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朝ドラで“たった数話だけ”の登場で残した印象「空気変わった」「不気味だけど」“普通ではない存在”を見事に演じ切った女優

  • 2026.3.23
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『ばけばけ』第21週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』に登場した謎めいた女性・吉野イセ(芋生悠)は、熊本編でも数話しか登場しなかったキャラクターだが、その存在感は圧倒的だった。SNS上でも、彼女が登場した瞬間に「空気変わった」「不気味だけど素敵」と話題を呼んでいたのが記憶に新しい。おどろおどろしく言い伝えについて語り、どこか不気味な空気を纏いながらも、人間味のあった存在。イセはなぜここまで、強い印象を残したのか。

※以下本文には放送内容が含まれます。

ゾクッとした初登場

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『ばけばけ』第21週(C)NHK

イセが初めて登場したのは、熊本の田舎道。トキ(髙石あかり)たちが人力車に乗っていると、どこか浮世離れした空気をまとった女性として突如現れる。

彼女は、車引きと一緒にお地蔵さまに祈ると、その願いはかなわない、嘘つきは来世で蛇になる、などなど次々に不吉な言い伝えについて口にし始める。その言葉の一つひとつが、なんとも恐怖を煽るのだ。日常の風景に、ポツンポツン、と一滴ずつ墨を落としていくような、不穏な影。

さらに印象的なのは、周囲の反応である。彼女を見て顔色を変え、呪われる、と険しい顔で距離を取ろうとするなど、その土地でイセは明らかに“普通ではない存在”として扱われていた。

しかしその一方で、トキは彼女の語る言い伝えに目を輝かせ、おもしろがる。この時期、トキは夫のヘブン(トミー・バストウ)のため、新しい本のネタになりそうなヒントを探し回っていた。イセの存在、そして彼女が語る不穏な言い伝えこそが創造の源になるんじゃないか、と目論んだトキの興奮する様。それは、イセの暗い佇まいと不思議な対比を見せていた。

“呪われた女”の正体

しかし、イセは単なる怖い人ではないし、呪いを受けて不憫なだけの人でもない。

彼女自身、幼い頃に言い伝えを信じなかったことで家族に不幸が起きたと信じ、“自分は呪われている”と信じ込んで生きてきた。その過去が、彼女の言葉や振る舞いに独特の重みを加えている。

たとえば、襖の開け方にまつわる言い伝えを語る場面もそうだ。音を立てて開けると、その当人の寿命が縮まる、と語りながらも、その理由を問われると曖昧に濁さざるを得ない。ここには、言い伝えに付随する恐怖を語りながらも、その正体について自身も完全には掴めていないという、不確かな揺らぎがある。だからこそ彼女には、どこか人間味があるのだ。

明確な答えなんてないからこそ、豊かな物語が生まれるというもの。残念ながらヘブンの琴線には引っ掛からなかったようだが、イセの存在は十分に物語の起点になり得た。

怖いのに惹かれる理由

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『ばけばけ』第21週(C)NHK

そしてもう一つ、イセの魅力として見逃せないのが、その“引力”である。怖いのに目が離せない。近づきたくないのに、もっと知りたくなる。この矛盾した感情を引き起こす力が、彼女にはある。

言葉の選び方なのか、間の取り方なのか、それとも独特な視線の揺れや表情の作り方なのか。そのすべてが、まるで観る側の想像力を刺激するようだ。

『ばけばけ』という作品は、異文化や言葉の違い、すれ違いを描く物語でもあった。そのなかでイセは、“説明できないもの”を象徴する存在とも言えるだろう。言い伝え、呪い、噂……それらはどれも曖昧で、しかし確かに人の心を動かす力を持っている。それは、良くも悪くも。その全てを芋生悠は見事に演じ切った。

イセはその曖昧さを体現するキャラクターだ。怖いだけでは終わらない。理解できないまま、どこか共感してしまう。そんな不思議な余韻を残すイセという人物は、『ばけばけ』の世界をより豊かにする重要な存在なのだ。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_