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88歳・養老孟司先生の抗がん剤体験から考える、病院との“おもしろい”付き合い方「おもしろさが感じられなかったら、さすがに…」

  • 2026.2.5

88歳・養老孟司先生の抗がん剤体験から考える、病院との“おもしろい”付き合い方「おもしろさが感じられなかったら、さすがに…」

2020年に心筋梗塞、2024年にはがん、そして2025年4月には再発がんが見つかった養老孟司先生。88歳を迎えたいま、治療を受けながら淡々と日々を重ねる姿を、教え子であり医師の中川恵一先生と共に綴った1冊が、いま注目を集めています。『病気と折り合う芸がいる』(養老孟司・中川恵一共著/エクスナレッジ刊)から、第1回は、養老先生のインタビューを一部抜粋してお届けします。

病院は仕事をするところではない

今回も抗がん剤の点滴をするため、毎回1週間ほど入院しました。前と違って痛みがないので、最初の入院(4月)ではパソコンで原稿を30枚ほど書いて編集者に送りました。

しかし、病院は本来仕事をするところではないので、仕事をしているほうがおかしなことです。編集者が締め切りを遅らせてくれればよいのですけど。

入院中はスマートウォッチをずっとつけていました。病院の備品ではなく、僕の私物ですが、これをつけているとスマホなしで電話に出ることができます。

僕がスマホにかかってきた電話になかなか出ないものだから、これをつけることになりました。これならイヤでも電話を取らないといけません。

スマートウォッチには、不整脈を見つける機能があります。僕は若いとき、心室性の不整脈がありました。脈が欠損する結滞(けったい)というやつです。今もときどき脈が一瞬止まることがありますが、スマートウォッチをしていると、それがわかってしまうのです。気にしないのが一番いいんですけどね。

毎回のことですが、病院は消灯時間が早いので、いつもより早く寝なければなりません。夜9時に消灯だから、その時間に寝ようとします。すると、午前1時か2時には目が覚めてしまうのです。

ずっとベッドの上にいるから、夜8時くらいに眠くなって、そのまま寝てしまうこともあります。するとやっぱり深夜の1時くらいには目が覚めます。

夜中に起きてもやることがないので、また寝ようとします。まるで寝る練習をしているようなものです。

横になってばかりいるから、運動が足りなくて困っています。リハビリはしていますが、散歩ができないので運動不足にはどうしてもなります。入院中も気軽に外出できるとよいのですけどね。

病院に行く理由の1つは、おもしろい経験ができるから

前回の抗がん剤では、白血球の減少という副作用はあったものの、体感できる副作用はありませんでした。

今回は点滴する薬が違っているので、前回と同じようにはならないだろうと思っていました。

医師や看護師も毎回「気分が悪くないですか?」と聞きますが、そもそも点滴に吐き気止めの薬が入っているのですから、特に何も感じません。

それで、医師に「吐き気止めの薬をちょっとやめてもらえませんか」とお願いしたことがあります。

抗がん剤で吐き気がするというのはどういう気分なのか、知りたかったからです。
点滴から吐き気止めの薬を抜いてもらったら、やっぱり少し気分が悪くなりました。

今、病院に行く理由の1つは、おもしろい経験ができるからです。吐き気止めを抜いた抗がん剤を点滴したら、どんな気分になるのかを経験するのも、おもしろいことだと思いませんか。

4月から7月まで、毎回1週間入院して4回抗がん剤をやりましたが、8月からは薬が1種類になり、外来で点滴できるようになりました。

小細胞肺がんにも効く免疫チェックポイント阻害薬(商品名テセントリク)という新薬ですが、入院しなくてもよいのです。外来での点滴は今までなかったことなので、これもおもしろい経験でした。

東大病院では肺がんの治療だけでなく、眼の治療も受けています。僕は黄斑浮腫(おうはんふしゅ)という網膜(もうまく)にむくみができる病気があります。

それで月1回、網膜のむくみを取る注射を眼球内に打っています(抗VEGF治療)。白目から眼球内に注射すると、ときどき空気が入ります。視界にプクプクと泡が見えて、これもおもしろいんです。泡は一晩たてば消えますけど。

やっぱり体のことには興味があるので、そんなこともおもしろく感じます。おもしろさがまったく感じられなかったら、さすがに病院に行きたいとは思わないのではないでしょうか。

Profile

養老孟司(ようろう・たけし)
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。'89(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。新潮新書『バカの壁』が大ヒット、460万部超えのベストセラーとなる。また新語・流行語大賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞した。『養老先生、病院へ行く』『唯脳論』『かけがえのないもの』『手入れという思想』『人生の壁』『まる ありがとう』『ものがわかるということ』など著書多数。

この記事は『病気と折り合う芸がいる』養老孟司・中川恵一共著(エクスナレッジ刊)の内容を、ウェブ記事用に再編集したものです。

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