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ファーストクラスで「和食が一食足りない」事態…その時ANA伝説のCAが最も若い男性客に語りかけたこと

  • 2026.2.5

ANAの客室乗務員として初めて、65歳定年まで勤め上げた大宅邦子さん。国際線路線の立ち上げにも携わり、主に国際線のファーストクラスで長く乗務してきた大宅さんは「おもてなしの真髄とは、行き違いを恐れず、『根っこ』のサービスに気を配ることだ」という――。

※本稿は、大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

飛行機で食事を提供する客室乗務員
※写真はイメージです
「どうしてもお肉が足りない」

お食事のサービスはCAの永遠の課題です。腕の見せどころでもありますし、お断りをしなければならないこともあり、クレームが生じやすいのも事実です。

代表的なのが和食か洋食かといったご希望で、全員の意にそえず、一部のお客様にご協力いただかなくてはならない場面もあります。

人気があるメニューはどれか、どちらかに偏らないか、毎回データとして記録して調整していますが、「どうしてもお肉が足りない」ということもあります。

「多めに搭載すればいい」と思われるかもしれませんが、そのコストは航空運賃に上乗せされ、結局はお客様に跳ね返る。そう考えれば、気持ちよく納得したうえでご協力いただけるよう、コミュニケーションをとるのが一番だと私は考えていました。

いつかのファーストクラスでのこと。たまたま全員が和食のご希望で、1食足りなくなってしまったことがありました。私がお願いしたのは、一番若い男性のお客様でした。

「大変申し訳ございませんが、ご年配の方に譲っていただけないでしょうか?」

「年配の方」でなく「女性の方に」という場合もありますが、たいてい今の言葉ですんなりご理解いただけます。

洋食で我慢していただくぶん、「ご注文のステーキに、ご飯とお味噌汁をご一緒にお持ちしましょうか」と提案したところ、それはうれしいと喜んでいただけました。お話をうかがうと、出張でアフリカに3週間もいらしたとのことでした。

カート数の差がクレームを生んだ

いつも丸く収まるわけではなく、クレームをいただくこともあります。

20年も前のゴールデンウィークのことでした。満席のロンドン便で、やはり食事のサービスが遅いというクレームをいただきました。

エコノミーに2つある通路からお食事のサービスをしていたのですが、右側は2台のカート、左側は1台のカートだったために、どちら側から食事が届くかで、同じ横並びの列でも時間差が出てしまいました。左右両通路とも2台でサービスするにはCAの数が足りず、かといって、カートは2人で引く決まりでした。

クレームの主は真ん中の席に座っていたご夫婦。配膳の時間差が大きくて、一緒に食事ができなかったというのです。特にご主人がご立腹で、最終的にチーフパーサーの私がお話をうかがいました。

原因は左右の通路のカートの数の差ですが、それはこちらの都合であり口にすることはできません。また、「時間差が出ないように、カートの数を増やします」などと、できない約束をするのも不誠実です。

クレームは相手に信用された証

問題はお連れ様同士が一緒に食事できなかったことで、CAが気がついて2人分を同じ側から渡せば、何事もなく召し上がっていただけたでしょう。

そこでまず、「気遣いが足りずにご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」とお詫びし、「今後こういったことのないよう、ご指摘を反省会で取り上げて検討します」とお約束しました。「改善のためのよいご意見をいただき、ありがとうございます」とお礼も申し上げました。

クレームはただ謝ればいいというものではありませんし、ご要望をすべて受け入れられるわけではありません。できることと、できないこと。お詫びすべきこと、ご理解いただくこと。一つひとつを交通整理したうえで、納得していただくしかありません。

クレームはまた、チャンスでもあります。本当に腹を立てたり、がっかりしたお客様は、「言っても無駄だ」と、黙って去っていくものです。もしも意見を言うとしたら、ネットの書き込みだったりします。

直接クレームを言ってくださるとは、「この人なら話は通じるはずだ」と信用してくださった印です。ちゃんとお詫びをし、交通整理をしながら話し合えば、またご搭乗くださいます。つまり、関係を深めるチャンスになるのです。現に食事サービスのタイミングがずれたお客様は、最終的には納得し、マイレージ会員の申し込みまでしてくださいました。

マニュアルを超えた「ANAマジック」

「クレームは嫌なものかもしれませんが、恐れることはありません」

私が後輩にこう伝えてきたのは、それがチャンスだと経験しているからです。

仕事先、家族、友人知人。日々にちょっとした行き違いはつきものです。

ごまかしたり、口先だけで謝ったり、逃げたりしない。そうすれば、相手としっかりかかわるきっかけにできるように感じます。

幼稚園くらいの小さなお客様には、退屈しのぎのおもちゃを。

若い男性のグループには、みんなで気分転換ができるトランプを。

こうしたプラスアルファのサービスは、もともと自発的にCAがやっていたものです。会社はその姿勢を評価し、マニュアルを超えたお客様へのサービスを「ANAマジック」と名づけて応援しています。

