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東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第33回(野尻)「芸人をどんな形で消費してもらっても構いません。その代わり、昼まで寝させてください」

  • 2026.3.5
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵 野尻
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵 野尻

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第33回は野尻回。

第33回(野尻) 「芸人をどんな形で消費してもらっても構いません。その代わり、昼まで寝させてください」

こんにちは。無尽蔵の野尻です。先日、ニューヨークさんの公式YouTubeチャンネルにて公開された動画「お笑いファンが選んだ本当にメロい芸人ランキング」はにわかに注目を集め、お笑い界でくすぶっていた「メロい論争」の火種は、ちょっとした小火(ぼや)にまで発展し、問題は妙に真剣な熱を帯びているように感じます。お笑いファンが芸人を「面白さ」以外の尺度で消費するのは是か非かという、はたから見れば呑気な、当人たちにとってはシリアスな、いにしえのお笑いファンからすれば積年の課題であるような論争が巻き起こりました。

動画が公開されてからの1週間、芸人の楽屋トークは「メロい」を巡る物議で一色に染まっていたと言っても過言ではありません。「メロい」という言葉の持つ得体の知れなさに芸人は怯え、無理解のモヤモヤを解消するために「メロい」をあざ笑い、客より優位に立とうとする。「メロいって結局どういう意味なん?笑」とか「こっちは芸人なのに、メロいなんて言われちゃったよ笑」などと言い、一丁前に「芸人としての矜持」らしきものに関連付けて、自分で気持ちよくなる。なんだか彼らは、傷つかないように必死に見えます。

まずもって、一枚岩でもないお笑いファンという集団が野放図に使っている「メロい」という言葉に明確な定義などないし、あったとしても芸人がそれを理解する必要はありません。これはいささか乱暴な持論ですが、芸人とファンは劇場という同じ空間を共有していながら、その実、人生の相当早い段階で進む道が分かれた、メンタリティが根本から違う集団であると私は思っています。そのため、ファンが何に喜び、何に悲しむのかを芸人が高いレベルで理解することは難しいです。従って、変に媚びても的外れになるだけなので、ただ真摯に面白いと思うことをお届けすればいいのではないでしょうか。私が「お前にファンが救えるか」と聞かれたら、「分からぬ。だが、共に生きることはできる」と答えるでしょう。

さらに言えば、芸人はあくまで道化で、その活動は誰に強いられているわけでもない道楽なので、そもそも偉そうに規範を説く立場にないでしょう。職業訓練も社会的責任も放棄して昼まで寝ていられるくせに、「メロい」ひとつに顔を真っ赤にして職人ヅラするなんて、ちょっとドラマや映画で芸人がカッコよく描かれすぎましたかね。

「客はただ笑っとけ」なんて言いますが、お客さんは芸人が思っているより感受性が豊かだと思います。「面白い」意外にもさまざまな切り口で芸人のことを慈しんでいるのだから、とりあえずわれわれは諸手を挙げて歓迎しましょう。観客を啓蒙しようなんて、とんだ思い上がりです。

一方で、お笑い芸人は自己を尊び、誇り高くあらんとせねばいけないとも私は思っています。それは、大きなスケールでお笑いをするということです。日本国のスケールで考えれば「メロい/メロくない」はあくまで小さなファンダムにおける一過性の議論に過ぎず、それに拘泥するよりも、自分達の存在を知らない全国の老若男女へ未知のお笑いを届けることにこそ心を砕かねばなりません。お笑いの実力も全国的な知名度も不十分なのに、メロいランキングに滑り込んで一体何の意味があるんだ!?

結婚を発表した芸人の集客力がガタ落ちするということがあります。私からすれば「何だよそれ」と思いますが、別に理解する必要がないのです。そういうもんだから。来るも来ないもお客さんの自由だから。芸人は「今までありがとうございました」とだけ告げ、自分のお笑いを大成しようと歩くほかない。「メロい」を理解する必要が芸人にはなく、そして「メロい」をあざ笑う権利もない。同時に、観客が明らかにマナーを逸した言動をしたらそれに怒る権利だってある。結局、人と人が劇場で出会っているだけなのだと思います。

しかし「メロい」と距離を取るこの態度までもメロいと言われたら、もう無敵じゃんと観念するしかないでしょう。

 提供:無尽蔵 野尻
提供:無尽蔵 野尻

■無尽蔵

サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。

無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao

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