1. トップ
  2. 白石加代子、舞台に立つことは“職業”「舞台の上でこそ息ができる感覚になってきている」

白石加代子、舞台に立つことは“職業”「舞台の上でこそ息ができる感覚になってきている」

  • 2026.1.31
白石加代子 クランクイン! 写真:高野広美 width=
白石加代子 クランクイン! 写真:高野広美

泉鏡花が明治32年に発表した長編小説『黒百合』が、初めて舞台化される。富山・立山連峰に伝わる黒百合伝説を背景に、人々の欲望が交錯する群像劇。脚本を『ちりとてちん』『カムカムエヴリバディ』などを手掛けた藤本有紀、演出を杉原邦生が手がける注目作で、唯一無二の存在感を放つ白石加代子が「荒物屋の婆さん」を演じる。

【写真】白石加代子、はにかんだような笑顔がかわいい! インタビュー撮りおろしショット

◆泉鏡花作品は不気味で恐ろしいだけじゃなく、最終的には美しい

『黒百合』への出演は、即断即決だった。

「原作が泉鏡花であるということと、杉原邦生さんが演出なさるということで、お話をいただいてすぐにぜひ参加したいってお願いしたんです」。

2022年の蜷川幸雄追悼公演『パンドラの鐘』で杉原と初めて仕事をし、その手腕に惹かれて出演を快諾したものの、本作の脚本を読んで驚いた。

「これが果たして、舞台上にどのように立ち上がるのだろうかと想像ができませんでした。でも、特にト書きがすごく美しくて、それでいて恐ろしくて。こんな脚本があるんだって」。

明治後期の越中・立山を舞台に、幻の花“黒百合”をめぐって人々の運命が絡み合う物語。『百物語』シリーズで泉鏡花の作品は取り上げてきたが、『黒百合』は読んだことがなかったと話す。

「泉鏡花の作品は、『高野聖』とか、ありえないような世界を描いていらっしゃることと、異形のものがわんさか出てくるのよね。それがね、不気味で恐ろしいだけじゃないの。そういうものを提示しながら、ひっくり返してくださるというか。言葉を素直に読んでも、それだけじゃ成立しない。役者にとってはとても難しいところもあるけれど、最終的には美しいんですよね」。

“黒百合”という花が何を表しているのか、何度読んでもわからなかったと言う。それでも、作品世界に引き込まれた。

「読んでいて、いろんな幻想の中に入っていって、いろいろ巡り合っていって、今までにあまり見たことのないような世界へ連れて行ってくれるような印象があります」。

本作で白石が演じるのは「荒物屋の婆さん」。若い夫婦が暮らす侘び住まいの隣家の老女だ。

「そこいら辺にいそうなおばあさんですよ。本当にね。だけども、読んでいて普通のおばあちゃんにはしたくないなと思う役なんです。例えば、隣に住んでいる夫婦のうら寂しさが身に染みて、何とかしてあげたいって思ったり、時として予言めいたことを言ったりするようなおばあちゃんです。隣の若夫婦とはちょっと不思議な関係ですね」。

何気ない日常の中で存在感を漂わせる役柄。白石の真骨頂と言えるかもしれない。

◆『百物語』のおかげで、お客様が怖くなくなった


出演の決め手となった杉原邦生の演出について、白石は稽古場でのエピソードを語った。

「今日の稽古では、杉原さんが、『もっと賑やかに』って言ってくださったの」。

演出家からのダメ出しを喜ぶ白石。ベテランになるほどダメ出しをもらえなくなるのは当然かもしれない。まして演劇界の重鎮・白石に対するダメ出しはハードルが高いだろう。そう言うと……。

「重鎮なんて、ぜ~んぜん、そんなことないんですよ。私は演出家に何か言われるとうれしいんですよね。でも意外とダメ出ししてくれなくて(苦笑)。蜷川(幸雄)さんなんかでも、なんで私のことは何も言ってくださらないんだろうと思ってましたからね(笑)」。

一方、『百物語』の構成・演出を手がけた鴨下信一については「マンツーマンでやっていただいて、あの方は割合いっぱい厳しいことを言ってくださいましたよね」と振り返る。だからこそ今日のダメ出しがうれしかったのだと言う。

杉原の印象を問うと、こう答えた。

「緻密ですよね。それに、大きなスケールで把握してらっしゃる方。ものすごい優しい。あの方は」。

経験を重ねたからこそできる芝居はあるのだろうか。

「今ならできるかもしれない、と思えるようになった、そのきっかけをふと思い出したんです。実は、もともと私はとてもあがり性で。若い頃、劇団にいたときは、舞台に出る直前、袖で震えていたほどでした。本当にひどかったんですよ。今ではそういうこともなくなりましたが……。振り返ってみると、転機はやはり『百物語』だったのかもしれません」。

その『百物語』とは、1992年から22年にわたって続けられた朗読劇『百物語』シリーズのことだ。鴨下信一の構成・演出のもと、白石はたったひとりで怪談や幻想文学を語り続けた。その長い時間の積み重ねが、舞台に立つことへの恐れを静かにほどき、白石自身を大きく変えていったのである。

「『百物語』のおかげで、お客様が怖くなくなった。若い頃は怖かったですよ。目が怖い。みんなが見てるっていうことが。でも、あの『百物語』をやらせていただいた後は、袖から舞台の上に出てくるのが全く怖くなくなった。お客様と心が通い合って、自分が楽しくなるっていう感じでしたね」。

◆舞台に立つことは「職業」 でも「舞台の上でこそ息ができる」


朝ドラ『ひよっこ』や『すいか』など映像作品でも、白石が登場するだけで画面に独特の空気が生まれる。舞台と映像、その違いをどう感じているのか。

「映像の現場ではカメラが怖かったんですよね。舞台の場合はお客様の前に出ただけで楽しくなる」。

では、白石にとって舞台に立つとはどんな意味なのか。

「職業ですね」。

即答だった。

「ちょっと、舞台の上でこそ息ができるとか、そういう感覚になってきていますよね。年齢のおかげで楽になってる」。

舞台に立ち続けるために、日々続けていることがある。

「加圧トレーニングっていうのを、10年ぐらいトレーナーが来てくれてやっているの。年齢に合わせてそれほどハードにしないようにしていただいて、今は少し日にちも間引いたりして続けてるんです。もう少しお芝居をやりたいし、舞台に立ちたいから」。

泉鏡花の幻想世界に挑む84歳。稽古真っ只中の今、「黒百合で苦しんでる」と笑いながらも、その眼差しは舞台への揺るぎない情熱に満ちていた。(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)

舞台『黒百合』は、東京・世田谷パブリックシアターにて2月4日~22日上演。

元記事で読む
の記事をもっとみる