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会話における理想は「聞く7割、話す3割」? 論理で押し切る「説得力」ではなく、距離を縮める「雑談力」で信頼を勝ち取る方法とは【書評】

  • 2026.2.20
差がつく雑談できる人が実践している伝え方 河上純二/三笠書房
差がつく雑談できる人が実践している伝え方 河上純二/三笠書房

商談や打ち合わせの場で、最初から本題に切り込むことはそう多くない。たいていは、軽い世間話や雑談から会話が始まる。雑談を「単なる前置き」と見なすか、「関係づくりの要」と捉えるかによって、コミュニケーションの質は大きく変わる。『差がつく雑談 できる人が実践している伝え方』(河上純二/三笠書房)は、雑談を後者の視点から捉え直し、その価値と実践法を丁寧に掘り下げた一冊である。

著者の河上純二氏は、長年のビジネス経験を通じて、雑談が人間関係や仕事の成果に強く影響することを体感してきた。営業の現場で雑談の力に気づいて以降、業界や立場を越えた人との出会いを重ね、雑談を偶然に任せた会話ではなく、再現性のあるコミュニケーション技術として磨き上げてきた。本書は、そうした経験の積み重ねを背景に構成されている。

本書の中心にある考え方は明快である。人を動かし、信頼を得るために必要なのは、論理で相手を押し切る「説得力」ではなく、距離を縮めるための「雑談力」だという。雑談が得意な人は、話題の巧みさで場を主導するのではない。相手の言葉に注意深く耳を傾け、反応を見極めながら会話を調整している。著者は、こうした姿勢を「先天的な能力」ではなく、意識と訓練によって誰でも身につけられる技術として位置づけている。

雑談の実践例として示されるのが、「聞くこと」を軸にした会話の設計である。著者は、会話における理想的な配分として「聞く7割、話す3割」を挙げる。自分の発言量を抑え、相手が安心して話せる空気をつくることで、会話はしぜんに広がり、関係も深まっていく。雑談を自己主張の場と捉えず、相手の言葉を引き出すための仕組みと考える視点が、本書全体を貫いている。

聞き役に回るといっても、黙って耳を傾けるだけでは相手は話しやすくならない。本書によれば、重要なのは傾聴の姿勢と、適切なあいづちである。「そうなんですね」「いいですね」「本当ですか」といった短い反応を、相手や場面に応じて使い分けることが勧められている。加えて、言葉そのものよりも、関心や驚きといった感情をどう乗せるかが重要だと説明されている。

たとえば、相手が「先週、出張に行きました」と話した場合、「そうなんですね」と受け止めたうえで、「どちらに行かれたのですか」と問いを添える。「熊本です」という返答に対しても、「熊本ですか」と平坦に返すのではなく、「熊本ですか!」と関心を込めるだけで印象は変わる。「馬肉料理が有名なんですよ」と話が続けば、「馬肉料理ですか」と言葉を受け止め、「どんな料理があるのですか」と広げる。「◯◯さん、どんな料理があるのですか」と相手の名前を添えて問いかけることで、親近感も生まれやすくなる。

本書では、名刺から話題を見つける発想や、人脈を立体的に捉える視点、無理に雑談をしないという判断まで扱われている点も印象的である。雑談を万能視せず、状況や相手に応じて使い分ける姿勢が全編を通して一貫している。

生成AIの普及によって、定型的な受け答えは自動化されつつある。人と人が向き合い、その場の空気を読みながら交わす雑談の価値は、むしろ高まっていると言えるだろう。本書は、雑談を感覚や経験則に頼るものから、意識的に磨く技術へと引き上げ、仕事にも人生にも活かすための確かな視座を与えてくれる一冊である。

文=ルートつつみ(https://twitter.com/root223)

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