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「大腸菌vsウイルス」を宇宙空間で実験した結果…

  • 2026.1.27
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

もし、私たちの腸内で日々繰り広げられている「細菌とウイルスの攻防戦」が、地球とはまったく違うルールで進む場所があるとしたらどうなるでしょうか。

その舞台として研究者が選んだのが、ほぼ無重力という特殊な環境にある国際宇宙ステーションでした。

米ウィスコンシン大学マディソン校(UWM)の研究チームは、大腸菌とそれに感染するウイルスを宇宙に送り込み、両者がどのように変化するのかを調べました。

その結果、宇宙空間で生じた変化が、地球上の薬剤耐性菌対策につながる可能性が示されたのです。

研究の詳細は2026年1月13日付で学術誌『PLOS Biology』に掲載されました。

目次

  • 宇宙では「細菌とウイルスの戦い方」が変わる
  • 宇宙で選ばれた変異が、地球の病原菌に効いた

宇宙では「細菌とウイルスの戦い方」が変わる

研究チームが実験に用いたのは、モデル生物としてよく研究されている大腸菌と、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージです。

地球上では、バクテリオファージは環境中を移動して、細菌に取り付いて侵入し、最終的に細菌を破壊します。こうした感染の流れは比較的よく理解されています。

しかし宇宙空間では、話が単純ではありません。

微小重力環境では、液体の対流や沈降がほとんど起こらず、微生物の動き方そのものが地上と変わります。

チームは、この違いが細菌とウイルスの進化にどのような影響を与えるのかを確かめるため、同じ実験を「宇宙」と「地上」で同時に行いました。

実験の詳細映像はこちら。音量に注意してご視聴ください。

25日間にわたる培養の結果、地上では比較的早い段階でウイルスが増殖し、大腸菌が減少しました。

一方、宇宙では初期の感染が遅れ、短期間では目立った変化が見られませんでした。

ところが長期的には、宇宙でもウイルスは確実に増殖し、細菌との攻防戦が成立していたのです。

この結果は、宇宙では細菌とウイルスの「戦いのテンポ」そのものが変化していることを示しています。

宇宙で選ばれた変異が、地球の病原菌に効いた

さらに興味深いのは、宇宙環境で生じた遺伝子変異の中身です。

解析の結果、大腸菌では、細胞表面の構造やストレス応答、栄養管理に関わる遺伝子に変異が多く見られました。

これは微小重力という環境が、細菌に独特の生理的ストレスを与えていることを示唆しています。

それに対抗するように、ウイルス側も変異を獲得していました。

特に、細菌の表面に結合するためのタンパク質では、地上とは異なる種類の変異が有利に働いていたのです。

つまり、宇宙では「有利な変異の正解」が地上とは変わっていたということです。

チームは、宇宙で有利だったウイルスの変異を組み合わせ、新たなウイルスを人工的に設計しました。そして、それを地球上の病原性大腸菌に対して試験しました。

対象となったのは、尿路感染症を引き起こす大腸菌で、これらの菌の多くは抗生物質に耐性を持っています。

その結果、宇宙由来の変異を組み合わせたウイルスは、従来のウイルスでは効きにくかった薬剤耐性菌を、より効果的に攻撃できることが分かりました。

宇宙での進化の過程が、思いがけず地球上の医療課題に役立つ可能性を示したのです。

宇宙実験が、腸内と医療の未来を照らす

この研究は、宇宙が単なる「極限環境」ではなく、地球では見えにくい生物の進化の可能性を引き出す実験場になり得ることを示しています。

腸内マイクロバイオームの理解や、薬剤耐性菌への新たな対策を考える上で、宇宙という視点は意外なヒントを与えてくれました。

チームは今後、より多様な細菌とウイルスを組み合わせ、人間の腸内環境に近い複雑な系を宇宙で調べる計画です。

大腸菌とウイルスの小さな戦いは、やがて私たちの健康を守る大きな武器につながるのかもしれません。

参考文献

Microbes in Space Mutated And Developed a Remarkable Ability
https://www.sciencealert.com/microbes-in-space-mutated-and-developed-a-remarkable-ability

Microbes mutated in space hint at biomedical benefits to humans on Earth
https://news.wisc.edu/microbes-mutated-in-space-hint-at-biomedical-benefits-to-humans-on-earth/

元論文

Microgravity reshapes bacteriophage–host coevolution aboard the International Space Station
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003568

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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