のカツオから見えた「部分回遊」

次に、実際に中西部太平洋で漁獲された33個体のカツオの水晶体を分析し、状態空間モデルという統計手法を用いて回遊経路を推定しました。

その結果、31個体では既知の回遊生態と整合的な移動パターンが再現されました。

熱帯で漁獲された8個体は、移動範囲が比較的小さく、生涯を通じて熱帯から亜熱帯にとどまる傾向が示されました。

一方、日本近海で漁獲された個体の多くは南方で孵化し、成長とともに北上したと推定されました。

さらに興味深いのは、亜熱帯で漁獲された9個体です。

これらは移動パターンにばらつきがあったものの、すべての個体が生涯のどこかで日本近海まで北上した経験を持つと推定されました。

これらの結果から、熱帯域のカツオ個体群には、比較的狭い範囲にとどまる個体と、広範囲に北上回遊する個体が混在する「部分回遊」が存在する可能性が示唆されました。

眼球が語る「海の物語」

この手法の大きな利点は、漁獲された個体から過去の移動履歴を復元できる点にあります。

標識の装着や再捕獲を必要とせず、多数個体を効率的に解析できるため、資源評価や管理の高度化にもつながる可能性があります。

広い海を泳ぐカツオの目の奥に、これほど精密な「航海の記録」が刻まれていたとは驚きです。

今後、この手法がマグロ類やサメ類など他の外洋性動物にも応用されれば、私たちの知らなかった海の移動ドラマが次々と明らかになるかもしれません。

参考文献

カツオの眼球の分析から回遊履歴を推定する手法の開発に成功
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-02-19-1

元論文

Fine-scale reconstruction of pelagic fish migration by iso-logging of eye lens
https://doi.org/10.1111/2041-210x.70201

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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