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「サル」が「秀吉」に変わった瞬間! 戦場に置かれても仇を討たないという選択、「嘘をつかない」生き方が導いたものとは【NHK大河『豊臣兄弟!』4話】

  • 2026.1.27

*TOP画像/小一郎(仲野太賀) 直(白石聖) 大河ドラマ『豊臣兄弟』4話(1月25日放送)より(C)NHK

 

戦国時代のど真ん中を舞台にした『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の主人公は仲野太賀が演じる豊臣秀長。兄弟の絆で“天下統一”という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の第4話が1月25日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

家に残された女たちのつらさ

桶狭間の戦いを描いた本放送では、織田信長(小栗旬)率いる織田軍と今川軍が激突する迫力満点の戦闘シーンが最大の見せ場でした。そうした中で、筆者が心に残ったのは、戦場(いくさば)に大切な人たちを送り出す女性たちの存在でした。

 

信長が幸若舞「敦盛」を舞う姿は雅で、美しく、見惚れた視聴者も多いと思います。しかし、実の家族である妹・市(宮崎あおい)は視聴者とは別の思いで見ていたと思います。戦場にこれから向かう兄が舞う姿を見つめる表情には不安が表れていました。また、兄が城を出る際には「ご武運を」と言葉を贈りながらも、その目には心細さと心配の色がにじんでいました。

 

こうした家族との別れは、織田家臣・浅野家でも同様でした。父・長勝(宮川一郎太)が「大きな武功を挙げてまいる。楽しみに待っておれ」と威勢よく言い放つのに対し、娘・寧々(浜辺美波)は「どうか ご無事でお戻りください」と、心配を抑えきれず、涙ぐみながら伝えていました。寧々は父が大手柄を上げることよりも、ただ戻ってきてほしいと願っていましたが、そうした思いを口にすることが許される時代ではありません。

 

また、直(白石聖)は小一郎に心の奥底に秘めていた“侍になって下剋上を果たしたい”という野心を気づかせた存在でした。それでも、小一郎の参戦は手放しで喜べるものではなく、出陣の見送りでは“いつもどおりに振る舞うことで、いつもどおりに帰ってくる”と自分に言い聞かせ、あえてあくびをしていました。

 

武将にとって戦は命に値するもので、家臣にとっては主君のために命を投げ出すのが当然とされる時代でしたが、人間の感情はそれほど単純ではありません。市、寧々、直の表情からはそんな複雑な思いが痛いほど伝わってきます。

 

当時の女性たちが愛する人が戦場へ赴く際に抱いていた本音については、本人が記した手紙や日記がほとんど残っていないため、数少ない記述を参考にしながら想像を巡らせるしかありません。

 

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憎き相手を殺さない選択

史実においても、桶狭間合戦は織田信長にとって大きな転機となる戦でした。信長は少ない兵で今川義元の約2万~2万5000人の大軍を破り、尾張国・東部地域を奪還し、尾張国北部の平定と敵対する美濃一色(みのいっしき)家の対処を進めていきます。また、豊臣秀吉にとってもこの合戦は織田家臣として出世を果たした重要なものとなりました。

 

本作において、信長が戦場で狙うのは今川義元(大鶴義丹)の首ですが、小一郎と藤吉郎(池松壮亮)の最大のねらいは、城戸小左衛門(加治将樹)を討ち、父の仇を討つことでした。

 

織田軍と今川軍の激しい合戦シーンは圧巻でしたが、その中でも小左衛門の活躍が際立っていました。信長が一目置く槍の使い手だけあって、敵兵を次々と薙(な)ぎ倒す姿は立派です。

 

藤吉郎は自分の近くに弓が落ちていることに気づきます。小左衛門が自分に背を向け、弓が目の前にある……父の仇を討つのにこれほどまでに絶好の機会はそうそうありません。

 

