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母「つよ」の死、妻「てい」の妊娠……。命がめぐり、生まれ変わる。蔦重が見つめた“生”と“創作”の交差点とは【NHK大河『べらぼう』ベスト振り返りセレクション】

  • 2026.1.4

*TOP画像/歌麿(染谷将太) 蔦重(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

オトナサローネでは、2025年もさまざまな記事を掲載してきました。その中から今回は特別に、「大反響だった記事」をピックアップ! 本シリーズでは大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」について解説。ドラマパートに加え、当時の文化についての記事も大人気でした。
(集計期間は2025年1月~12月まで。本記事の初公開は2025年11月4日です)

 

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第42話が11月2日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

つよの死とていの妊娠

前回の放送回では、蔦重(横浜流星)と母・つよ(高岡早紀)は親子の深い絆を確かめ合い、蔦重はそのまま尾張へと旅立ちました。「んじゃ 土産 買ってきてやるよ」と出て行った蔦重でしたが、彼が帰宅した家には母はいませんでした。

つよ(高岡早紀)のお供え 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

つよは蔦重のもとに来た時もさらっとで、逝くときもさらっとでしたが、蔦重や歌麿(染谷将太)を見守り、快活なトークで場の雰囲気を明るくし、家族の一員として店を手伝い、その存在感は大きなものでした。

 

つよはマイペースに見えますが、やや鈍感な蔦重とは違い、他人の感情を察する力に優れています。加えて、人の懐に入ることに優れており、良好な人間関係を築くことを得意とする点では蔦重と通じるものがあるように感じます。

 

つよを演じた高岡早紀は明るく他人との距離感が近い一方で、成長した息子と再会した母親特有の、どこか照れくさく遠慮がちな心情を繊細に表現していました。また、蔦重や義理の息子となった歌麿に向ける、母としての慈愛に満ちた表情は視聴者に心温まる感動や懐かしさ、郷愁を呼び起こしました。

 

つよの死から間もなくして、てい(橋本愛)は頭痛に悩まされます。つよの晩年の病状も頭痛でしたが、ていの頭痛は新しい命の知らせでした。

蔦重(横浜流星) てい(橋本愛) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

ていは「この子は義母上様の生まれ変わりと信じております」と語り、蔦重は「おい ババアっこ」とお腹の子どもに呼びかけていましたが、命はきよから蔦重へ、そして生まれてくる子どもへとつながったのです。

 

孫がいてもおかしくない年齢での妊娠に 次ページ

ていは孫がいる年齢での妊娠を恥ずかしがり、蔦重にも遠慮していましたが、蔦重は子どもを授かったことに大喜び。お腹に子どもがいるていを優しく気遣うシーンもありましたが、ていに対して時々見せる優しさに夫婦仲のよさを感じます。

 

本作において、蔦重とていの間に子どもができましたが、史実では蔦重と妻について詳しいことは分かっていないだけでなく、彼に子どもがいたかどうかも判明していません。ちなみに、耕書堂を継いだのは番頭の勇助といわれています。勇助が蔦重の跡を継いだのは蔦重に子どもがいなかったからなのか、それとも蔦重が子どもの有無に関係なく、勇助を信頼して任せたのかは定かではありません。

 

歌麿の格闘

蔦重と歌麿の間には、徐々に亀裂が生じていましたが、市中の美人を描いた美人画の成功により、歌麿の心は蔦重から一層大きく離れてしまいました。

蔦重(横浜流星) 歌麿(染谷将太) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

歌麿の錦絵を求めて、年明けに集まる客を前に、蔦重は「歌麿先生も 江戸中の美人を 描き尽くすつもりでさ!」と、歌麿の気持ちを勝手に代弁。このときの歌麿の表情は険しく、想定外の発言に納得いかない様子でした。

 

作品観の違いも明らかに… 次ページ

また、二人の間には作品の制作の方向性にも乖離があります。蔦重は生産性を高めるため、歌麿の弟子が主に描き、歌麿が修正など少し手を加えれば、“立派な歌麿作”になると考えます。一方、歌麿は“一点一点 ちゃんと心を込めて描きてえ”と思っています。彼にとって絵はていが言うように“子のようなもの”だから。歌麿が絵を描いているときの姿を思い出してみると、どこか夢想的な表情を浮かべており、対象物の生命を感じながら描いている時間は、俗世界のわずらわしさから解放されているよう…。

 

蔦重との関係に悩む歌麿のもとに西村屋の主人・与八(西村まさ彦)が鱗形屋の次男であり、西村屋の二代目となった万次郎(中村莟玉)を連れて訪れました。

 

万次郎は歌麿の「虫撰」を見て胸が震え、歌麿とやりたいことを思いつく度に書き留めていたといいます。市中の男の男ぶりを売る当世美男揃え、摺(すり)を工夫した濃淡のみの錦絵など歌麿の好奇心を掻き立てるおもしろそうなアイデアがぎっしりと書かれたメモには、万次郎の熱意はさることながら、歌麿の絵への尊敬も伝わってきます。

歌麿(染谷将太) 万次郎(中村莟玉) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

 

万次郎(中村莟玉)のメモ書き 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

歌麿は万次郎の熱意とアイデアに感銘を受けつつも、彼との仕事は蔦重への恩義から躊躇していました。そんな歌麿の心を大きく揺さぶったのは与八の一言でした。与八は錦絵において蔦屋の印が上、歌麿の名前が下にあることを指摘し、蔦重に長い付き合いをいいことに都合よく利用されている可能性を示唆したのです。歌麿自身、このことを何気なく感じていたものの、錦絵の蔦屋の印と自分の名を改めて見つめ直すと、心中にあった蔦重への疑問が確信であるように思えてきます。

歌麿の絵 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

蔦屋の印と歌麿の名の位置は歌麿も意識していなかったように、蔦重も気づいていなかっただけなのかもしれません。この件は数あるうちの1つにすぎず、親しい間柄で遠慮が不要であるゆえ、仕事上本来気遣うべきことがなおざりにされていました。

 

決定的な亀裂 次ページ

歌麿がモヤモヤしている状態の中、蔦重は歌麿の同意を得ないまま、自分の借金100両を歌麿の絵50枚で返す約束を吉原としてしまいました。この件が大きな引き金となり、歌麿は蔦重のもとを離れることを決めます。

蔦重(横浜流星) 歌麿(染谷将太) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」42話(11月2日放送)より(C)NHK

また、蔦重と歌麿は見ている方向も違います。蔦重は歌麿を当代一の絵師にすることを夢見ていますが、歌麿はそうなることを望んでいません。幼少期の彼は蔦重の思いに胸を膨らませていたものの、人生においてさまざまな出来事が重なる中でこうした思いは消えていきます。歌麿は石燕(片岡鶴太郎)の教えもあり、絵師として名を高めることよりも、生きものの内面や命の輝きを表現することにやりがいを感じています。さらに、歌麿は“本や錦絵で江戸を元気にしてえ”という思いが蔦重ほどあるわけでもありません。

 

商いの才能を授かった男と、見えるものを絵師として写し取ることを使命とする男が運命的な出会いを果たしました。そんな二人が同じ道を寄り添って歩めないのは切ないことですが、異なる人間であるゆえ仕方がないことなのかもしれません。

 

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