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東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第32回(やまぎわ)「ネットのお笑いの隆盛は、芸人の敗北を意味するのか」

  • 2026.2.19
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」提供:無尽蔵やまぎわ
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」提供:無尽蔵やまぎわ

提供:無尽蔵やまぎわ

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第32回はやまぎわ回。

第32回(やまぎわ) 「ネットのお笑いの隆盛は、芸人の敗北を意味するのか」

第30回では「素人と芸人」の違いを論じました。今回はその延長線上で、「匿名ユーザーによるネットのお笑いが芸人にどんな影響を与えているのか」を考えたいと思います。

近年、お笑いの世界とネットの世界の境目が曖昧になっているような気がします。

それを一番感じたのはM-1グランプリ2022年決勝の真空ジェシカさんでした。漫才の中に「俺でなきゃ見逃しちゃうね」が登場したのです。生放送で聞いた時、「おいおい、それアリなのかよ!!」と思いました。M-1という最も公共性の高い舞台に、ネットのノリが溶け出してきたのです。

他にも春とヒコーキさんのように、ネットミームを武器に戦う芸人が大衆的な支持を獲得しています。芸人とネット文化の融合はもはや社会的なムーブメントです。

見方によっては、これはお笑いの敗北にも見えるかもしれません。 専門的技芸であったところのお笑いが、匿名のユーザーが生み出したミーム・ノリを手放しに受け入れ、取り込んでいるわけですから。芸人の作家性はどこへいったのだと。教えはどうなってんだ教えはと。

でも僕としては、「もうこれは仕方ない。面白いのは本当だから。」と思っています。

僕は高校時代に一番お笑いにハマっていたのですが、同時に男村田スレにもハマっていました。これはプロ野球選手のあるあるを使ったネタスレです。例えば「男村田、大松、鳥谷らの異世界転生」というスレッドであれば、男村田が奴隷解放の父となり(男村田はいかにも男らしい行動をする)、加藤良三が異種族をまとめ国を統一するのです(加藤良三さんは統一球を導入した)。

要するにこれは「二要素大喜利」そのものです。「プロ野球選手が異世界転生、何が起こる?」という大喜利のお題をみんなが一生懸命考えているのです。元ネタの狭さこそあれ、大喜利は立派なお笑いの一種ですから、うまくいったスレは格別の輝きを放ち、演芸にも負けず劣らずの面白さを抱くでしょう。

近年のYouTubeのコメント欄も、純粋な感想の共有欄というよりは「いかに気の利いたことを言えるか」という半ばひな壇の様相を呈しています。「いいね!」の数が可視化されることで、本当に面白い一言が注目されるという構造的な要因が大きいでしょう。もはや笑いの競技場と化しています。

そんな中で芸人の特別性をどこに見出せばよいのでしょうか。先日のコラムともつながりますが、もはや「面白いことを言えるかどうか」という点でプロと素人を区別するのは難しいのです。

先の論点をもう少し深化させ、「ネットのお笑いは芸人の存在を脅かすものか」を考えたいと思います。ネットのお笑いが広がれば、もはや芸人は不要になるのでしょうか。

しかし、僕はむしろ逆だと感じています。

観客の共通認識をベースとするお笑いにとって、インターネットの発達はその共通認識作りに大きく寄与しています。ドンデコルテさんの陰謀論的漫才も、ネットでよく目にする陰謀論的ノリを皆が共有できていたからこそ爆笑の渦をおこせたといえるでしょう。ミームやニュースが瞬時に共有されることで、観客の側の笑いの前提はどんどん更新されていき、結果芸人は新しい価値を提供できる。かつてテレビが時事ネタという共通認識を供給していたように、今はネットがそれを担っているのです。

さらに芸人は匿名ユーザーにはない身体性と物語性も宿しています。非匿名で演じるお笑いだからこそ、人柄やキャラと言った身体的要素が台本に上乗せされます。加えてM-1の戦歴などその芸人が辿ってきた道程がストーリーとなり、各芸人固有の物語性を宿すのです。ネットがどれだけ強くなっても、この唯一無二性が失われることはないでしょう。

ネットのお笑いも、芸人のお笑いも、結局は同じ地続きの営みの上にあります。「やばいクレーマーのSUSURU」を生み出したラーメン珍道中さんも、かつて大学お笑いの場で僕と同じ舞台に立っていた先輩でした。ネットとリアルのお笑いの境目はかくも曖昧なのです。

わざわざ区別して優劣をつける必要はなく、お笑いのフィールドが広がったくらいに思えば良いのだと思います。インターネットの流行り廃りも取り込みながら、いかに芸人しか生み出せない「ジンテーゼ」の面白に辿り着けるか。そこに芸人の真価が問われています。

提供:無尽蔵やまぎわ
提供:無尽蔵やまぎわ

■無尽蔵

サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。

無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao

無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin

無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane

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