1. トップ
  2. 「絶対に調べないほうがいい…」都市ボーイズ・岸本誠、『おさるのベン』で想起したヤバい事件と愛情という“呪い”

「絶対に調べないほうがいい…」都市ボーイズ・岸本誠、『おさるのベン』で想起したヤバい事件と愛情という“呪い”

  • 2026.2.17

家族のように愛するペットが、ある日突然豹変してしまったら…?そんな日常と隣り合わせの恐怖を描いた『おさるのベン』が、いよいよ2月20日(金)より日本公開を迎える。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、ひと足先に本作を鑑賞した怪奇ユニット「都市ボーイズ」の岸本誠にインタビューを敢行。都市伝説から心霊まで、あらゆる恐怖に精通した岸本は、チンパンジー×狂犬病×密室が融合した本作をどのように観たのだろうか?

【写真を見る】鳥!サメ!犬!カエル!?ホラー映画の人気ジャンル、“アニマル・パニック”の代表作

「動物ってこんなふうになるの!?」未知の恐怖に岸本誠が慄く!

「海底47m」シリーズで“人喰いザメ”の恐怖を描いたヨハネス・ロバーツ監督が今回、恐怖のシンボルに選んだのは、人間に最も近い知能を持つとされるチンパンジー。舞台となるのはハワイの森の奥に佇む一軒の豪邸。友人を連れて帰省した大学生のルーシー(ジョニー・セコイア)は、幼いころから暮らしていたチンパンジーのベンと再会し、楽しい休暇を過ごすはずだったが、徐々にベンの様子がおかしくなり…。

なにがどうヤバイ!?都市ボーイズの岸本誠が思う『おさるのベン』の恐怖とは? 撮影/杉映貴子
なにがどうヤバイ!?都市ボーイズの岸本誠が思う『おさるのベン』の恐怖とは? 撮影/杉映貴子

アルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』(63)や、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(75)などに代表される“アニマル・パニック・ホラー”ジャンル。この2作のように映画史に残る名作と呼ばれるものもある反面、近年ではいわゆる“B級映画”の定番になりつつもある。岸本はまず、「ちょっと大げさに見せたり、大量発生させたりするのがこのジャンルの常套。ですが、いまは動物の生態が以前よりも知られるようになった分、観客は『あり得ないものだ』とわかってしまっています」と、このジャンルの課題点を分析する。

【写真を見る】鳥!サメ!犬!カエル!?ホラー映画の人気ジャンル、“アニマル・パニック”の代表作 [c]EVERETT/AFLO ※写真は左上から『鳥』(63)、『ジョーズ』(75)、『クジョー』(84)、『吸血の群れ』(72)
【写真を見る】鳥!サメ!犬!カエル!?ホラー映画の人気ジャンル、“アニマル・パニック”の代表作 [c]EVERETT/AFLO ※写真は左上から『鳥』(63)、『ジョーズ』(75)、『クジョー』(84)、『吸血の群れ』(72)

そのうえで、「『おさるのベン』の場合、賢いとか力が強いといった、広く知られているチンパンジーの生態に、特に日本ではあまりなじみのない“狂犬病”という病気を織り交ぜています。そうすることで、観客が求めているリアリティが担保されながらも、『動物ってこんなふうになるの!?』という未知の怖さが生まれ、同時に『もしかしたらこんなこともあり得るかもしれない』という不安を植え付けています」と、このジャンルに新たな可能性を見いだす作品であることをアピール。

また岸本は、リアリティのある恐怖を巧みに駆り立てている要素として、「惜しげもないジャンプスケア」と「約90分という短い上映時間」の2点を挙げる。「近年のホラー映画では、わかりやすく観客を驚かせるジャンプスケアをあまりやらないようにする傾向があると思います。でも本作はとことん振り切ってそれをやっていて、怖いところはきちんと怖いけれど、『やりすぎだろ!』と思うくらい。一周回って笑いそうになってしまいました」。

いつもはキュートなベンが… [c]EVERETT/AFLO
いつもはキュートなベンが… [c]EVERETT/AFLO
豹変して大暴走!どうやって止めるんだ… [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
豹変して大暴走!どうやって止めるんだ… [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