しかし、藤吉郎のこの試みは小一郎によって妨げられました。

小一郎(仲野太賀) 藤吉郎(池松壮亮) 大河ドラマ『豊臣兄弟』4話(1月25日放送)より(C)NHK

「悔しいが あいつは 味方にとっては なくてはならぬ男じゃ。少なくとも 今のわしらよりもあいつを殺したら わしらも生きて帰れぬかもしれぬ」

 

小一郎は自身の臆病さ、死への恐怖、他者を殺す怖さを素直に認め、織田軍の勝利と自分たちの生存のためにも、小左衛門を殺すべきではないと、藤吉郎を説得したのです。

 

一方、小左衛門は小一郎と藤吉郎が目障りであるとし、二人の父にしたように合戦の混乱に乗じて命を奪おうと試みました。しかし、その行為が仇となり、敵兵の弓矢が小左衛門を貫きました。

 

小左衛門の最期は小一郎と藤吉郎が自らの手で仇を討たずとも、天が討ってくれたと解釈すべきなのか……。織田軍が桶狭間合戦で偶然の重なりで勝利したように、小一郎と藤吉郎の願いも“偶然”にも叶ったのです。

 

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藤吉郎が信長から賜った“秀吉”の名 小一郎の“補佐役”としての人生の始まり

小一郎と藤吉郎は小左衛門が討ち果たした今川家の侍大将の首を、自分たちが討ち取ったものと偽って申し出ていました。

 

この功績に対し、信長から足軽組頭の地位を与えられた藤吉郎。彼は喜びも束の間、小一郎との合戦でのやりとりが、どうしても頭から離れません。小一郎から「駄目じゃ。それはわしらの手柄ではない」と止められ、「そしたらわしらも、こいつみたいに…いつかあっけなく死んでしまうわ」と注意を受けたことが頭から離れないのです。

 

そして、小一郎は信長に真実を伝えた上で、藤吉郎とともに謝罪します。「この首は わしらが取ったのではござりませぬ。城戸小左衛門様の手柄にござりまする」「わしらは たまたま 近くにおっただけでござりまする」

信長(小栗旬) 小一郎(仲野太賀) 藤吉郎(池松壮亮)ほか 大河ドラマ『豊臣兄弟』4話(1月25日放送)より(C)NHK

小一郎(仲野太賀) 藤吉郎(池松壮亮) 大河ドラマ『豊臣兄弟』4話(1月25日放送)より(C)NHK

すると、信長は「それは 幸運であったな」と落ち着きある声で伝え、「サル。これより お前は 足軽組頭として 大いに励め」と続けました。さらに、「秀吉と名乗るがよい」「その吉運にふさわしき名じゃ」と、名を贈ったのです。

 

また、小一郎には、自分のそばで近習として仕えるよう命じました。信長を勝利に導いたのは雨でしたが、それも小一郎から教わった“雨が降る前にとんびは低いところを飛ぶ”という知識があったからこそ、好機に変えることができたのです。

 

活躍した兵への褒美授与の前に、信長は「(雨が降ることを教えてくれた人の名を)忘れたわ。ハハハハハッ」と市の前で笑っていましたが、実は小一郎の手柄を認め、彼に深く感謝していたのです。

信長(小栗旬) 市(宮崎あおい) 大河ドラマ『豊臣兄弟』4話(1月25日放送)より(C)NHK

小一郎はこの誘いを荷が重いからと断りつつも、「兄に従い 兄と共に 殿にお仕えしとうござります!」と自らの決心を堂々と伝えました。戦乱の世を小一郎は藤吉郎の補佐役として駆け巡りましたが、この一言こそが彼の今後の人生を象徴しているといえるでしょう。

 

小左衛門のようにずる賢く、立ちまわりが上手い方が何事も有利に思えますし、「嘘も方便」ということわざもあります。それでも、小一郎は不正を犯さず正しく生き、藤吉郎も弟の忠告を受け入れて踏みとどまりました。そんな二人だからこそ、信長も彼らを特別に気に留めているのかもしれません。

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