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【NHK朝ドラ】視聴者をざわつかせる“無視できない”存在「気になる」「展開読めない」考察を加速させる“病院”で現れた男

  • 2026.6.1
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『風、薫る』第7週(C)NHK

連続テレビ小説『風、薫る』の病院実習編で、りん(見上愛)や直美(上坂樹里)ら看護婦見習いたちの心が擦り切れそうになるたび、ふっと呼吸を取り戻させてくれる人がいる。帝都医大病院の用務員・柴田万作(飯尾和樹)だ。中庭で這いつくばって草をむしる姿で現れ、泣くりんに木の腰掛けをすすめる。その優しさは癒やしだが、SNS上で「実は偉い人?」「展開読めない」「正体が気になる」とざわついているのも無視できない。果たして万作は“味方”なのか。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“寄り道”を作ってくれる存在

第32回。帝都医大病院での実習が始まり、りんや直美たちが現場の厳しさに晒されるタイミングで、用務員の柴田万作は中庭にいる。這いつくばって草をむしっている。地味な登場である。劇的に助けに来るわけでもなく、ただ、そこにいる。その存在だけで、病院の硬い空気に生活の匂いが混ざる。

看護の仕事に挫けそうなりんが涙をこぼしたとき、万作が差し出すのは正論ではない。泣くな、とも、頑張れ、とも言わない。泣いていい、とすら言わない。泣く場所を、そっと用意する。

人は苦しいとき、励ましより先に“一旦、素に戻れる場所”が必要になる。万作は病院のなかで、その“寄り道”を作ってくれる存在だ。

病院実習編は、理不尽の連続だ。医師の権威、看病婦との軋轢、患者の痛み、身分の壁。だからこそ、万作の存在が効く。彼は何かを解決しない。けれど、看護婦見習いたちが折れないために必要な“間”をくれる。

朝ドラの時間は短いのに、万作が一瞬入るだけで画面の緊張が少し緩む。その緩みが、次のしんどさを受け止めるクッションになる。

「実は偉い人?」と考察される理由

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『風、薫る』第7週(C)NHK

万作がおもしろいのは、癒やし役として完璧に機能しながら、同時に“何者なのか分からない匂い”を残しているところだ。

用務員という立場は、表向きは病院の下層に見える。しかし実際は、病院という巨大な箱の“裏側”をいちばん知っているポジションでもある。人の出入り、噂、空気の変化、夜の病棟の音。医師よりも、患者よりも、長くそこにいる者が見てきた景色がある。

万作は、それを語らない。助言も、断定も、手がかりも置いていかない。なのに、こちらは「何か知っているのでは?」と思ってしまう。視聴者の「実は偉い人?」という考察は、突飛なネタではなく、万作の沈黙が生む自然な反応だ。

しかも万作の立ち振る舞いには、“観察者”の気配がある。誰かの感情に踏み込みすぎず、距離を保ちながら、必要なときだけ一言を置く。あれは介入ではなく、観測に近い。病院実習編でヒロインたちが学ぶ「観察(Observe)」というテーマとも、どこかで呼応しているように見えるのが巧い。万作は看護を教える人ではないのに、彼の佇まいが“見ること”の姿勢になっている。

コメディアンゆえの間と影

飯尾和樹という俳優の強みは、いわゆる“芝居をしている感じ”を出しにくいところにある。

バラエティで見せる“気のいいおじさん”の空気を、いい意味で残したまま、ドラマの世界に入ってくる。だから万作が病院にいても不自然じゃない。明治の病院という張り詰めた場所に、生活感と温もりが立ち上がる。視聴者の目線が、病院という制度の冷たさだけに固定されず、“ここにも人がいる”という方向へ戻される。

また飯尾の芝居は、引き算が上手い。セリフを張らず、声を大きくしない。間を焦らない。ボソッとした一言が、逆に相手の心に届く。万作の言葉は、救いの言葉というより“余白の言葉”だ。言い切らないからこそ、受け取る側が自分で意味を選べる。りんの頑なな心が、ふっと緩む瞬間が自然に生まれる。

飯尾はこれまでも、癒やしのポジションから物語を支える役が似合う一方で、シリアスな影を背負う役もできる振れ幅を見せてきた。だからこそ、万作にも“ただ優しいだけじゃない”影が見える。優しさの裏に、何かを見てきた人の哀愁がある。そこが、視聴者に考察を促す。

そして、同じ時期にTBS金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』で“鍵を握る人物”であるノンフィクション作家の津田雄二を演じているイメージも相まって、こちらの読みを揺らしてくるのがおもしろい。つまり万作は、朝ドラのなかで安心できるポジションを保ちながら、“もしかして”という余韻を残す人でもある。その二重性が、飯尾の持つ空気感で成立している。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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