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NHK朝ドラで描かれた、夫の“2度の逮捕”を経ても挑み続けた夫婦 実力派女優の転機ともなった【平成最後の朝ドラ】

  • 2026.6.1

2018年度後期に放送されたNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『まんぷく』は、インスタントラーメンを生み出した日清食品(現・日清食品ホールディングス)の創業者・安藤百福とその妻・仁子の半生をモデルにした夫婦の物語である。

※以下本文には放送内容が含まれます。

昭和13年。大阪東洋ホテルに就職した今井福子(安藤サクラ)は、長姉・咲(内田有紀)の結婚式で、青年実業家で発明家の立花萬平(長谷川博己)と出会う。
数年後、萬平と再会した福子は意気投合し交際することに。 母の鈴(松坂慶子)の猛反対や、萬平が冤罪で憲兵隊に逮捕されるなど、様々な困難に見舞われながらも、昭和17年に二人は結婚する。
そして、戦争が終結した昭和20年。福子は萬平の事業を手伝うことで再スタートを切る。

本作では、様々なビジネスに挑む萬平を、福子が支える姿が描かれていく。
泉大津にある旧陸軍が使用していた倉庫の宿泊施設だった建物に引っ越したことをきっかけに、萬平は『たちばな塩業』を開業。倉庫に残されていた無数の鉄板を用いて、海水から塩を作ることを思いつく。

その後、栄養失調に苦しむ人々の姿を見た萬平は『たちばな栄養食品研究室』を設立。試行錯誤の末に栄養食品『ダネイホン』を完成させる。
しかし商品を病院に販売したところ、進駐軍に反乱の疑いをかけられ、従業員ともども逮捕され、塩作りができなくなる。その後『ダネイホン』の販売に事業を絞ると経営が軌道に乗るが、社員たちに渡していた奨学金が脱税とみなされ、萬平は逮捕されてしまう。
萬平は、戦時中は憲兵隊に逮捕され、戦後は進駐軍に逮捕される。 彼の発明とビジネスは着想の斬新さで成功するが、時の権力といつも衝突してしまう。
そのため、新しい事業に乗り出しても萬平はなかなか成功しない。それでも萬平は新しいことをするのが大好きで、物語終盤になるとインスタントラーメンの開発に挑戦することになる。

実力派女優・安藤サクラの転機となった朝ドラ

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安藤サクラ (C)SANKEI

本作で主演を務めた安藤サクラは、『百円の恋』や『万引き家族』といった映画に出演し演技力が高く評価されていた。一方、テレビドラマは、大きな役での出演が少なかったため、映画を中心に活躍する実力派女優という印象だった。 だからこそ『まんぷく』で朝ドラヒロインに抜擢された時は驚いた。

朝ドラはまれに、主演作がほとんどなかった女優を主演に大抜擢することがある。
『あさが来た』の波瑠や『とと姉ちゃん』の高畑充希も、バイプレイヤーとして印象に残る演技をする女優だったが、朝ドラヒロインに抜擢されて以降は、主演作が増えていった。
主演の演技とバイプレイヤーの演技は求められるものが異なる。
特に朝ドラのような大きな作品の場合は、中心で輝く太陽のようなキラキラとした存在感が主演には求められる。 これまでの安藤サクラは、闇を抱えた女性を演じる機会が多く、暗い影が凄みとなってにじみ出る迫力のある芝居を得意としていた。
一方、『まんぷく』の福子に求められた芝居は、夫の萬平を支える包容力と明るさだったが、そんな福子を安藤は見事に演じ切っていた。
本作以降、連続ドラマ『ブラッシュアップライフ』の主人公のような明るくて軽やかな女性を演じる機会も増えている。
福子を演じたことで、安藤の演技力はより幅が広がったと言えよう。

戦後日本の豊かさを描いたビジネス朝ドラ

脚本の福田靖は、木村拓哉が演じる型破りの検察官が主人公の連続ドラマ『HERO』や、大河ドラマ『龍馬伝』などの脚本を手掛けたヒットメーカーだ。
今回の『まんぷく』では、福子が母として家族を守りながら、萬平のビジネスパートナーとして事業を手助けする姿が描かれる。
そして、自分のやりたい発明に対して強い情熱を燃やして突き進む萬平の姿が描かれている。
塩作りを筆頭に、萬平が考えたアイデアを福子や社員たちが実行に移す姿はとても生き生きとしていて魅力的だ。
その集大成として終盤のインスタントラーメンの開発があるのだが、そうやって生み出した商品をどうやって売り出していくのかという販売戦略の試行錯誤も描かれるため、ビジネスドラマとして、とても見応えがある。

『まんぷく』は平成最後の朝ドラだが、本作が放送されていた平成末は、『半沢直樹』や『下町ロケット』といった池井戸潤の小説を原作とする連続ドラマが大ヒットしていた時代だった。
大企業、町工場、銀行といった職場を舞台に、現代人にとっての仕事の在り方を描いてきた池井戸潤の世界は、中年男性を中心とした働く大人たちから絶大な支持を受け、平成日本の労働者たちを励ます応援歌として機能していた。
『まんぷく』は舞台こそ戦前戦後の昭和という、平成よりも前の時代の出来事を描いていたが、ビジネスに焦点を当てたお仕事ドラマという意味では、池井戸潤の世界と通じるものがあった。

最終話では、カップラーメン『まんぷくヌードル』を大々的に売り出すため、萬平たちは大勢の若者たちが集まる原宿の歩行者天国で大試食会を展開し、見事成功させる。
各登場人物が勢ぞろいして大試食会の行方を見守る姿は朝ドラのクライマックスとしてとても見応えがあるが、何より、歩行者天国でカップラーメンを食べる若者たちの姿を見ていると、これこそが、戦後日本が達成した豊かさだと実感させられる。
この光景は、平成にも続いていく平和な日本の原風景にも見える。
「この平和な世界がいつまでも続いてほしい」という作り手の願いが伝わってくる最終回だった。


出典:NHK 連続テレビ小説『まんぷく』NHKアーカイブス

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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