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ADHDは概日リズム障害である:証拠と時間療法の影響

  • 2026.2.15
Credit:OpenAI

ADHD(注意欠如・多動症)は、一般的に「不注意」や「落ち着きのなさ」といった行動の特性として知られており、行動や注意力のコントロールに関する脳機能の問題だと思われがちです。

しかし新たに発表された論説(既存研究を整理し新しい枠組みや仮説を提示したもの)は、ADHDの本質は単なる行動の偏りではなく、脳内の「体内時計(概日リズム)」そのものの障害なのではないか? という興味深い指摘を行っています。

この論説を報告したのは、カナダの研究者であるブランドン・ルー博士(Brandon Luu, M.D.)とニコラス・ファビアーノ博士(Nicholas Fabiano, M.D.)らの研究チームです。

ルー博士らは、これまでの研究知見を整理し、ADHDを抱える人の多くに共通する睡眠の悩みが、単なる生活習慣だけでは説明しにくく、生物学的な「時計のズレ」と関係している可能性に注目しました。

彼らは、一部の人にとって体内時計のズレこそが、ADHDの症状を引き起こす根本的な仕組み(病態生理)に深く関わっていると考えています。

本記事では、この報告に沿ってADHDを「体内時計の障害」として定義し直すことで見えてくる新しい治療の可能性について解説します。

この論文の詳細は、2025年12月付けで科学雑誌『Frontiers in Psychiatry』に掲載されています。

目次

  • 体内時計の「時差」をリセットする新しいアプローチ
  • 脳内の「時計」が遅れるメカニズム

体内時計の「時差」をリセットする新しいアプローチ

ADHDを抱える人々の中では、夜になっても目が冴えてしまい、朝の起床にひどく苦労するという経験がよく語られます。

実際に調査データを分析すると、ADHDを持つ人の約78%近い高い割合に人々が、睡眠と起床の時刻が全体的に遅れる傾向がある「睡眠・覚醒相後退(Delayed Sleep–Wake Phase)」を抱えていることがわかりました。

研究チームは、この「体内時計のズレ」を修正することで、ADHD特有の症状そのものも和らぐ可能性があると考えています。

そこで注目されているのが、光やサプリメントを使って時計の針を調整する「時間療法(Chronotherapy:クロノセラピー)」です。

例えば、眠りを誘うホルモンであるメラトニン(Melatonin)のサプリメントを適切なタイミングで摂取した研究では、大人のADHD症状が14%改善したという結果が出ています。

またメラトニンを適切な時間に摂取して睡眠のリズムを整えた子供の長期追跡では、71%の親が子供の行動に改善が見られたと回答していました。

ただし、成人の試験では短期間でも症状の改善が報告されていますが、子供にメラトニンを投与した4週間の短期試験では、睡眠の開始時刻や睡眠時間は改善したものの、行動や認知機能の改善ははっきり確認されませんでした。

さらに、朝に強い光を浴びる「高照度光療法(Bright Light Therapy)」によって、体内時計の指標が約31分進んだという報告もあります。

これらの方法は、従来の薬物療法を置き換えるものではなく、生活リズムを整えることで治療できる「補助的な選択肢」として期待されています。

これらの報告を見ると、ADHDの症状の一部が、概日リズムの乱れと関係している可能性は十分に考えられます。

では、体内時計が遅れているとは、具体的にどういう状態なのでしょうか。

もし私たちの体が、社会の時間よりも90分ほど遅れたリズムで動いているとしたら、毎日の生活にはどのような負担がかかるでしょうか。

脳内の「時計」が遅れるメカニズム

体内時計の遅れは、体内で分泌されるホルモンのタイミングに表れます。

その代表的な指標が、暗い環境でメラトニンの分泌が始まる時刻を示す「低照度メラトニン分泌開始時刻(DLMO:Dim-light melatonin onset)」です。

ADHDの大人は、健康な人に比べて、このメラトニンが分泌され始める時間が平均して約90分(子供では約45分)も遅いことが判明しています。

また、朝に体を活動モードへ切り替えるための「コルチゾール(Cortisol)」というホルモンのリズムも、ADHDの人では低下したり、分泌のタイミングが遅れたりする傾向が見られます。

つまり、脳が「今は寝る時間だ」「今は活動する時間だ」と判断するタイミングが、社会生活のリズムと物理的にズレてしまっているのです。

また睡眠の乱れと精神的な症状は、互いに影響し合う可能性があるとも指摘されています。

つまり睡眠が乱れることでADHDの症状が悪化し、そのストレスがさらに睡眠を妨げるという悪循環が起きやすいのです。

ただし、今回の論文は Perspective(視点・提言型論文)に分類されるもので、仮説に対する検証などを行っている研究ではありません。

論文タイトルは「ADHDは概日リズム障害である(ADHD as a circadian rhythm disorder)」となっていますが、この議論は、「ADHDはすべて体内時計の病気」という意味ではありません。

ブランドン・ルー博士自身も、この時間療法がすべての人に効く「万能の治療法」ではないと述べていますが、副作用のリスクが低く、既存の治療とも組み合わせやすい方法であるため考慮する価値があるという論調です。(海外のメディアではルー博士が自身もADHDであるということを語っている)

将来的に、ADHDと睡眠のリズムの関連がより明確になり治療に適切に組み込めるようになれば、一人ひとりの体質に合わせたより簡単で効果的な治療が可能になるかもしれません。

いずれにせよ、概日リズムを整えることはADHD以外の体と心の健康にも重要であることが示されているので、ADHDの特性に悩む人は体内時計を整えることの恩恵がさらに増える可能性があると考えておくと良いでしょう。

元論文

ADHD as a circadian rhythm disorder: evidence and implications for chronotherapy
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2025.1697900

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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