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朝ドラの最終週直前に差し込まれた“ひび割れ”の正体「なるほどな」「使い方がすごい」“ひとつの喪失”がもたらした転機

  • 2026.3.20
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『ばけばけ』第24週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』終盤、東京で穏やかな暮らしを築いたヘブン(トミー・バストウ)たちの姿は、どこか完成された幸福のように見えた。しかし第24週「カイダン、カク、シマス。」は、その日常にひそやかに差し込まれた“ひび割れ”を描き出す。きっかけとなったのは、ヘブンが無くした一体のブードゥー人形だった。見えない不安、言えない弱さ、そして人に救われる瞬間。男性同士の連帯と、作家としての再起が交差する本週は、やがて“怪談”へとつながる重要な転換点となっている。

※以下本文には放送内容が含まれます。

消えたブードゥー人形?“桃源郷”に差し込んだ不安の影

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『ばけばけ』第24週(C)NHK

『ばけばけ』第24週「カイダン、カク、シマス。」は、静かな幸福に潜む不穏さと、そこからの再生を丁寧に描き出すような週だった。

ヘブンとトキ(髙石あかり)は東京に拠点を移し、家族に囲まれながら穏やかに暮らしている。ともに食事をし、それぞれのスキップの形に笑い合い、夜には家族みんなで夕焼けを眺める生活。その光景は、司之介(岡部たかし)が繰り返し言うように“桃源郷”に似ている。

しかし、その完成された幸福のなかに差し込まれた、ひとつの違和感。それは、ヘブンが無くしたブードゥー人形だった。

トキが「不吉」と口にするように、この出来事はどこか象徴として残る。ヘブンにとってその人形は、異国で生きる不安を和らげる“見えない支え”だったはずだ。それを失ったという事実は、彼の内面に潜んでいた不安が、いよいよ露わになり始めたことを示している。

その不安の正体はすぐに明かされる。実はヘブンは、すでに帝大を解雇されていたのだ。時代の変化に取り残され、自分にはもう価値がないと突きつけられた彼は、自らを“終わった人間”と認識し始めている。ヘブンはその事実を、家族に打ち明けることができない。

言えなかった弱さを拾い上げる

そんなヘブンの不安や変化を見抜いたのは、なんと司之介だった。帝大に行くふりをして、ミルクホールで時間を潰していたヘブンを追いかけた司之介。必要以上にヘブンを責めることも、励ますこともしない司之介は、かつての自分とヘブンの姿を重ねていたのだ。

終わった武士の時代。結った髷も独特の格好も時代遅れとされ、存在そのものが否定され続けた。ヘブンが自覚していたように、まさに司之介も自身のことを“終わった人間”と思い込んでいたのだ。

ここで描かれるのは、家族とは異なる“男性同士のケア”の形。役割や期待から解放された場所で、ただその弱さを許し合う関係。彼らが共有した秘密は、家族の幸福を守るための連帯でもあった。

“見えない支え”であったブードゥー人形を失ったヘブンが、代わりに手にしたのは、こうした人と人との関係だった。祈りや呪いではなく、理解と沈黙によって支えられる。その構図が、この週の静かな核心となっている。

人形に込められた願い

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『ばけばけ』第24週(C)NHK

そして迎える転機が、ヘブン宛に届いた手紙のシーンだ。ようやく届いた、待ちに待った大量の手紙。しかしそれらはすべて、仕事の依頼などないと告げる、無情な断りの知らせだった。最後の希望だったイライザからの手紙にも、講演や講義の仕事はないと書かれていた。

完全な拒絶。社会との接点が断ち切られた瞬間、ヘブンは自著をなぎ倒し、怒りと絶望を爆発させる。ここで重要なのは、この崩壊が“ブードゥー人形を失った後”に起きているという点だ。外側に頼っていた“見えない守り”が消えたとき、彼は初めて、むき出しの自分と向き合うことになる。

そのとき、彼を支えたのがトキだった。トキは手作りのブードゥー人形を握らせ、そっと励ます。思わず、すでに帝大をクビになっている事実を打ち明けたヘブンに対しても、仕事がなくなったことを悲観するのではなく、ゆっくり本を書く時間ができたと捉えてみせた。

それは社会的評価ではなく、“書く存在”としてのヘブンを肯定する言葉だった。

さらにそこへ、子どもたちが言っていた“自分たちにもわかる本がいい”という言葉が重なる。難解な文学ではなく、広い読者に届く物語へ。ここに、ヘブンが“怪談”という題材へ向かう必然が生まれている。

ブードゥー人形は、この週を通して意味を変えていく。不安の象徴として失われ、支えとしてふたたび与えられ、そして最後には“見えないものを語る力”へと転化していく。SNS上でも「なるほどな」「夢が叶うといいな」「使い方がすごい」と人形に対する言及がみられた。

第24週は、ひとりの男が“終わった人間”から再起するまでの、静かで確かな転換点だった。見えないものに怯えていた男が、見えないものを語る作家へと変わる。その始まりが、ここには描かれている。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_