窓の外を見ながら飛行機で旅行中におもちゃの飛行機で遊んでいる少年
※写真はイメージです

今では新婚旅行や記念日、誕生日のサービスができるよう、お皿にメッセージが書けるチョコレート・チューブを常備しています。ケーキとフルーツに、「HappyBirthday」のメッセージを添えた一皿は、おかげさまでご好評をいただいているようです。CA側にとってもうれしいことで、続けてほしいと思いますが、忘れてほしくないのは、それはサービスの中の「花」だということ。

私は後輩CAたちに、機会があるとこう伝えていました。

「バースデープレートはすてきです。でも、それだけに走らないようにしてくださいね」

「花」ばかりが目に留まりやすい

お祝いプレートを出せば、お客様の喜びの声がダイレクトに返ってきて、サービスする側も励みになります。とはいえ、プレートを作るのは時間がかかります。

そして、フライト中のCAはなかなかの激務です。

長距離線の場合、お食事をお出しして暗くなったタイミングはCAが食事をいただいたり交代で休憩したりできる時間ですが、お客様の人数が多いとその間もさまざまなリクエストがあります。食事は立ったままで飲み込むようにいただくことも日常茶飯事ですし、お茶一杯飲めないときもあります。

まめに掃除をしないとトイレは汚れます。赤ちゃん連れやお年寄りがいたらお手伝いをすることもあるでしょう。

そんななか、バースデープレートを作るというサービスの「花」の部分に集中できるのは、他のCAがお客様にお水のサービスをし、汚れたトイレをきれいにしてくれているからです。サービスのうち、そういった地味な「根っこ」の部分があるから、「花」のようなサービスができる。すべてはチームの協力で成り立っていることを、忘れてほしくはないと考えていました。

「花」のサービスばかりやりたがっていたら、それはいつの日か、いいとこ取りをする根っこのないサービスになります。

また、お客様は記念日のお客様だけではありません。ファースト、ビジネス、エコノミーと3クラスある以上、サービスの種類は3種類となりますが、同じクラスの中では平等が大切です。

大宅邦子さん
3万時間以上飛び続けた元レジェンドCA、大宅邦子さん
地味な「根っこ」に思いをはせる人に

私はチーフパーサーという立場で働いてきたので、目立たない努力をしているCAたちを見逃さないように心がけていました。

大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』(サンマーク出版)
大宅邦子『新版 選んだ道が、一番いい道』(サンマーク出版)

あるとき、スリッパでトイレに行こうとしたお客様が、トイレのドアを開けてから引き返し、靴にはき替えていました。それを見ていた若いCAは、「あっ、申し訳ありません!」と、すぐにトイレに入りました。

彼女が察知したとおり、トイレの床はびしょびしょ。スリッパが濡れてしまうから、お客様は靴にはき替えようとしていたのです。

お詫びして、素早く濡れた床を掃除したそのCAはお客様におほめいただき、スターアワードでも表彰されました。スターアワードというのは、客室部門のメンバーが仲間を見ていて「これは感動した、見習いたい」と思った人に贈るもので、受賞者の名札には、小さな星がついています。これはANAのほめ合う文化だと思います。

もしもそうした制度がなくても、陰日向なく働く「根っこ」のサービスができる人は、きっと枝を伸ばして花を咲かせます。

信頼を得ていく人は、地道にがんばっている人。年齢を重ねてもそうありたいですし、目立たなくても誠実な若い人を、きちんと見つけ、認める目ももちたいと願っています。

大宅 邦子(おおや・くにこ)
1953年生まれ。ANA初の「65歳定年まで飛び続けた客室乗務員」。1974年に入社後、国際線立ち上げのプロジェクトチームに参加。ANAの成長とともに、おもに国際線ファーストクラスで空の上のおもてなしを提供。滞空時間は3万時間超。ていねいに、手を抜かず、「いつでも指差し確認」の初心を忘れない姿勢で45年間のCA生活を続けてきた。食事や体調管理などの身の回りの整え方、「ほしいものより必要なものを買う」というものとのつきあい方、幼児から年長者まで同じように接する人とのつきあい方など、仕事を超えた清潔な生き方そのものが、ANAの伝説として8000人の後輩CAに慕われている。趣味は美術館めぐり、ジムでのエクササイズ、スキューバダイビング、アイロンがけ。ドローンの国家資格も取り、今度は「操縦」側の空も楽しんでいる。

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