さらに「緊張感や恐怖はそんなに長く持続するものではないので、ホラー映画はできるだけ短いほうがいいと思っています。スパッとしたほうが印象として残りやすいし、なによりもインパクトが強い。90分のなかに次々と驚かせる要素を詰め込んでいるので、とにかくスピード感があって『もう終わったんだ…』と、エンドロールに入った瞬間にどっと疲れが出てきました」と振り返り、「じめじめしたホラー映画も好きですけど、たまにはこういうカラッとしたホラーも観たくなる。久しぶりに王道を貫くアニマル・パニック・ホラーに出会いました!」と笑みを浮かべた。

「“怖いものは怖い”は、絶対に忘れてはいけない」

上映中、何度も驚きっぱなしだったという岸本。なかでも特に「ゾクゾクした部分」として挙げるのは、物語が進むにつれてチンパンジーのベンがあらゆることを“学習”していく姿だ。劇中、ベンは人間の言葉をボタンひとつで発することができるタブレット端末を巧みに操作したり、救助を求めるためにスマートフォンを探す主人公たちの行動を先読みしたりと、持ち前の知能を最大限に活用しながら襲いかかる。

多くの映画にも登場してきたチンパンジー。基本的には“賢い”キャラクターが中心 [c]EVERETT/AFLO ※写真は左から『モンキー・ビジネス』(52)、『天才チンパンジー ジャック/アイスホッケーの友情』(00)
多くの映画にも登場してきたチンパンジー。基本的には“賢い”キャラクターが中心 [c]EVERETT/AFLO ※写真は左から『モンキー・ビジネス』(52)、『天才チンパンジー ジャック/アイスホッケーの友情』(00)

「『こんなことができるようになるんだ!』という喜びは、動物を飼ったことがある人なら誰もが体験したことがあると思います。でもそれが、邪悪な方向に行ってしまったら…。僕もネコを飼っていたことがあるのですが、賢くなればなるほど“次になにをやるのか”想像できなくなってくる。可愛らしいイタズラならいいけれど、『これは絶対やれないだろう』と思っていたことを平然と上回ってくる。その時に感じるゾワッと鳥肌が立つような感覚が、不意によみがえってきました」。

接触したらもう終わり… [c]EVERETT/AFLO
接触したらもう終わり… [c]EVERETT/AFLO

そう語る岸本は、本作を観ながら、ある1本のホラー映画を思い浮かべたのだとか。「作品としてはまったく似ていないのですが、観ている時の感覚は近いものがありました」と前置きして口にしたタイトルは、ロバーツ監督が絶大な影響を受けた“ホラーの帝王”スティーヴン・キングの中編小説を原作とした『ミスト』(07)。深い霧に覆われた街に現れた怪物と対峙する人々の姿を描いた作品で、後味の悪いラストがいまも語りぐさになっている1本だ。

「『ミスト』では霧のなかによくわからないものがいるとわかっているけれど、その正体がはっきりと見えてこない恐怖がありました。対して本作のベンは、その姿自体ははっきりと見えている。見えているけれど、この後どんな行動をするのかまるで見当もつかない。思いもしなかった習性があらわになったり、すぐに襲ってくるのかと思ったらあえて泳がせてみたり。“見えているのに見えていない”。そんなイヤな感じが近しいと思いました」。

人間を手玉に取るベン。もはや逃げ切るのが無理ゲー [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
人間を手玉に取るベン。もはや逃げ切るのが無理ゲー [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

まさに予測不能な行動を次々と繰りだしていくベン。さらに岸本は本作を通して、つい忘れてしまいがちな重要なことに気づかされたと語る。「動物は基本的に人間よりも力がある。ペットとしてポピュラーな犬であっても、本気で噛まれたら死ぬことだってある。たとえそれがどれだけ愛する家族であっても、動物には動物としての本能が残っているのだから、油断しすぎたら危ない。近ごろ話題になっているクマもそうですが、動物愛護の考えはたしかに大事だけれど、“怖いものは怖い”と恐れをもって向き合うことは絶対に忘れてはいけないと感じました」。

