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従業員の「奨学金」肩代わり 企業が「返還支援制度」を導入する“切実な理由”とは 支援サービスの運営会社に聞く

  • 2026.1.25
企業の採用戦略として注目されている「奨学金返還支援(代理返還)制度」とは?(画像はイメージ)
企業の採用戦略として注目されている「奨学金返還支援(代理返還)制度」とは?(画像はイメージ)

大学や専門学校などの進学時に「奨学金」を借りることは、今や珍しいことではありません。しかし、卒業後に待ち受けているのは、完済まで10年、20年と続く長い返済の道のりです。若者の生活を圧迫する奨学金問題は、いまや個人の問題を超え、深刻な社会問題となっています。

こうした中、日本学生支援機構(以下、JASSO)が2021年に設立した「奨学金返還支援(代理返還)制度」が、企業の採用戦略として注目を集めています。制度の仕組みや、導入にあたっての意外な盲点などについて、奨学金返還支援サービス「奨学金バンク」を運営するアクティブアンドカンパニー代表の大野順也さんに聞きました。

奨学金の返還支援は人材を確保する上で重要

Q.実際に奨学金を利用している人はどれくらいいるのでしょうか。また、奨学金利用の背景について教えてください。

大野さん「まず、奨学金には返還不要の『給付型』、卒業後に返還義務が生じる『貸与型』があります。貸与型には、無利子の第一種と、有利子の第二種が存在します。

JASSOの調査によると、2024年度時点で大学生の約3人に1人が奨学金を利用しています。これほど多くの学生が利用する背景には、次の3つの構造的な要因があります。

【大学生が奨学金を利用する要因】(1)学費の高騰過去40年で私立大は1.8倍、国立大は2.4倍にまで上昇しました。

(2)親世代の年収停滞物価高に対し賃上げが追いつかず、家計からの教育費捻出が困難になっています。

(3)若年層の負担増急速な少子高齢化に伴う社会保険料の増加などが、若者の手取り額を押し下げています。貸与型奨学金の平均借入額は約310万円で、毎月約1万5000円を約15年かけて返還するのが一般的です。大卒新入社員の平均手取り額が約18万円であることを考えると、この金額がいかに大きいかは想像に難くないでしょう。いまや奨学金は、社会人生活のスタートラインで背負う「長期的な負債」となっているのです。

Q.最近では、返還の負担を企業がサポートする動きも広がっているという話を聞くようになりました。その仕組みと普及の理由は、どのようなものなのでしょうか。

大野さん「2021年にJASSOが、『奨学金返還支援(代理返還)制度』という仕組みを創設しました。これによって、企業が従業員の貸与奨学金の返還残額の一部または全部を、直接JASSOへ送金する形で、返還を肩代わりできるようになりました。2025年9月末時点で全国4154社が導入しています。

背景にあるのは、深刻な人手不足です。少子高齢化で労働力人口が減少する中、先述の通り『奨学金を借りざるを得ない若者』は今後も増え続けます。実際に、返還を抱えながら働く人は約490万人にのぼり、この層へいかにアプローチするかは、人材確保の観点から、もはや企業にとって避けては通れない経営課題なのです。企業がこの制度を導入する主なメリットは次の4つです」

(1)「若手人材」への強力なアプローチ若年就業者数がこの20年で121万人も減少する中、奨学金返還支援は若手への非常に高いアピール力を持ちます。熾烈な採用競争において、他社との明確な差別化要因となります。

(2)「人材の定着」による離職率の低減早期離職が課題となる昨今、返還を継続して肩代わりすることは離職の抑止力となり、長期的な雇用につながります。従業員の帰属意識が高まるだけでなく、再採用や教育にかかるコストの削減にも寄与します。

(3)「税制優遇」によるコストメリット企業が支払う返還額は、一般的に給与ではなく経費(損金)として算入できるため、法人税の負担を軽減できる可能性があります。従業員に同額の給与を上乗せして支給する場合と比較して、税務上のメリットが大きくなります。

(4)「企業イメージ」の向上この制度の導入はCSR(社会的責任)活動の一環として評価されます。社会課題の解決に取り組む姿勢を示すことで、企業価値が高まり、対外的なプロモーション効果も期待できます。

もちろん、従業員側にとっても大きなメリットがあります。

【従業員側のメリット】(1)負担の軽減毎月数万円の返還がなくなることで、生活に経済的・心理的なゆとりが生まれます。

(2)キャリアとライフプランの両立浮いた資金をスキルアップに投資したり、結婚や出産、住宅購入に充てたりなど、将来のライフイベントを前向きに検討できるようになります。

「奨学金返還支援制度」を導入する際の「壁」とは?

