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映画公開決定『メダリスト』を未読の方は幸せである。「何もできない子」と言われた少女の奮闘を今からでも読んでほしい理由

  • 2026.2.19
メダリスト つるまいかだ/講談社
メダリスト つるまいかだ/講談社

心を燃やす少女がひとり、氷の上に立つ。一瞬の静寂ののち、曲が聞こえてくる。戦いが、始まる。

破竹の勢いだ。フィギュアスケートコミック『メダリスト』(つるまいかだ/講談社)は「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門第1位、第68回「小学館漫画賞」に輝き『小説 メダリスト』(講談社)や『メダリスト公式ファンブック』(講談社)などの関連書籍も発売。そして劇場版アニメの2027年公開が発表になり、2026年1月からはTVアニメの2期がスタートしている。

主人公の少女いのりのフィギュアスケートへの情熱と、コーチである司の生きざまがリンクの上で交錯し、輝くストーリーは多くの読者の心をつかんでいる。大ヒット作への道を歩む本作を、改めて紹介したい。

未読の方は幸せであると言いたい。私の初見、初読時のインパクトは筆舌に尽くしがたいもので、ページをめくる手を止められなくなってしまった。

■フィギュアスケートの金メダルを目指す少女の成長譚

アイスダンスの選手を引退した明浦路司(あけうらじつかさ)は、名古屋のフィギュアスケートクラブ「ルクス東山」のコーチに誘われる。

司は、クラブの練習拠点である大須スケートリンクで一人の少女と運命の出会いをはたす。彼女――結束いのり(ゆいつか いのり)は小学5年生。いのりは「大好きなフィギュアスケートを本格的にやりたい」ということを母親に言い出せない少女だった。彼女は周囲から「何もできない子」と思われており、自分に自信をもつことができない。だが、いのりは、大須にひとりで通い独学で技術を身につけていた。いのりのスケーティングには、司からみても明らかに光るものがあった。

いのりの姉が途中でスケートをやめた過去があること、すでに彼女が小学5年生ということを気にしていた母親を司が説得。いのりも、ついにフィギュアスケートへの強い気持ちを口にする。そのかいあって、ようやくいのりは正式に「ルクス東山」に通えることになる。

小学5年生というのはスケートを始める年齢としてはかなり遅い。これはスケート強豪国で“メダリスト”を輩出し続けている日本の現実とリンクしている。だからこそ、物語はアツくなる。逆境からの挑戦。「何もできない」と思われていた少女は、フィギュアの世界に足を踏み入れるやいなや、驚くほどの速さでレベルアップしていく。

ただ、いのりの成長はリンクの上でだけではない。初めて出場する大会「名港杯」で、練習時の娘の緊張を目にした彼女の母親は司に「今回はジャンプの構成を簡単なものに変えてほしい」と伝える。母はスケートはあくまで“習い事”という認識で、良い思い出にしたかったからだ。だが、いのりは自らの意思でこう口にする。

引用----

私はスケートで勝ち負けをやりたいんだ

選手としてメダリストになりたいから

難しい事は失敗しやすいってわかってる

勝つばっかじゃないってわかってる…

それでも…

できなかったねって言われても

やってみたい

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好きなもののために頑張れる才能と、スケート技術でいのりはスケート選手になる。そのうえで、彼女は人間としての強さも身につけて自分に自信をもてるようになり、自分を誇れるようになっていく。

いのりが強い人間になっていくプロセスは、スケート競技の勝負でのカタルシス以上に感情を掴まれる。

■再生し、少女とともに強くなる男も生きざまを氷上に懸ける

成長していくいのりを支えるコーチの司は、自分を再生しようとするもうひとりの主人公だ。

彼は、あるメダリストの演技に心を奪われて中学生からフィギュアスケートを始めた。いのりの比ではない遅すぎるスタート。そんな彼を受け入れるクラブは見つからず、コーチがついたのは20歳のとき。しかもシングルではなくアイスダンスの選手としてだ。

それでも、司は全日本選手権に出場するだけの才能と実力があった。だが現役を退いた26歳の時点ではアイスショーのオーディションに受からず、スケートで食べていくのはままならない。「スタートが遅すぎた」現役時代から自分の才能を信じられずにいた彼は、ますます自己否定をするようになっていく。

そんな司の前に現れたいのりは、まるで彼自身だった。スケートを始める年齢ではないと言われ、自分に自信をもてない少女。司は彼女に寄り添い、スケートをやりたい気持ち、“メダリスト”という遠大な目標を肯定するパートナーになると決めた。こうして彼の時間が再び動き出したのだ。

そして、いのりと司は、彼女がライバルと言ってはばからない天才少女・狼嵜 光(かみさきひかる)と、そのコーチでオリンピック金メダリストの夜鷹純(よだかじゅん)と対峙することになる。

実は司がフィギュアスケートを始めるきっかけになったのは夜鷹の演技であった。敬意以上の憧れの相手。だが夜鷹がいのりに「一生、君が光に勝てる事はない」と言ったことで司は逆上して言い放つ。

引用----

俺たちは勝ちます

貴方が誰であろうと関係ない…

自分が何者かも関係ない…

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6話のこのシーンで確信した。司は再生し、成長している。

本作には適齢期からフィギュアスケートを始めた子どもたちも多く登場する。彼らもまた、挫折から立ち上がり、強くなろうと奮闘する。それぞれが背負うバックグラウンドは様々だが、10年そこそこの生きざまを氷上に懸けるのだ。いのりや司と同じように。

メダリストを目指す、眩しくて泥臭く、美しいが残酷な物語。息をのみ、心を掴まれ、感情を奪われてほしい。

文=古林恭

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