「愛着は“念”になって、やがて呪物となる」

「都市ボーイズ」としての活動のなかで、様々な恐怖と対峙してきた岸本。本作のベンのように、愛着のある存在が突然豹変してしまう現象は、決して珍しいものではないようだ。「可愛がっているものとか、誰かからすごく愛されてきたものこそ反転しやすい。その代表的なものは、やはり人形だと思います。あれは呪物の宝庫です」。

愛情を注いだものの恐ろしさを説明する岸本 撮影/杉映貴子
愛情を注いだものの恐ろしさを説明する岸本 撮影/杉映貴子

そう語りながら、アメリカに実在する「ロバート人形」の事例を挙げる。『ロバート 最も呪われた人形』(15)として映画化されたこともあるロバート人形は、「死霊館」シリーズで描かれた「アナベル人形」と双璧をなす“呪いの人形”。「元々はユージーンという少年が可愛がっていた人形でした。でもそれを持っていると怪奇現象が起きつづける。ある時、両親が危険を感じて棺のようなものに入れて屋根裏部屋に隠しても収まらない。今度は燃やして灰にするのですが、次の日の朝食の席ではユージーンの隣にその人形がいて…」。

「愛情というものは、過剰になればなるほど周りが見えなくなっていく。それに自分で気がついて、捨てに行ってもなぜか戻ってきてしまう。一説には、無意識に取りに戻っているともいわれています。そういう愛着が“念”となって、やがて呪物だとか呪いだとか言われるようになるのです。実際にそういったものを取材してみると、大半は当の本人が過剰に“そう思い込んでいる”だけ。客観的に見たら、実はさほど変なことが起きていなかったりするので、僕はなるべく入り込みすぎないように心掛けています」。

たっぷりの愛情ですくすく育ったベン [c]EVERETT/AFLO
たっぷりの愛情ですくすく育ったベン [c]EVERETT/AFLO

劇中に登場するベンは、言語学者だった主人公たち一家の亡き母が研究のために連れてきて、赤ん坊のころから家族として育てあげてきた存在。そのためルーシーや妹のエリン(ジア・ハンター)、父アダム(トロイ・コッツァー)はベンに深い愛情を注ぎ込んでいる。「だからこそ終盤、アダムが娘たちを守るために迷いなくベンに立ち向かっていく姿には驚かされました。人間は、意外とこういう時に切り替えが早い生き物なのかもしれません。その豹変ぶりも逆に恐ろしい。いざという時に別の大切な存在と天秤にかけて、自分の命を引き換えにしてでも行動する覚悟を持つ。動物を飼うならば特に必要なことなのかもしれません」。

「もし主人公たちと同じシチュエーションに直面したら?」と訊ねてみると、「そもそも自分よりも強い動物を飼うなんてもってのほかです(笑)」と岸本は即答する。「仮にああなった時は、たぶん一番関係性の薄い人を犠牲にしている隙に助けを求めると思います。でもチンパンジーとか、ゴリラとかライオンとか、とてもじゃないけど怖くて近づけないです。最近よく動物が人間を襲う動画がSNSなどでも流れてきますが、絶対に観ないほうがいいです。動物にまつわるヤバい事件も、絶対に調べないほうがいいです…」。

実際にもチンパンジーが人間を襲う事件は起こっている… [c]EVERETT/AFLO
実際にもチンパンジーが人間を襲う事件は起こっている… [c]EVERETT/AFLO

最後に岸本は、本作のように愛着のある存在が豹変していく題材はいずれ、動物からAIなどの身近なテクノロジーへとシフトしていくと推察する。「この先、こうやって動物の恐ろしさを見せてくれる映画は少なくなってくるかもしれません。でも対象が変わっても共通しているのは、『自分がよくわからないからといってナメてかかったら、絶対に痛い目に遭う』ということです」。

そして「幸いにも、本作は島のはずれにある外界から隔絶した場所に暮らす一家の物語なので、どこか他人事として観られる安心感があります。でもきっと、“動物って怖いんだ”とあらためて思い出すことになる。そういう意味で、これは“トラウマ映画”になりそうな影響力を持っている作品だと感じます。先入観なしでふらっと劇場に行って、ちょっとしたトラウマを体験してみるのもいいかもしれませんね」

『おさるのベン』は2月20日(金)より公開! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『おさるのベン』は2月20日(金)より公開! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

文/久保田 和馬

元記事で読む
の記事をもっとみる