Q.これだけの恩恵が受けられるのであれば、全ての企業が実施すべきだと思いますが、導入に関して注意すべきことや、デメリットなどはあるのでしょうか。

大野さん「はい、実は、企業が単独で導入しようとすると、4つの高いハードルに直面します」

(1)公平性奨学金を返還している従業員と、そうでない従業員とのバランスをどう考えるか。新卒だけでなく、既存社員への対応についても検討が必要になります。

(2)ルールの整備一度始めると途中でやめにくく、返還方法や期間を含めた中長期的な視点での設計が求められます。

(3)規程の整備属人化を防ぎ、不確実性や曖昧さを避けるためにも、規定を整備する必要があります。

(4)費用対効果返還支援によって期待できる効果は、主に離職防止や入社意思決定の後押しですが、多くの人に認知させられるとは限らないため、円滑な人材確保は難しいと言えます。

特に中小企業においては、事務処理に割く人員の不足や、費用対効果が見えにくいと行った課題があり、導入を阻害する大きな「壁」となっているのが実情です。

Q.人手不足がより深刻な中小企業こそ導入すべき制度だと思いますが、そうした課題を解決する手段はないのでしょうか。

大野さん「当社が運営する奨学金返還支援プラットフォーム『奨学金バンク』が、これらの課題を包括的にカバーします。

『奨学金バンク』とは、求職中かつ奨学金の返還をしている人材を、人材不足に悩む企業に紹介し、その成功報酬として受け取る紹介手数料の一部を返還原資に充てる仕組みです。これにより、企業は一般的な採用費用と同等のコストで支援をスタートできるのです。先ほど挙げた、自社単独での導入における4つのデメリットも、全て解決することが可能です。奨学金バンクを利用することで次の4つのメリットが生まれます」

(1)公平性の担保当社が手数料の中から返還を行うため、導入企業内での社員間の不公平が生まれにくいです。

(2)ルールの整備が不要当社の規定ルールに基づいて返還するため、導入企業で細かな設定をする必要がありません。

(3)規程の整備の手間を削減できる事務手続きを当社側で行うため、就業規則の大幅な変更などの手間を削減できます。

(4)費用対効果「日本初の代理返還モデル」として、当社が広くプロモーションを行うため、自社単独では難しい「円滑な人材確保」まで実現可能です。

さらに重要なのが、寄付などの調達金および未使用の支援金などの余剰資金を、奨学金返還を支援している人へ再配分する仕組みです。奨学金バンクは、企業からの手数料だけでなく、個人・団体からの寄付金や、ブランディングを支援するプランによる収益など、複数の資金源を持っています。これらを返還支援が必要な人へ再配分し、支援期間を延長する仕組みがあるため、企業が単体で支援を行うよりも、はるかに効率的かつ効果的に「人材確保」と「奨学金返還支援」を両立できるメリットがあるのです。

Q.今後の展望について、教えてください。

大野さん「若者を苦しめる奨学金返還負担の増加は、決して個人の責任ではなく、社会構造が生んだ問題です。だからこそ、この問題に真摯(しんし)に向き合う企業こそが、若手人材に選ばれる企業になります。優秀な若手人材を獲得したい企業こそ、率先してこの解決に取り組んでいただきたいです。

そして、奨学金返還支援は、目の前の従業員を助けるだけでなく、未来の人材への投資でもあります。返還された資金がまた新たな借り手に渡り、新たな学びを支える資金となる。『奨学金バンク』は、この就学・就業のサイクルを、社会インフラとして下支えしていきます」

オトナンサー編集部

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